2015.04.10

綴られた時間 第一回 神田神保町

東京・神田神保町 文・写真 久保田雄城

 

English Books 1475-1900 A signpost for collectors.

 

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ある晴れた平日の午後、春に陽気に誘われて僕は神保町の街を散策していた。

 

軒先の木製の箱に無造作意に入られている古書たち。
板張りの店内の床を持ったブックストアの名前は「かげろう文庫」。デザイン書や写真集が中心だが、ルイス・キャロルの著作や、思いの他、児童書が充実している。古書店としては珍しく女性客が半数を占めるようだが、これらのラインナップからすれば、むしろ当然なことなのかもしれない。

 

僕はそこで二冊組みの「English Books 1475-1900 A signpost for collectors」
という書籍を見つける。「イギリスの本か」と思う。

 

大昔、僕は大学を中退して、お茶の水の駅からほど近いところにある小さな出版社に就職した。確か2月に中退の届けを出して、翌月からその出版社で働き始めた。とりあえず就職にこぎつけたものの、未来へのヴィジョンを持てずに悶々としていた。

 

「僕はどうしてここにいて、これからどこへ行くのか」ドブネズミ色のスーツを着るサラリーマンなんてなりたくもなかったし、馬鹿にしていた。幸い、その出版社には誰一人としてスーツなんか着ている人間なんていなかった。というか面接の時に社内を案内して貰ったにそれを見て、ここなら会社員になってもいいかと思ったのだった。

 

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就職する直前まで、それをキャンセルしてロンドンへ片道の航空券で飛ぶか、悩んでいた。特に目的があったわけではない。1970年代が終わった後のロンドンのロックシーンは、ウイングスは解散し、ジョンは殺されて心躍るものではなかったし、僕の永遠のアイドル、ケイト・モスやオアシスの登場まではまだ時間が必要だったからだ。

 

イギリスの本ではないけれど、僕が入社した数年後、「イギリス的人生」という書籍がその出版社から刊行された。内容はほとんど覚えていないけれど、確か「イギリス人は反応は遅いけれど地に足が着いて、落ち着いていて、息が長く飽きることが無い」ということが書かれていたと思う。1983年ぐらいの話だ。ケイト・モスは9歳。高度資本主義前史だ。

 

そんな事をぼんやりと考えながら、2015年の春、僕は「English Books 1475-1900」を手にとりページをめくる。

 

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かげろう文庫
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