- 2017.12.21
大崎×五感① 感覚を研ぎ澄ます
宮城県大崎市に、五感をテーマにしたミュージアムがあるらしい。
視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚
東京近辺には大きな美術館や博物館がたくさん存在するが、人間が持つ5つの感覚を一度に刺激するような展覧会には未だかつて出会ったことがない。一体どんなものが、どのような方法で展示されているのだろうか。高まる好奇心を胸に東北新幹線に乗り込んだ。
11月末の大崎市は紅葉も見頃を終え、景色のほとんどを茶色が占める。雪は降っていないが、山の尾根はところどころ白く染まっている。2週間ほど前にはバルーンフェスティバルという熱気球の全国大会が開催され、市内は多くの人で賑わっていたらしいが、紅葉の終わりと共に観光シーズンは終わりを迎えていた。ひんやりと冷たい冬の空気もあってか、ちょっともの寂しい雰囲気の大崎市。しかし、ありのままの長閑な雰囲気を味わうことができる。
古川駅からしばらく車を走らせると、変わった形の建物が現れた。日本初となる五感をテーマにした美術館「感覚ミュージアム」である。建物全体がひとつの作品と言っても過言ではない。
「あったか広場」と呼ばれるミュージアムの中心の庭に立って周囲をぐるりと見渡すと、休館日のテーマパークに来たような不思議な気持ちになる。ミュージアムのコンセプトデザインおよび設計は建築家の六角鬼丈氏が手掛ける。
わくわくしながら館内に入ると、不思議な音が聞こえてきた。鳥の声のような、水の音のような、どこかで聞いたことのある音。ついじっと耳を傾けてしまう。
感覚ミュージアムは、ダイアローグゾーン(身体感覚空間)とモノローグゾーン(瞑想空間)の二つの空間に分かれ、トラバースゾーンという通路によって双方が繋がっている。
身体感覚をテーマにしたダイアローグゾーンでは、展示を通して作家と体験者が仮想的な対話(ダイアローグ)をすることができる。
受付を通り過ぎると、さっそく木や竹などの自然素材で作られた創作楽器のコーナーが現れた。弦を爪弾いてみたり、バチで鍵盤を叩いてみたり、自分の中にある子ども心に任せ、思うように音を出して楽しむ。私が手を動かして働きかけることで音が出る。それを繰り返す。自然の素材が奏でる音はとても優しく心地良い。
また、小さな引き出しがぎっしりと並んだ「1000の小箱」の部屋も壮観である。ここは、登録すれば誰でもアート作品を展示することができる市民ギャラリーだ。引き出しを開けるたびに、「あっ」と声が出そうになる。どんな作品が飛び出してくるかは開けてからのお楽しみだ。
視覚が奪われる「闇の森」は、ダイアローグゾーンからモノローグゾーンへと繋がる入り口だ。真っ暗闇の中では、視覚以外の感覚を頼りに進むしかない。壁を伝って歩くと、所々に手が入れられるほどの穴がぽっかりと空いている。恐る恐る手で触れてみると、ゴツゴツしたものや、ジャラジャラしたもの、回すと音が鳴るものなど“得体の知れない何か”に出会う。しかし、不思議と怖くはない。なぜならそれらは、過去に使ったり出会ったりしているものだから。見えなくても、触覚や聴覚によるヒントをもとに、過去の記憶を手繰り寄せて物の視覚のイメージが頭に浮かぶ。
暗闇を抜けると目がくらんだ。ずっと真っ暗な場所で奪われていた視覚が、今度は真っ白な光に奪われた。ガラスと鏡が一面に敷き詰められた「エアートラバース」という空間だ。
闇と光の通路を抜けると、もう一つの展示空間であるモノローグゾーンに辿り着く。ここでは、想像力を触発し、瞑想の世界へと誘う作品が展示されている。
約30万本ものこよりで作られた「香りの森」では、樹林に見立てた柱の穴それぞれに7つの香りが仕掛けられている。松、草いきれ、合歓(ねむ)、干し草など……これらは、感覚ミュージアムがある大崎市岩出山の自然の中の香りをモチーフに作られているそうだ。また、木々の音や鳥の声など岩出山の「音」も一緒に聴こえてくるので、今日初めて大崎市を訪れたというのに、何故か懐かしい気持ちが沸き起こってくる。
「ハートドーム」はその名の通り、ハート型をしたドームの中で“精神浴”をすることができる作品。日光浴や森林浴は聞いたことがあるけれど、精神浴は聞き慣れない言葉だ。中央に設置された漆黒の浴槽の中にそっと入ってみると、ドーム内に自分の足音がドォンと反響する。心臓の真ん中にいるような感じだ。録音された胎内音を聞いたことがあるが、それにも似ているような気がした。ここに一人で入ると、慌ただしい日常や数々の悩みを一度手放し、じっくりと自分と向き合えるかもしれない。
ミュージアムの屋上に上がると、江合川越しに岩出山の自然を一望することができる。「耳のオブジェ」に耳を当て、周囲の音に耳を澄ませると、色々な音が聞こえてきた。風の音や、車の走る音、河川敷を歩く下校途中の男の子たちのおしゃべり。周囲の音が集まり、ヒソヒソと耳元でナイショ話をされているように感じた。
訪れた時に感じたテーマパークという印象通り、感覚ミュージアムは五感の遊園地のような場所だ。しかし、感覚を刺激するアトラクションを楽しむというよりは、自分の五感を一つずつ確かめていくような体験ができる。
ミュージアムでは、五感にまつわる様々なワークショップも開催されている。今回はその一つである、香りのワークショップを体験してきた。
感覚ミュージアムオリジナルの良い香りに包まれるワークショップの様子は、後編にてお伝えします。
<感覚ミュージアム>
宮城県大崎市岩出山字下川原町100
電話:0229-72-5588
開館時間:9:30〜17:00(最終入館は16:30)
休館日:毎週月曜日(祝日の場合はその翌日)、年末年始
入館料:大人500円/高校生300円/小・中学生250円
交通:仙台駅より東北新幹線古川駅まで
古川駅より陸羽東線岩出山駅まで
岩出山駅から徒歩約7分
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