2015.03.13

ワインレッドのレザーの手帳と、僕が彼女をブランド化したわけ(後編)

手帳[第2回]

 

僕は前回、智美がワインレッドのレザーの手帳を使っているということだけで、彼女が気にいってしまった、と書いた。今日はその続き。

 

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スマートフォンなどのデヴァイス全盛の時代にあえて手帳を使うという選択。それは本人が望むか望まないかに関わらず、第三者には彼女の自己表現と映る。もちろんそれは手帳に限らない。どんな洋服を選ぶ、どこの靴を履き、どんなデザインのバッグを持つのか。それがすべて自己表現であり、同時に彼女自身のブランディングだ。

 

スマホより、より多く手帳にあるもの。デジタルとアナログ。往々にしてアナログは五感に訴えるものをデジタルより持っている。世の中の様々な分野でデジタル化が進むと、アナログはそれ自体が価値を持つようになるのかもしれない。もちろん智美がそこまで考えて、手帳を使っているわけではないだろうが。

 

その青山でのミィーティングの後も、僕らはちょくちょく仕事で会った。相変わらず、彼女は素敵だった。そうこうする内に、僕自身が彼女をブランド化していることに気づいた。恋心ではなく、ブランド化だ。つまり憧れるわけである。

 

どのようにして、ブランド化は始まったのか。きちんと考えてみよう。最初に表参道の駅で会った。そう、初対面だ。その時、咄嗟にお互い手を差し伸べて握手をした。おでこを出したストレートのロングヘアー。165センチを越える長身。均整のとれたプロポーション。まずこれだ。これらは全て僕の好みだった。そしてカルバンクラインのEternity Momentのフレグランス。会話している時の、ちょっと低めな落ち着いた声。そういったイントロで、僕は既に智美が僕の好みのタイプ(しつこいが恋心とは別のものだ)であることはわかっていた。そして、その留めがワインレッドのレザーの手帳だ。

 

僕が彼女をブランド化するまでの過程はこんなところだろう。時間はせいぜい30分。視覚は、彼女の身長やプロポーション、ロングヘアーなどを捉えた。僕の触覚は彼女の手を捉えた。僕の聴覚は彼女の声を捉えた。僕の臭覚は、彼女のフレグランスを捉えた。彼女の何かが僕の味覚を除く五感に訴えてきたのだ。そしてそれが僕が彼女をブランド化した理由だ。そして遅かれ早かれ僕は彼女の味覚をも捉えることになるだろう。

 

(文・久保田雄城/写真・塩見徹)
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