2015.06.05

代官山《炙り鶏の旨辛オムライス》

やすこなオムライス 第五回

 

 都内はまだ梅雨入りもしていないというのに、天気予報ではすでに真夏日を報じていた五月下旬、日差しの強さに負けそうになりながら代官山へ降り立った。
 代官山というと、洗練された大人の街だという印象が強く、大学生の時は敬遠しがちだったが、今では年月が解決してくたのか、とっつきやすい街になった気もした。

 

 さて、代官山駅北口を出てすぐ、高層マンションも兼ね揃えた商業施設である代官山アドレスディセに今回のお目当てのアートはいる。
 それが天高く見上げている巨大な花のオブジェ、「エレクトリック・サンフラワー」だ。

 
img_daikan01
 

 夜になるとライトアップするらしいこちらは、見上げなければ見落としてしまいそうなのに、一度視界に入ると圧倒的な存在感を醸し出していて、思わず身構えるほどだ。
 作家のポーランド出身の建築家、ピオトル・コワルスキーは数学、科学にも精通していて、作風も多岐にわたっていたという。
 確かによく見ると、花弁を模った部分など、数学的に計算つくされているような完璧さが感じられた。
 花弁だけなく、ゆるくカーブしているつくしのような茎の部分なども、きっと緻密に設計されたものなのだろう、建築のことはよくわからないが、素人目にもそう映った。

 
img_daikan02
 

 アドレス・ディセを下っていく途中、「オーロラ」は木々の木漏れ日の中立っている。

 

 中目黒駅にも作品がある、フランス出身のジャン=フランソワ・ブランの作品でもあるこちらは、とにかく謎だ。
 オーロラという題名といわれると、カラフルで緩やかな印象を持つが、この「オーロラ」はいい意味で価値観をぶち壊してくれる。

 
img_daikan03
 

 円形の黄色いオブジェが9つ。積み上げられただけのようにも思えるそれは、絶妙なバランスでまっすぐと立っている。
 オーロラを実際に見たことはないが、彼には大自然のオーロラがこう見えたのだろうか?と無理やり自分を納得させた。もちろんいい意味で。

 

 階段を上るとユニークなエレベーター棟に遭遇した。逢坂卓郎の「にじ色の方位」である。

 
img_daikan04
 

 ぐるっと回っていると、絶妙なタイミングで風が吹き、周囲の新緑と相まって変わる色彩を楽しむことができた。
 揺れる木洩れ日と、薄くなったり濃くなったりするそれぞれの色が踊っているかのような風景は幻想的で、風がやむまで目を離せなかった。
 光の入射角によって通過する光の色が変化する特性を持つフィルターを使用しているこちらは、エレベーター棟の3方角に飾られている。

 
img_daikan05
 

 それとは反対側、階段を下っていくと何やらまぶしいオブジェを見つけた。

 

 今にも隣接する柱にぶつかってしまいそうな人型のオブジェ、「アシジの詩人」である。

 
img_daikan06
 

 都内にも複数存在する彫刻家、鎌田恵務の作品の一つで、詩人の足元、地面の部分にはアルファベットがいくつもこぼれている空間的なオブジェである。
 ふと上を見上げると、上には小さな青い鳥のオブジェがこの像を見守るように柱に留まっていた。「幸せの青い鳥」で知られる幸福の象徴は、代官山でたくさん人を見守ってきたのだろう、そうしてふと上を見上げた人を、ちょっとだけ幸せにしてくれているのかもしれない。

 
img_daikan07
 

 さて、時刻は11時半、胃袋が存在を強調しだしたところで、お店に向かった。

 

 今回お邪魔したのは、代官山マダム達の憩いの場所としても知られている「リナトキッチン」。

 
img_daikan08
 

 2階に上がり、清潔感ある店内に入ると、不思議とほっと一息つけるような、安心感が募るお店である。
 オムライスは2種類、迷った結果、あまり見たことのない炙り鶏の旨辛オムライスと、赤みそのお味噌汁をお願いした。
 まだかまだかと待っていると、次々に子連れのマダム達が入店、少し賑やかになったところでオムライスが到着した。

 
img_daikan09
 

 大盛りのネギ、糸唐辛子に圧倒されながら、パクリとあんかけの部分をまぜてひと口。あんかけの優しい味が口内に広がり、思わずほっこりしてしまう。
 散らされたラー油もいい仕事をしている。ネギとラー油、糸唐辛子が、それぞれ風味を少しずつ変えてくれて、飽きることなくバクバクと食べ進めることができる。
 はっきり言って、未体験なオムライスだったが、かなり満足のいくおいしさである。オムライスの新境地を見た気がした。

 
img_daikan10
 

 食べ進めていくとピりッと辛いが、そこにお味噌汁が大活躍。舌を安心させてくれた。

 

 あっという間に平らげ、談笑するマダム達の笑顔を見ながら店を後にした。

 

 少し大人になっただけで、急によそよそしくなった街もあれば、居心地の良くなったところもある。もしかしたら最初から代官山は、両手を広げて待っていてくれたのかもしれないと思えるほど、雰囲気に溶け込めている自分に何となく満足感を覚えた。

 

 ごちそうさまでした。

 
img_daikan11
 

※敬称略