2014.08.08

紀尾井町のオープンテラスのカフェ、夏はここにある、数値化に喜びを見出す、定規で測る恋

定規[第1回]

 

梅雨明け後はじめての火曜日、僕は紀尾井町のオープンテラスのカフェで、昼間から女友だちとクローネンブルグのブランを飲みながら、いろんな話しをした。

 

道行く夏服の女たちはみな美しい。

 

7月にしては湿度の低い昼さがり、もう言うことは何もない。

 

夏はここにある。

 

でも、原稿の締め切りが近いのにアイディアが浮かばないのがちょっと気になっていた。

 

彼女は僕のちょうどふた周り下。仕事は美術評論家。
明日から12日間、ニューヨークに行くと言う。
たまたまSNSを通じて男と知り合い、出会ってすぐに意気投合したそうだ。
それで3日間、彼の滞在するパークハイアット東京でデートを重ねた。
彼はニューヨーカーの照明のディレクターで、あるミュージカルの舞台の為に来日していた。

 

恋って凄いなと思う。3日間しか過ごしたことのない相手に会いに行くためだけに太平洋を渡るなんて。まあ、「恋」を「若い」に置き換えてもいいのだが。
それで彼のマンハッタンのアパートに滞在するという。
まるでウディ・アレンの映画だ。

 

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「定規ってどう思う?」と僕。
「そうね、男の根源的な部分を具現化しているかな」と彼女。

 

彼女曰く、測るという行為は女より男が夢中になるという。
確かにそうかもしれない。僕もたとえば、自分がクルマを運転して初めて時速200キロをオーバーして走った時(もちろんサーキット)や、フルマラソン、42.195キロを完走した時はすごく嬉しかった。

 

そして、それらの嬉しさの源の達成感は、実は全て計測されることから来ている。
そう、数値化されたことに喜びを見出している。
数値化する道具で、多くの人が最初に使うのは定規だなあと、
また浮かばない原稿のアイディアのことを思い出した。

 

「恋も定規で測れるのかな?」という僕の質問に、
「バカね、あなたは」を弾けるように笑いながら答える彼女。
僕らは昼下がりを2時間共にすごした後、そこで別れた。

 

半月後、月島のもんじゃ焼きの店で、彼女に会った。
「東京でも手に入るけど、私がハンドキャリーしたのがポイントよ」って、
笑いながら渡されたのは、彼女が僕のためにマンハッタンのBook Markで手に入れた鉄の定規だった。

 

(文・久保田雄城/写真・塩見徹)
 

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