2015.04.24

綴られた時間 第二回 ENGLISH BOOKS 1475-1900 A SIGNPOST FOR COLLECTORS

ENGLISH BOOKS 1475-1900 A SIGNPOST FOR COLLECTORS 文・写真 塩見 徹

 

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書物の歴史を紐解くと、古代エジプトのパピルス文章をその起源のひとつとすることができるだろう。パピルスはその繊維を絡み合わせ、膠着させることで、筆先が着地しうる平面を創り出す。それゆえ折り曲げることはできず、書き綴られた文書は、巻物として製作・保管された。紀元前300年頃、プトレマイオス朝のファラオによって建設され、世界最大の蔵書を誇ったとされるアレキサンドリア図書館。現代まで微かに残されたその栄華の痕跡の内には、パピルス文章が巻子本にして70万巻以上保管されていたと言う。
書物の源流を遡る中で避けることができないもう一つのパラダイムシフトは、一人のドイツ人の名とともにしばしば語られる。ヨハネス・ゲンズフライッシュ・ツール・ラーデン・ツム・グーテンベルグ(Johannes Gensfleisch zur Laden zum Gutenberg)。15世紀当時には、彼以外にも印刷術を手がけた人物は数多くいたとされているが、少なくとも彼の業績が今ある書影の成立に貢献していることは間違いない。1455年に刊行されたグーテンベルグ聖書を端緒とし、印刷術は英国を含めたヨーロッパ全土に急速に広まった。

 

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焦がしたアーモンド、桜のチップでスモークされた鹿肉、そして庭園の片隅に盛られた赤土の香り。印刷術の黎明期から19世紀までの英国書物の歴史を綴った”ENGLISH BOOKS 1475-1900”は、それ自体もまた書誌学の一部としての熟成香を身に纏う。現代では考えられないほど不揃いな小口が物語る姿は、効率的な機械生産に覆い尽くされた現代では、憧れの対象たりうるほどだ。
書物コレクターの好き者精神を十二分に満さんがために20世紀初頭に著された第1章の冒頭は、「失楽園」の著者でもある詩人ジョン・ミルトン(John Milton)の言葉によって始まる。

 

“A good book is the precious life-blood of a master-spirit, embalmed and treasured up on purpose to a life beyond life.”

 

数多の人々の手を渡り、今そこにたどり着く道程。その紙の表面をなぞる指先から伝わる肌理。凹凸と共に押し刻まれたアルファベットには、情報の伝達ではない、マテリアルの存在が、そこにはある。

 

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“ENGLISH BOOKS 1475-1900 A SIGNPOST FOR COLLECTORS”
著者: CHARLES J. SAWYER and F. J. HARVEY DARTON
全2冊 384pages + 431pages
初版刊行年:1927
22.5×15cm