2017.01.09

乳と卵

やすこな本棚 第十一回

 
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 自分のスタイルに絶対的な自信を持っている女性は少ないのではないだろうか。はたから見たら出るところが出ていて、出なくて良いところは引っ込んでいるモデル体型の女性でも、何かしらコンプレックスを抱いていることは珍しくはない気がする。そしてスタイルへのこだわりは、きっと男性よりも女性の方がかなり強い。

 

 そもそも初潮を迎え、徐々に自身の身体が丸みを帯びていくのに抵抗を感じる女の子は多いようだ。しかし変化は止めることもできないわけで、ある程度時間が過ぎれば生理も膨らんだ胸も、ずっと一緒にいたように当たり前のようになっていく。また、それまでは男の子と平気で遊びに行っていても、ある時期を超えると女の子同士でつるみ始めるようにもなる。そうして思春期を迎え、女の子は女性へとどんどん変化していくのだ。

 

 2008年に芥川賞を受賞した「乳と卵」では、女性の、目に見える人工的な変化と内面の自然な変化が如実に描かれている。憑りつかれたように豊胸手術にこだわる母・巻子と初潮に懸念を示す娘・緑子、そして巻子の妹であり緑子の叔母である「わたし」が過ごす夏の3日間は、とても色濃く、夏独特の匂いがこちらにも漂ってきそうで少しむせそうになる。

 

 緑子が抱く女性への不信感は、きっと多くの女の子が経験してきたものなのだろう。初潮だけでなく、初めての女性らしい下着も、制服のスカートも、周囲からの女の子扱いも、慣れればどうってことないものなのに、どうしても受け入れられない時期があると思う。小学生の頃は野原を駆け巡り、男の子と並んで自転車をこいでいたわたしも、いつの間にか男の子を男性として認識するようになって、自分が女であることを認識してしまった。そして何がきっかけでもないのに、自分から女の匂いを感じるようになった。

 
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 経血の独特な匂いや感触を好む女性は多くはない。受精卵になり損ねた卵子の残骸も、剥がれた子宮内膜も、健康な女性の象徴のはずなのに生理の度に嫌に思うし、お腹も痛いし、気持ち悪くも感じるだろう。しかし一方で、同じく女性の象徴である胸については、巻子のように大きくしたかったり、形や色もこだわりが強かったりする人が多い気がする。目に見えた女性らしさを求める人が多いということなのだろうか。それだけ、「女性である」ということが武器になるという証明なのかもしれないし、見た目をとにかく良くしたいという女性の欲の現れなのかもしれない。

 

 匂いが濃くなる夏は、女の匂いも濃厚になるように思う。スンと鼻を鳴らせば、どこからかやってくるべたついた空気と一緒に、艶めかしさを感じるのはたぶん私だけではない。どこかでまた一人、女の子が女性になっているのだ。もちろん空想の域の話ではあるが。

 

 口にすると鼻に匂いがむせかえるのに、クセになるような1冊でした。ごちそうさまでした。

 
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参考文献
「乳と卵」
川上未映子 著
2010年9月10日発行

 
 

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