2014.07.02

想いをのせた花が、人と人の心を繋いでいく[後編]

塚田有一さん/フラワーアーティスト、ガーデンデザイナー
 

 現在、拠点とする西神田の東方學会で、四季折々の花をテーマに、生態や構造、直接的な感触、その花が登場する物語文学を併せて紹介し、朗読とともに花をライブで活けていく『緑蔭幻想詩華集(アンソロジー)』、おくのほそ道を辿りながら空想の旅と節供や折々の植物の話をし、花活けも行う『緑の東方學』など、ユニークなワークショップを開催する塚田さん。また、震災後に立ち上げた『花綵(はなづな)列島』プロジェクトも全国各地を拠点に進められている。
 
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「震災を通して、この風土に生きることとは何かを見つめ直したいと感じたことから始まったプロジェクトで、“めぐり花”という活動をしています。ワークショップ形式で一般の方に参加してもらって、みんなでひとつの作品を仕上げていくインスタレーションです。その土地に咲く花を自らの手で摘みとって、一輪ずつ順番に大きな花器に活けていく。どんどん表情を変えていくから、作品の周りをめぐりながら、みんなもテンションが上がっていくんですよ(笑)。「ここにうちにある花を活けたい」と自宅の庭からお花を持ってきてくれた人もいました。場所が変われば手に入る花も変わるし、季節によってもまったく違う作品ができあがるんですよ。
 “花綵”とは花の首飾りという意味で、海に浮かぶ日本の島々の連なりを、花を繋いだ首飾りに例えて生まれた言葉です。4つのプレートが合わさった地形の日本は植物の層も複雑で、日本の植物の固有種は世界で最も多いといわれています。
 豊かな風土に恵まれたこの国には、多様な物語や暮らしがあったはずなのに、時代の流れと共に平らにされてきてしまった。風土や風景が底に生きている人の情緒、五感を育んできたはずです。その土地に生えている植物を摘んで、香りを嗅いで、自分の手で活ける…そんな経験を通して、忘れられてしまった感性を思い出せたらいいなと思っています。

 
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 塚田さんと話をしていたら、子どもの頃、母に喜んでもらいたい一心で、手が汚れるのも構わずにたんぽぽをたくさん摘んで持ち帰ったことや、叔母に川原でシロツメクサのかんむりの作り方を教わったこと……花にまつわる思い出がいくつも蘇ってきた。
 めぐり花に参加する人々は、活ける花にどんな想いを託し、隣り合わせた人とどんな言葉を交わすのだろう。

 
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「この“めぐり花”をライフワークにしていきたいなと思っていて。モチーフになっているのは、松尾芭蕉が大成したとされる連句。しばりといい、方法といい、本当によく寝られた遊びだと思います。四季を織り込まなくてはいけないとか、月や恋、花などのトピックを作らなくてはいけないとか。一通り出来上がると調和の取れた絵巻のようなのですが、歌を詠んだ人それぞれが光っているし、引き立て合ってもいる。連句もめぐり花も、そのときだけの旅のようでもあり、ここではないどこかを引き寄せる技術でもあると思います。めぐり花は、儚くてちいさな“庭”なのです」
 
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 最後に塚田さんに、今さらではあるが「将来の夢は?」と尋ねてみた。
「芭蕉のように生きられたらいいなぁ…。旅をしながら人生が終わればいいな、なんて思うけど、なかなか難しいですね(笑)。でも、常に流動している身近な植物に身体で潜るということができれば、いつでもそこは旅路になる可能性があります。旅に出れば新しくなって、そしてまた旅を続けられる。それから、茶道も能も、今“伝統芸能”と呼ばれているものって、はじまった当初はもっとアバンギャルドだったはずなんですよ。今はばらばらに存在しているかに見える芸能や文芸を、×(かける)植物で結びつけていけたら」
 

 塚田さんが想いを託した植物は、さまざまに形を変えながら、人々の暮らしに彩りと豊かさをもたらす。その活動がいつか国境を越え、地球をぐるりと“花綵”で繋げることができたら…なんて、ちょっとロマンティックすぎるだろうか。
 

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プロフィール
塚田有一(つかだゆういち)
(有)温室代表
立教大学卒業後、草月流家元アトリエ、株式会社IDEEを経て独立。
茶花からランドスケープデザイン、2011年に立ち上げた「花綵(はなづな)列島」プロジェクトなど、
花や緑にまつわるさまざまな活動を行う
 

(文・河西みのり 写真・西原樹里)