2014.11.21

日曜日の深夜に賑わう街、フランス的アイボリー、誰かの行き場のない思念

レター[第3回]

 

目が覚めた。時計を見ると、21時だ。なんてこった。ランチビールを飲んで帰宅して、ちょっとベッドで横になったら、これだ。

 

まあ、昨日はほぼ徹夜で仕事していたから、仕方ないといえば仕方ないんだが。
さて、どう考えても眠れそうにない。

 

近所のバーに出かけるか、埃をかぶったままガレージに眠っているクルマを引っぱり出すか、ちょっと考える。10秒で後者を選ぶ。

 

日曜日の深夜の都心は、きっと1週間で一番交通量が少ないだろう。
まともな人間はこんな時間に目的もなくクルマを走らせたりはしない。
「そういう行為は無意味にCo2を排出するだけで、地球に優しくありません」。
ある種の人間ならそう言うだろう。

 

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西麻布の交差点を抜けた時、ふっと、書店に行きたくなった。
時計を見ると、午前0時を少し回ったところだ。
特に目当ての本がある訳ではない。
このところほとんどkindleで読んでいるので、書店から足が遠のいているのだ。

 

六本木のけやき坂の下に、書店とDVDやCDを扱う店、そしてカフェの複合店がある。そこに行こう。クルマから降りる時、ダッシュボードにETCカードを仕舞おうとすると、そこに銀座の老舗の文房具屋のパッケージを見つけた。開封してみると、そこには品のいいレターセットが入っている。何となくそれをバッグに入れた。

 

しばらく来ない間にそこは様変わりしていて、カフェのスペースが拡大していた。
店舗をぐるりと一周しながら、僕はそのレターセットのことが気になっていた。

 

コーヒーを買って、二階のソファーに腰を落ち着ける。
レターセットを取り出してみる。
ジョルジュ・ラロというブランドのヴェルジェ・ド・フランスというシリーズのようだった。

 

ちょっと僕にはフェミニンにすぎるし、自分で買った記憶が全くないから、誰かが僕に贈ってくれたのだろう。

 

そのフランス的なアイボリーを眺めていると、僕は嫌な気分になった。
僕がその誰かを思い出せないからではない。

 

その誰かのレターセットを僕がグローブボックスにしまい込んで忘れていたことにだ。
誰かの願いや想いが僕をただ通りすぎていった。

 

僕らは、時に、知らず知らずの内に思念というものをあまりに軽く扱いすぎる。
僕は二階の洗面所にいって、そのレターセットを細かく破いて、ゴミ箱に捨てた。

 

(文・久保田雄城/写真・塩見徹)
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