2018.08.14

楽しいを1冊に詰めこんで、国や年齢の垣根を超えて絵本で繋がる【後編】

miyauni(大藤めぐみさん:鈴木雄大さん)/絵本作家
 

 今夏の浅草での個展はイタリアボローニャ国際絵本原画展で入選した「ねずみくんとおおきなチーズ」に登場するねずみのズーズーがメインだ。主人公のねずみくんの夢の世界を描いた作品で、改訂版が今年の7月に出版されたばかりだ。ちなみにズーズーは絵本に出てくる主人公、ではなく、主人公のそばにいる子だ。今後、ズーズーのキャラクターを絵本にしていきたいという願望があると言う。
 

「ねずみくんとおおきなチーズ」や今回の個展でお目見えしたズーズーは、すべてちぎり絵で作られている。miyauniのお二人が「ちぎり絵」という技法に着目したのは偶然のたまものだったとか。
 

 そもそも二人がイタリアボローニャ国際絵本原画展に参加したきっかけは、同じバイト先で働いていたことがある米津祐介さんだったと言う。米津さんとはバイト時期は被っていなかったが、長年働くスタッフに米津さんの存在を教えてもらったそうだ。そして米津さんがボローニャ国際絵本原画展で入選したことを知り、二人で巡回展を見に行った時、応募してみようと発起したそうだ。ちなみにボローニャ国際絵本原画展は、絵本を作らなくても、ストーリーを感じさせる5枚の絵で応募することになっているのだそう。ただ、その時すでに応募締め切りまでに残された時間は少なかったとか。
 


 

「もともと月が欠けているというアイデアだけがあったんです。それを形にしようとして、様々な技法を用いて試行錯誤していたのですが、気付いたらボローニャ国際絵本原画展の応募締め切り当日になってしまって・・・。その時ちぎり絵で月が欠けている様子を描こうと閃いて、すぐに紙を買いに行きました。それから消印に間に合うように急いでちぎって5枚の絵を完成させて・・・。結果的に絵本が入選を果たしたのはとても嬉しかったです。それからちぎり絵を用いるようになりました。」
 

 夫婦で絵本を作るにあたって、基本的にはキャラクター原案を鈴木さん、パターンデザインなどは大藤さんが担当している。鈴木さん曰く、二人の絵本作りは「卓球のラリー」のようなものなのだとか。二人でアイデアを出し合って、それを擦り合わせながら1冊の絵本に仕上げていく。
 

「ちぎり絵は二人にとっては良い意味で技法にこだわっていない方法だと思っています。初めてのものだとしても、作品にぴったり合っているものならチャレンジして取り入れていく。この感覚を大事にしていきたいと思っています。」
 

 実は「ねずみくんとおおきなチーズ」という絵本を作った時も、もともとネズミのキャラクターありきで絵本を作ろうとしたわけではなかったのだとか。二人は絵本作家として活動する前に、2014年に「CHEESE MOON」というイラストの個展を青山で開催しており、当時はいろいろな動物を題材にした作品を展示した。そのメインキャラクターに今とは違うねずみのものもあり、この時は月をチーズだと思って、ワインを飲んでいるねずみのキャラクターだったそう。このキャラクターがきっかけで、のちに二人の絵本作家デビューにつながる「ねずみくんとおおきなチーズ」が生まれた。
 

 プライベートでも仕事でもずっと一緒というmiyauniの二人。時には作品の方向性の違いや、イライラが募って喧嘩に発展したりはしないのか聞くと、絵本制作を始めるようになってから特にそういったことは一切ないのだとか。そんな二人にお互いの印象と、自分にとっての絵本とはどのような存在なのかについて聞いてみた。
 


 

「とても素直な人だと思っています。すごく素直だから、いろいろな人にとても影響を受けていましたね。何かを始めるときはみんな通る道だと思って見守っていました。なので、そんな時期が5年くらいあり、初めて一緒に絵本を作れたときはとても嬉しかったです。」
 

