- 2016.06.15
世代を超えて心が躍る瞬間を作りだす【前編】
吉原孝洋さん/飴細工師
古い町並みが残る千駄木の街の中、坂の勾配に沿うように小さなあめ細工屋さんが店を構えている。2008年からその地に根を下ろしたという「あめ細工吉原」は、飴細工師・吉原孝洋さんが立ち上げた、日本初・世界初の飴細工専門店である。
飴細工はそもそも、縁日やイベントなど屋外で販売されていることが多い。歴史的に見ても、もともと外で細工し売られていたものだった。しかし外だとどうしても環境の違いで飴の状態が異なったり、混雑具合で人を待たせるために思った通り手間をかけることができないこともあるという。
そもそも吉原さんがお店を構えた理由は、飴細工を何時でも見る事ができることで皆に飴細工のことを知ってもらい、日本の伝統として後世に残ってもらいたいという思いからだった。そうしてお店を構えた結果、ベストな状態で作れる環境が出来たので、従来の屋外での販売の時よりもより良い飴細工が作れるようになったという。「あめ細工吉原」は、オーダーしたものを目の前で作り上げてもらうことができ、それを実際に手にすることができるという、飴細工をとことん堪能できるお店なのだ。
「思い浮かんだイメージをもとに、飴細工のモチーフを決めます。記号や建物ではなく、柔らかな曲線を描いている動物などが多いですね。その動物たちの動きをイメージして、飴細工を作ります」
店内にはたくさんのかわいらしい飴たちが所狭しと並んでいた。コロンとした形のものから、技術的に難しそうな細工が加えられているものまで、見ていて飽きないほどに。
「全部で100種類ぐらいあるんですけど、体が慣れることでさらっと作れるようになります。技術的な面でいえば、飴を細く引き伸ばすものが難しいんですけど、表現としては丸い形のものが難しいです。サイとかカバも難しいですし、ネズミとモルモット、ハムスターの違いをつけて作るなんていうのも難しいですね」
注文すると実演販売もしてくれるあめ細工吉原。実際に目の前でその技を見せてもらったが、その手際の良さは流石としか言いようがない。
「飴は取りだしておよそ3分間で固まってしまいます。3分、という時間は実はあまり意識していないのですが、飴の状態を見たり指先で感じながら、固まる前に形を作り上げなければいけないので、飴の機嫌をうかがいながらの作業・・・飴との対話ですね」
「飴細工で使用する飴の主原料は水飴です。水飴だけで作ると甘みがほとんど感じないので、うちの飴は甘味を足したり香りを付けたりして、食べてもおいしいように工夫しています」
お店に入ると、リアルなのにキュートな動物たちの飴細工だけでなく、思わずにっこりしてしまうような、ほほえましいモチーフに目を引かれた。お店のイメージキャラクターでもある真っ白な「あめぴょん」である。店頭に並べられている飴のあめぴょんは今にも動き出しそうなものばかりで、躍動感がたまらなくかわいらしい。
「お客さんにリクエストされることもあるんですが、既存のキャラクターなどは著作権の問題で作れなかったりします。あめぴょんは僕が考えたキャラクターです。飴細工はあくまでお菓子と考えているので、なるべく着色料を使わないように白いものにしました。あとは動きをつけやすいモチーフを選んだりします」
私見だが、昔縁日などで見かけた飴細工は、なんだかぶっきらぼうな形なのに幼心をくすぐられたのに、手に入れただけで満足してしまった。当時はあくまで「もの」としてしか見れなかったのだ。
しかし幼い時に見た飴細工を忘れられなくて、飴細工師になったという吉原さんは、そうではなかったのだろう。吉原さんにとっては、あくまで飴細工は「お菓子」なのだという。
「お菓子として作るので、グロテスクなものよりはかわいいものを意識しています。曲線を活かして作ることで、緩やかな流れになっておいしそうに見えるんですよ。色がたくさん入っているクジャクなど模様がたくさん入っているものは、色を表面に多めに塗ることになるので少し抵抗がありますね。もちろん工芸品として作ってもいいんですが、人の口に入るものだと考えると葛藤があります」
伝統工芸品でもあり、お菓子でもある飴細工。日本ならではなのかもしれない、相反しそうなその二面性は、相容れないもののはずなのにすんなりと私たちの心の中に馴染んでいる。また、目の前でみるみるうちにでき上がっていく飴細工は、子供だけでなくどんな大人心も沸かせる効果があるのではないだろうか。
オーダーしたものを目の前でつくってもらい、それを実際に手にすることができるということは、日本伝統の飴細工ならではの醍醐味なのだと吉原さんは言う。確かに、目の前で作り上げられていくという工程があるからこそ、私たちは飴細工に心惹かれていくのだと思う。そんな大人も子供も心躍る瞬間を感じるであろう3分間が、千駄木でいつでも楽しめるのだ。
◆プロフィール
吉原 孝洋 (よしはら たかひろ)
幼い時に見た飴細工に憧れ、2002年から師匠につき活動を開始。2008年には日本初となる飴細工の専門店「あめ細工吉原」をオープン。その後はテレビや雑誌など、様々なメディアで飴細工を披露するなど、懐かしくも新しい飴細工を作りだすお店の代表飴細工師として活躍中。
「あめ細工吉原」ホームページ:http://ame-yoshihara.com/
ブログ:http://blog.ame-yoshihara.com/
FACEBOOKページ:https://www.facebook.com/amezaikuyoshihara
(文・橋詰康子 写真・西原樹里)
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