- 2014.05.14
黙っていても時間は過ぎていくのだから、毎日は楽しい方がいい[前編]
篠 隆二さん/グラフィックデザイナー
事務所の扉を開けると目に飛び込んでくるのは、重厚感のある工業ミシン。ポシェットやトートバッグなど、至るところに篠さんが作ったレザー作品が並んでいる。断っておくが、篠 隆二さんの本職は、広告や専門書などの装丁を手がけるグラフィックデザイナーである。
物心がついた頃から“もの”を作ることが好きだったという篠さんのルーツを辿れば、1970~80年代にまで遡る。THE NORTH FACEやSierra Designsなど、おなじみのアウトドアブランドが日本に進出してきたこの時代、男性たちの間ではマウンテンパーカーやワークブーツといった“ヘビーデューティ ファッション”が大流行していた。当時、中学生だった篠さんも、創刊したばかりのBE-PALやPOPEYEのページをめくりながら、アウトドアファッションに憧れを抱いていた一人だったという。
「海外ブランドの製品は高くて、中学生のお小遣いじゃとてもじゃないけど買えない。だから「自分で作れないだろうか」と考えたんですね。当時、新大久保にあったアウトドア用品店へ行ってナイロンの生地を買ってきて、雑誌を参考にしながらと自分でデザインを考えて…。裁縫が得意だった母にミシンの使い方を教わって、わからないながらも見よう見まねで縫っていました。もちろん、服飾デザインに関する知識もまったくありません。ただ自分もこんな鞄がほしいという一心でした」
モノづくりの楽しさを知った篠さんが次にハマったのは自転車。こちらもやはり、当時人気だったマンガ「サイクル野郎」の影響で、スポーツサイクルをカスタマイズしていたのだとか。さらにバイク、カメラ、釣り……と幾度かのブームが訪れるが「いままでいろんなものにのめり込んできたけれど、根本的なところは中学生の頃と変わってないと思いますね」と笑顔を見せる。
一度はまると、とことんまでのめり込むタイプの篠さんが、数年前からはまり続けているのが、レザーを使った作品だ。「きっかけは、これなんです」と見せてくれたのは、使い込まれた厚手の帆布素材のトートバッグ。
「これにポケットを付けたらかっこいいよな、と思ったのがはじまりでした。表地に皮を一枚貼ればポケットができるな、どうしたらいいんだろう…と思って、東急ハンズに行って聞いてみたんです。僕も含めて“デザイナー”って、自分は器用だと思っている人が多いと思うんですよね。やる気になれば、なんでもできると思っているところがある(笑)」
手縫いによる小物づくりからスタートしたが、徐々にそれではもの足りなくなり、今では大小さまざまな鞄や、帆布と組み合わせた作品なども手がけるように。使用する革は牛のヌメ革が最も多く、その他には馬やヤギ、豚などさまざまで、革、帆布ともに、主にネットを通じて購入している。実際に篠さんの作品を手に取ってみると、内張や底板、ポケットなど内部も作り込まれており、熟練職人が手がけた作品そのもの。基本的には“いま欲しいもの”を作るため、既製品にはない独創的なデザインも多い。
篠隆二(しのりゅうじ)
シノ・デザイン・オフィス代表。育英工業高等専門学校卒後、印刷会社、広告制作会社を経て’95年独立。
以来、青山界隈に事務所を構えていたが、2012年より事務所を自宅がある中野に移し、デザインと合わせてクラフトワークの道を模索中。
(文・河西みのり 写真・西原樹里)
[後編]へ続く
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