2014.05.28

黙っていても時間は過ぎていくのだから、毎日は楽しい方がいい[後編]

篠 隆二さん/グラフィックデザイナー


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大切なのは“できるかどうか”ではなく、“やりたいかどうか”

 さまざまなブランドがシーズンごとに展開するものをはじめ、街ですれ違う人が手にしていた鞄など、デザインのヒントはあちこちにあるという篠さん。

 「一般的に出回っているヌメ革は1/2頭分で約2万円。そこから鞄は1~2個しか作れないんです。かなり高価になってしまうので、ネットオークションに出回っている安いものを買っています。帆布も高価な素材ですが、B級品なら定価の1/4になるんですよ。B級品といっても目で見てわかるような傷は少ないし、まったく問題ありません。
 ただ、革については、手元に届くまで厚みや質感がわからない。イメージと違うことも多いので、デザインありきで素材を選ぶというよりは、素材に実際に触れてみてからデザインが浮かぶという感じですね。いま作っているのは、娘用のミニボストンです。こんなものを作りたいなと思いついて、自主的に「こんなの欲しくない?」と娘にプレゼンをしたんですよ(笑)」

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 お嬢さんだけでなく、奥様や二人の息子さん達も篠さんの作品を愛用中。家族以外からのオーダーも請け負っており、篠さんが持っている鞄を見て「これ(と同じもの)が欲しい」と頼まれるケースも多いのだとか。
 「自己満足じゃつまらないんですよ。ここ数年の自転車ブームの間も、知り合いに頼まれて20台くらい作ったんじゃないかな。何かを作るという行為そのものも、もちろん楽しいけれど、それ以上にやっぱり人に喜んでもらえることが嬉しいですよね。趣味に限らず、仕事も同じことがいえます。単純なことだけれどクライアントが喜んでくれれば嬉しいし、次の仕事へのモチベーションも上がる」

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 自分にもできるんじゃないか――少しでもそう感じたものに対しては、挑戦せずにはいられない篠さんの体質が、本職であるデザインの業界へと導いたともいえる。私立の工業高等専門学校を卒業後、篠さんが就職したのは写植屋だった。

 「工業高専に進んだのは、勉強が苦手だったからです。手に職をつけようと思ったんですね。初めに就職した会社では、版下を作っていたんですが、デザイナーから送られる指定原稿を見ていたら、「これ、自分にもできそうだな」と思ってしまったんです(笑)。初めから目指してデザイナーになったわけではありませんでしたが、この仕事をはじめてからもう25年間。ずっと楽しんでやっていますよ。
 実は、アパレルの業界に進めばよかったなぁと少し後悔している部分もありますね。でも当時は、こうしたモノづくりが、職業として成り立つという発想もなかった。将来の選択肢として何があるのか、自分は何がしたくて、何ができるのかもわからなかった。今の時代を生きている若い世代の人たちは、ビジネスモデルが多い分、あの頃の僕らよりも夢を描きやすいですよね。一方で、情報過多なせいで、頭でっかちになってしまって動けなくなっている人も多いなぁとも思う。ちょっとでも面白そうとか、やってみたいと思ったことにはどんどん挑戦した方がいい。失敗したってきっと、面白いから

 取材終了後、現在は倉庫になっているという事務所の下の部屋を覗かせてもらったところ、組み立てられていないものも含めて自転車がずらり。どうやら、自転車熱もまだ冷めていないようだ。

 「いつかここを工房にしたいと思っているんですよ。学校の図工室のように部屋の真ん中に大きなテーブルを置いて…」と篠さんは瞳を輝かせながら構想をめぐらせる。まだまだやりたいことは尽きないし、また別の何かにのめり込むこともあるかもしれない。
 成熟した男性の中に、思春期の少年のような純粋さが見え隠れする篠さん。その表情を見ていると、人生を楽しむのが上手な大人は格好いいなぁと感じる。


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篠隆二(しのりゅうじ)
シノ・デザイン・オフィス代表。育英工業高等専門学校卒後、印刷会社、広告制作会社を経て’95年独立。
以来、青山界隈に事務所を構えていたが、2012年より事務所を自宅がある中野に移し、デザインと合わせてクラフトワークの道を模索中。



(文・河西みのり 写真・西原樹里)