2014.11.14

老いと鶴 あるいは悲しみのジョディ (後編)

レター[第2回]

 

その 10日後、自宅にアマゾンのボックスが 5つジョディ宛に届いた。

 

その中には、Jと刻印されたクレインの大量のカードが入っていた。 500枚はあるだろうか。由美子は驚いた。質素な生活を良しとする、ジョディがクレインのカードを買うなんて。

 

僕はそのクレインを知らなかったのだけれど、由美子に言わせると、クレインはホワイトハウスのオフィシャルペーパーであり、米国紙幣にも使用されるブランドだという。なるほど、そういうことか。

 

由美子がそんなにたくさん買ってどうするのだ、と尋ねるとジョディは、自分の結婚式の案内状を出すのだという。フロリダからハワイまで親戚や友人がいるので、どこまでカードを送っていいものか悩んでいるという。「だって、交通費や宿泊費、みんなのぶんは出せないもの」と屈託なくジョディは笑った。

 

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「悲しみのジョディ」は、1983年 6月 8日に発売された、山下達郎のアルバム「MELODEIS」の A面 1曲目におさめられていたナンバーだ。詩については、どこにでも転がっている、だからこそ普遍的とも言える、夏の終わりのロストラブを歌ったものだ。メロディー、アレンジ、コーラスは、山下達郎のビーチボーイズへの愛が感じられる。

 

年取ることは避けられぬこと。誰もがやがて老いてゆく。だからそれは、朝起きたら歯を磨くとか、困っている人を見かけたら手助けする、というレベルの日常的なことのはずだ。しかし、老いには、それぞれの人生が濃縮されている。

 

僕も試しにクレインのカードを買った。説明書には、 1801年創業と書いてある。アメリカ合衆国建国から、わずか 25年後のことだ。アメリカの起源ともいえるカードだ。

 

それにしても、ジョディはこのカードにどんな言葉をしたためたのだろうか。彼女は結婚歴のないシングルマザーだったというのに。

 

僕が彼女の物語から学べることはあるだろうか。悲しみのジョディから。

 

(文・久保田雄城/写真・塩見徹)
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