2016.12.03

安曇野×ちひろ② 信州の味

安曇野ちひろ美術館のホームページでも、地域散策のモデルコースがいくつか紹介されているが、信州・安曇野には美術館や公園が数多く存在する。美術館の近くには、いわさきちひろがスケッチをしたポイントがいくつかあり、ちひろの観た景色を自分の目で観ることも楽しみ方の一つだ。松本市にある城山公園は北アルプスの展望台とも呼ばれ、美しい山並みを背景に信州の地を一望することができる。若き日のちひろもこの場所でスケッチをしていたそうで、公園には彼女の記念碑が建てられていた。

 

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ところで、安曇野に来てよく目にするものがあった。二人の神様が仲睦まじくくっついて微笑んでいる、道祖神である。駅前にも公園にも、田んぼの脇道にもあるので、安曇野を歩いて道祖神に出会わない人はいないだろう。

 

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後から調べて分かったが、悪霊や疫病が集落に入ってくるのを避けるために祀られ、それぞれ「縁結び」や「疫病退散」「五穀豊穣」「家内安全」「子孫繁栄」などの願いが込められているらしい。
関東出身の私には馴染みのないものだったが、長野出身の美術館の職員の方いはく、幼い頃からごく当たり前のように見てきたものだそうだ。この土地に住む人々にとって、道祖神は当たり前の存在なのだろう。
インターネットで全国の情報を瞬時に共有できてしまう時代だからこそ、その土地ごとに異なる信仰や文化などを発見できると、宝物を見つけたようで嬉しく思う。

 

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そして、安曇野に来たらぜひ行きたいと思っていた場所がもう一つある。
日本最大級のわさび畑「大王わさび農場」である。その広さはなんと東京ドーム11個分。丸1日散策できるほど広い。取材2日目は、穂高へ足を運び広大なわさび農場を見学することにした。

 

1917年、現在の農場の場所は雑草が生い茂っていたそうだ。その土地を20年かけて開拓し、今は観光地として全国から人々に注目されている。そんな壮大な歴史の背景には地元農家の人々の血と汗と涙があったことだろう。農場の歴史とわさびの豆知識は、100年記念館で知ることができる。

 

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実はこの場所は、故・黒澤明監督の映画「夢」のロケ地になったことでも有名だ。湧き水による蓼川のほとりには3基の水車がゆっくりと回っている。この辺りは、映画が撮影された当時の情景をそのまま残しているようだ。残念ながら私は「夢」を見たことがなかったが、親世代の人々が懐かしむようにして水車小屋を眺めているのが印象深かった。
日が差し込むと川面に浮く水草がキラキラと光り、非常に幻想的だ。

 

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わさびの命は綺麗な水であると言われているが、広大なわさび畑では、毎日何百万トンもの雪解け水が湧き出しているようだ。湧き水に触れてみると、ひんやりと冷たい。この水で育ったわさびが収穫され、根茎(芋)・茎・葉などの各部位に丁寧に分けられていく。採れたてのわさびの茎は折れやすいため、優しく扱わなくてはいけないそうだ。また、わさびは根茎の部分だけではなく、葉やひげ根も一切捨てることなく食べることができるらしい。

 

農場では、新鮮なわさびを使ったわさび料理を食べることができる。
おそらく、これほどわさび料理が揃っているのは、全国探してもここだけなのでは?と思うくらいメニューが豊富だ。
スタンダードに蕎麦を味わうことも考えたが、せっかくだからここでしか味わうことのできない料理を注文した。

 

おろしたてのわさびをご飯の上にかけていただく、本わさび丼。
新鮮なわさびの味をそのまま感じるならこれだ。

 

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そしてわさびジュース。ジンジャーエールの生姜がわさびになったような飲み物だ。

 

感想は「辛い」の一言に尽きるが、「辛い」には色々な「辛い」があるんだなとわさびジュースを飲みながら考えていた。おろしたてのわさびは、しばらく鼻の奥に余韻を残してくれる。マスタードやカレーのスパイスとは異なる辛さだ。農場には海外からのお客さんもいたが、海外の人がわさびを口にしたらどう感じるのだろうか。ちょっと気になる。
他にも、わさびカレーやわさびピラフ、さらに売店ではわさびソフトクリームやわさびコロッケも販売されている。大王わさび農場に来れば、1年分くらいのわさびを楽しめる。

 

安曇野に来てから美味しいものをたくさん食べている気がする。食欲の秋と美しい景色の効果もあり、この土地で作られたものがとても美味しく感じる。
「めぐあるき」は決して食べ歩きの企画ではないが、その土地で採れたものを口にすることで、新たな魅力に気づくことができたり、感謝の気持ちが生まれたりするのだ。

 

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安曇野にはもうすぐ冬が訪れる。先日、すでに雪がチラついたそうだが、本格的に降り積もると1メートルは優に超えるようだ。駅前のカフェにも、除雪機のポスターが当たり前のように貼られており、来る冬に備えて準備運動を始めているかのようだった。

 

季節の移ろいに合わせて白や緑に変わる安曇野の風景。1年を通して眺めてみたいものだ。

 

 

<大王わさび農場>

 

長野県安曇野市穂高3640
TEL:0263-82-2118
年中無休
入場料無料
営業時間:
【3月~10月】9:00~17:20
【11月~2月】9:00~16:30

 

http://www.daiowasabi.co.jp