2015.10.14

精巧さを追わず、独特の風合いの「命」を吹き込む【前編】

河本徹朗さん/イラストレーター・立体造形作家

 

 河本さんは、平面・立体・半立体の3つのスタイルでイラストを制作している。その作品の多くは、「ほのぼのとした」「癒される」といった形容で評されている。実際に、作品を目にしたほとんどの人が、同じ印象を抱くに違いない。船や電卓に手足が付いた姿形は微笑ましくて、誰しもが「ムフフ」と気持ちが和んでしまうものばかりだ。

 

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 しかし、当の河本さん本人は「これまでけっこう、今風で“とんがった”ものを作っているという意識でいたので、クライアントや同業の仲間たちが持つ印象との間にギャップがあることに数年前、やっと気付いたことが新鮮でした」と笑う。

 

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 もともと河本さんは、美術専門学校の在学中に卒業制作の資金作りで紹介されたアニメ背景制作のアルバイトとして就き、そのまま契約社員として働きながらコンテストに応募し続けていた。初めて入選した作品が講談社の「月刊PENTHOUSE」のアートディレクターの目に留まって依頼されたのが、初仕事だった。「制作会社では、アニメ映画の背景を描いていて、サラリーマンが自分には向いてないとも思っていました。アニメを描きたくて入ったわけでもなく、その頃はけっこう忙しかったので心身ともに疲れてしまったことと、まだ若かったので辞めるいい機会だと思い、フリーになりました。フリーと言ってもバイトをやりながらですが……」。契約社員ではあったが、あっさりと辞めてフリーとして活動を開始した。それが、24歳の時のことだ。

 

 その後、30歳半ばを前にして、モノの擬人化イラストに取り組み始めた。ちょうど、バブル経済が弾け飛んで、一流と言われていたクリエーターが浮世離れしたギャラを貰っていた時期を「あの時の景気は何だったのか?」と、クリエーティブ業界が正気を取り戻した時期だ。

 

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 「勝手な予想ですが、予算の関係で私たちの後発組が重用され、とても忙しい毎日を送っていた記憶があります」。企業の宣伝活動において、雑誌広告への出稿や、PR誌・顧客向けの会報などの印刷メディアやプレミアムグッズによる宣伝活動に今よりもはるかに重きが置かれていた時代で、有名メーカーや百貨店、金融機関などから多くの仕事が舞い込んだという。

 

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 これまでの河本さんの作品には、「モノを擬人化したキャラクター」がたくさん登場する。身の回りに普通に存在する「道具やモノ」を、独自の着想で“擬人化”させてしまうのだ。河本さんの手によって今まで、白熱灯や電卓、椅子、船、ポット、万年筆まで、あらゆものが擬人化されている。「当時はまだ、モノの擬人化の作風を持つイラストレーターは数が少なかったから」だというが、オファーが続いたのには理由がある。

 

 ちょっと失礼な書き方だが、多くの作品は素人目に見て「こんなの簡単に描けそうだし、作れそう」と思う人が多いかもしれない。でも、それこそ素人の「感想」にしか過ぎないと思う。洗練された“着眼点”とあわせて、立体造形として具現化するセンスの良さと高度な技術がなければ、プロの仕事ではなく素人の陳腐な作り物で終わってしまう。「擬人化って、簡単に言えば、ただ顔をつけるだけですむんです」と謙遜するが、「これからは、より立体の作品作りに力を入れていきたい」という言葉の裏には、自信のようなものが垣間見えた。

 

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◆プロフィール
河本 徹朗(かわもとてつろう)
1959年、名古屋市生まれ。
1980年代初頭から、広告・出版関連の印刷物を中心にイラストレーションを手掛ける。2006年から擬人化した立体造形の制作も始め、テキストや書籍の表紙を飾ること多数。最近では、撮影・データ化した半立体作品の制作に意欲的に取り組む。

 

Webサイト「Tetsuro’s Gallery」:http://www.h3.dion.ne.jp/~t-kawa/index.html
ブログ:http://kawatetsu.exblog.jp/
FACEBOOKページ:https://www.facebook.com/tetsuro.kawamoto

 

撮影協力/「Cafeここたの」:http://human-environment.com/104/

 

(文・井関清経 写真・西原樹里)