「もともとマザー・テレサに憧れがあって、そういう仕事がしたいと思っていました。絵本は世界共通。言葉を翻訳してもしなくても、楽しめる絵本もあるし、国を超えて共通認識のものになりうるものだと思っています。世界平和につながると言えば大げさかもしれないですが、絵本を通して感じる喜びとか楽しみは、どんな状況にいる人も、年齢を超えて楽しめる感情だと思います。それは読者同士だけでなく、作者である私たちも同じ。そういった意味でも、絵本は場所や国境の垣根を超えて、みんなと仲よく繋がれる存在だと思います。」
 

 優しい笑みをこぼしながらこう話してくれたのは大藤さん。ボローニャ国際絵本原画展への応募も、一人だったら諦めていたかもしれないが、二人だからできたのだと話してくれた。
 


 

「めぐちゃんは、もともと芯がとても強い女性なんです。絵本を作るときも、最初めぐちゃんに「好きに描けば良いんだよ」と言われていたんですが、好きに描くということがどうすれば良いのかわからなくて。当時は尊敬している人の技法などを自分に取り入れていましたが、今は自分で好きなように描けていると思っています。」
 

「言葉で言わないと伝わらない作品は自分たちの絵本ではないと思っています。絵本は「こういう作品です」と前もってあらすじやコンセプトを話しておかなくても、一見でわかってもらえるもの。一種のコミュニケーションツールだと思っています。」
 

「どちらかがストレスを感じていたら上手くいかないと思うけど、お互いストレスを全く感じていない。今のようにお互いにとってクリーンな環境のまま絵本作りを一生続けていきたい」とも鈴木さんは話してくれた。
 

 現在は“ユニバーサル”な絵本の制作を思案しているというmiyauniの二人。本という媒体を活かしつつも、世界共通で楽しめるような、今までにないものを形にしたいという思いも明らかにしてくれた。プライベートでは定期的に引越しをして、海外にも住んでみたいと言う。夫婦であり、「miyauni」という絵本作家でもある二人が、今後どんな楽しみやワクワクが詰まった絵本を見せてくれるのか、考えるだけでもとても楽しみだ。
 


 

◆プロフィール
・miyauni
大藤(おおとう)めぐみと鈴木雄大からなる絵本作家。2016年「ねずみくんとおおきなチーズ」でイタリアボローニャ国際絵本原画展入選を機に国内外で活動。著書に、日本で「ぱたぱたえほん」(エンブックス)、フランスで「Cherche et trouve le caméléon」(MANGO JEUNESSE)。
・大藤めぐみ
女子美術大学芸術学部デザイン学科卒業
・鈴木雄大
パレットクラブスクールイラストコース16期卒業
共通の趣味:海外旅行 美味しいものを食べること
miyauniホームページ:https://www.miyauni.com/
 

◆今後の個展情報
・Fairy come out! ~ようせいさん、でておいで!~
場 所:GALERIE CENTENNIAL(http://www.14thmoon.com/index.html
    大阪市中央区大手通り1-1-10
電 話:06-6943-4060
期 間:2018年9月12日(水)~21日(金)
時 間:12:00~19:00(土・祝・最終日は12:00~17:00)
休館日:9月16日(日)
 

・はじめまして、ねずみのズーズー
9/22(土)~10/3(水)
場 所:サコダアートギャラリー(http://www.sakoda-art.com/gallery/
    兵庫県西宮市田代町19-12 Beehive西宮
電 話:0798-66-0667
期 間:2018年9月22日(土)~10月3日(水)
時 間:10:00~18:00(最終日は~17:00)
休館日:なし
 

◆取材協力
BEARS TABLE
東京都台東区雷門2-15-1 デコルテ浅草ビル1F
電話:03-6231-6530
営業時間:11:30~18:00
定休日:火曜日
http://bearstable.jp/
 

(文・橋詰康子 写真・西原樹里)