2014.07.18

風のような女の子、カリカリなHelix、受けとる愛とさずける愛、クールなジュリット・ビノシュ、マレ地区のヨーロッパ写真美術館

 

ペンシル[第3回]

 

うん、あんまり時間がないんだけど、いや別に用事というのはないんだけどね。ちょっと君の声が聞きたくなってさ。前に話したちょっと変わった、そう、風みたいに生きてる女の子だよ。よく憶えてるね。うん、ものすごく美人でちょっといかれた子。その子がおめでたみたいなんだよ。えっ、えーと26歳かな。どして?まあね。そんなことないさ。そうそう、めでたいよ、何はともあれさ。何でも大西洋をひとっ飛びして東海岸で出産するらしいよ。えっ?いや、まだ結婚の話しは聞いてないけどさ。いいんじゃない?そんなこと生まれ来る赤ちゃんには関係ないからね。えっ?いやいやお願いだから、そんな借りて来た考え方はやめようよ。あれ?なんかカリカリ音がするよ。またいたずら書きしてるんでしょ?えっ?試し書き?そうか、買ったんだ、Helixいいよね。ネイビーブルーに渋いゴールドも実は上品だよね。僕も見ているだけで、何かを書きたくなるよ。でもさ、悪いこと言わないから電話中はやめた方がいいよ。僕は気にならないけれど、人によっちゃ、神経を逆撫でするような音みたいだよ。前に言われたことあるんだ。今の君みたいに電話口でそのHelixで暇潰しに書いてたら、受話器の向こう側から、「あなた何してるの?その音、ぞっとするから止めてよ!」って叱られたよ、あはは。だから君も気をつけなね。そうだ、話しを戻そう。その風みたいな彼女を見ていると結局、自分が受けとる愛というのは、つまりは人にさずける愛とイコールだってことなんだなあって、つくづく実感するんだよ。おっ、そうかビートルズも同じこと歌ってるんだ、ふむふむ。そういえば「夏時間の庭」見た?でしょ、受け継ぐべきものとそうではないもの、ということをすごく考えさせられる映画だよ。僕の母もいい年だから、そのへんもそろそろ考えないと、って思っているんだ。でもさ、ジュリエット・ビノシュ、クールだよね。あっ、ごめん、名前呼ばれちゃったよ、最終搭乗時間だ、じゃあ行ってくるね、って違うか、あはは、君に会いにいくんだものね。シャルル・ド・ゴール空港は無理だったんだよね、うん大丈夫だよ、子供じゃないんだからさ。オッケー、じゃあマレ地区のヨーロッパ写真美術館の前で。愛してるよ、前よりもずっとね。

 

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(文・久保田雄城/写真・塩見徹)

 

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