- 2015.07.02
渋谷《長寿卵オムライス》
やすこなオムライス 第六回
暦上では夏至も過ぎ、いよいよ夏本番を窺わせる6月下旬、梅雨の晴れ間の晴天に恵まれたので、渋谷の街に足を運んだ。
なんだか賑やかさを象徴するような渋谷の街は、大学時代から少し苦手だった。ホームシックの中、渋谷に来れば都会にまたきてしまった気になって、田舎を恋しく思ったりしたこともあった。もちろん昔の話だ。
さて今回の「やすこなオムライス」、冒頭からお伝えしているように、舞台は渋谷の街である。
渋谷、と聞くと何を思い浮かべるだろうか?某ファッションビルであったり、あの日の思い出であったり、人それぞれであろうが、実はアートが点在している街でもある。忠犬ハチ公が渋谷の駅ですっと待っているように、他のアートたちも渋谷の街に溶け込んでいるので、意識していないと見つけるのは大変かもしれないが。
たとえば渋谷西武、Movita館の前には、ひっそりと猫が住んでいる。彼女の名は「NANAKO」。銅像である。
1986年に作られたものだそうで、そう考えるとハチ公よりはだいぶ年下であるが、それでももう30年も経つ猫である。角度によって愁いを帯びたり偉そうだったり、見ていて飽きない、ほほえましい渋谷のもう一匹の主だ。そういう子たちが、渋谷には多くいるので、探してみるのも渋谷の楽しみ方の一つかもしれない。
そうはいってもまずは腹が減っては戦ができぬので、腹ごしらえである。渋谷は宇田川町、市役所前にその店はどんと構えている。
雑居ビルの2階、「ダイナー868」のオムライスは、長寿卵と呼ばれる珍しい卵を使用しているレアオムライス。そう聞いてしまえば、もう口内はその味を欲してやまなくなってしまう。さっそく件の「長寿卵のオムライス」をお願いして、料理が運ばれてくるのを待つ。今か今かと待ちわびながら、スープをチミチミ飲んでいると、やってきてのは何ともかぐわしい香りのオムライス。それもそのはず、オムライスのまわりには濠を固めるかのようなカレーが敷き占められているのだから。
まずはひと口、ぱっくりいくと、なんだかプチプチ口内で雑穀米ならではの食感が。カレーや卵、雑穀米などの味が、それぞれ主張しあいながら旨みを出し合っていて、なんとも美味。あっという間にいただきました。
十分に満たされたお腹を抱えて店を出る。強烈な日差しの洗礼を受けながら、渋谷のマークシティに向かった。そこには一枚の大きな世界が広がっていた。
2008年から渋谷に永久設置されている、岡本太郎の「明日の神話」。毎日通勤、通学している人には見慣れたものであろうが、今一度立ち止まってみてほしい。そう思わせるほど壮大なスケールで描かれた絵である。圧倒されながら見つめていると、一つ、また一つと新しい発見がある、そんな不思議な絵だ。改めて岡本太郎の神秘に触れた気がした。
渋谷のお隣、表参道へ向かう青山通りの「こどもの城」。2015年2月、惜しまれ場柄も閉館してしまった、子供のための総合施設である。
その閉鎖に関しては、ネット上含め物議を醸したことでも話題となったが、今では建物は締まって、電話ボックスの電話は撤去され、一人「子供の樹」だけがぽつんと立っている。
「子供の樹」は不思議だ。一つ一つの枝に、一人ひとり表情が違った子がいる。笑っている子もいれば、膨れている子もいて、それぞれ造作は異なっているはずなのに、すべて含めて一人の子供のような気さえした。彼はどんなことを思い、子供と樹をつなげたのだろうか。角度によって異なる作品に触れて、改めてアートというものに敬服させられてしまった。
都合がいいもので、触れてみて初めて親しみを持てるものもある。渋谷の街であったり、普段は触れないアートであったり、最初は食わず嫌いしていても、何となく好きになってしまうのだ。
親しみを込めて、渋谷に別れを告げた。おいしくいただきました、ごちそうさま。
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