2014.05.23

届かなかった手紙、ヒルトン東京での昼寝、メモパッドに記される訪れるであろう知識の源、帰れない言葉たちの墓場で

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ノート[第3回]

 彼女の誕生日は三月九日だ。サンパウロに住んでいる彼女に、以前手紙を数回送ったことがあった。大概は、ヒルトン東京に滞在している時に部屋に備え付けられているメモパッドに下書きして、ホテルの便箋に清書したものを投函する。

 僕はヒルトン東京のメンバーなので、びっくりするくらい手頃なレートで宿泊できるので、仕事が煮詰まったり、思う存分プールで泳ぎたい時によく利用するのだ。部屋もいつも決めている。眼下にテニスコートが見える17 階のダブルがお気に入りだ。一人ダブルベッドで平日の午後に昼寝するのが、僕のささやかな贅沢。

 それまでのサンパウロ便(?)は、だいたい、東京での投函から6 日で彼女のアパートメントの集合ポストに放り込まれていた。マメな彼女は、毎日ポストをチェックしているからわかるのだ。

 メモパッドって、自宅や事務所では、ほとんど使わないけれど、ヒルトンにいる時は、よく使う。なぜだろうと考えてみれば、答えは簡単だ。僕はこのホテルにチェックインする時には、決してノートパソコンを持ち込まないからだ。ノー・インターネット・デー。だから、普段は直接、検索していた言葉たちをメモパッドに記録することになる。

 持ち帰ったメモパッドには、「白州正子、両性具有の美」とか、「北浦和・二木屋」とか、「空輸、leonidas」とか書いてある。訪れるであろう知識のあらかじめの余韻を楽しめるのが、デジタルデバイスでは手に入れることのできない快感だ。そして不思議なことに、キーボードに入力する言葉より、万年筆で書く言葉の方が、記憶の片隅に残りやすい。

 彼女の誕生日は三月九日だ。だから僕は雛祭りに、東京のポストに手紙を投函した。でも、今日は三月十八日。彼女から「手紙届いたよ」というLINE 経由のメッセージは届かない。僕の手紙はオゾン層を超えて、打ち捨てられた衛星のように、宇宙を彷徨っているのだろう。帰れない言葉たちの墓場で。


(文・久保田雄城/写真・塩見徹)

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次回、ノート[第4回]は5月30日配信予定です。