2015.09.11

綴られた時間 第五回 清澄白河 古書・ドリス

東京・清澄白河 古書・ドリス 文・写真 久保田雄城

 

「ゴーレム」グスタフ・マイリンク / 今村孝訳 1973年(昭和48年)

 

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もう随分と昔の話だけど、僕には英国人の知り合いがいた。彼は一番町の英国大使館にパートタイムで勤めていた。大使館にパートタイマーがいるなんて、最初に聞いた時にはびっくりしたものだけど、考えてみれば、大使館員すべてがすべて正規職員である必要ないわけだ。

 

彼は両親が英国人だけれど、生まれも育ちもオーストリアだった。そんな理由かどうかは、わからないけれど、彼はウィーン出身の小説家、グスタフ・マイリンクが好きだった。

 

一緒に飲み歩いていた当時、彼はよくマイリンクの「ゴーレム」の話をしてくれたものだ。
細かい物語は覚えていないけれど、ユダヤ教に伝わるゴーレム伝説を基に書かれたもので、両性具有やら、地下の迷宮やら、グロテスクな情欲といった、あまり爽やかなとはいえない内容だった気がする。

 

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うろ覚えの、そんな「ゴーレム」をきちんと読んでみたくなったのには理由がある。彼との付き合いは、いつのまにか途絶えていたのだが、彼がフェイスブックを通じて、サンクトペテルブルクから数年ぶりに連絡をくれたのだ。

 

アマゾンを検索すれば、もちろんワンクリックで新本を手に入れられることは知っていたけれど、あえて僕はそうせずに、どこかの古書店で「ゴーレム」を探してみたいと思っていたのだ。

 

そんなある日、清澄白河のブルーボトルコーヒーで、気乗りしない人に会う用事があった。
その人との話し合いは、案の定うまくいかず、ちょっとブルーな気分のまま僕はそのコーヒーショップに一人留まった。

 

思い立って、iPhoneで「清澄白河 古書」と検索してみると、何軒か候補が出てきたけれど、「ゴーレム」が最もありそうな店が、古書ドリスだった。

 

東京の夏は突然終わってしまった。
9月の空は透き通るような青で、どこまでも高い。
カフェから古書店への道すがら、僕はそんなことを感じていた。

 

あと数時間もすれば、この街は夜を迎えるだろう
近くを流れる隅田川にも

 

夜が来た
放たれる矢の行き先は誰もわからない

 

暗闇でも水は優しく、明るい

 

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古書ドリス
住所: 〒101-0052 東京都江東区森下2丁目10-2 パークロダン101
電話: 03-6666-9865
営業時間 12時~20時
定休日 水曜日