2016.05.01

ぼくの小鳥ちゃん

やすこな本棚 第三回

 
03_book_小鳥ちゃん
 

 雪が街に降る寒い日、「ぼく」の元にとつぜんやってきた「小鳥ちゃん」。直木賞をはじめとして、数々の文学賞を受賞してきた江國香織の「ぼくの小鳥ちゃん」は、年齢を問わずに愛されている本である。

 

 その愛くるしい荒井良二の挿絵と共に語られる物語は、ありそうでない、こころがほっこりするフィクションだ。ここでは、そんな「僕の小鳥ちゃん」で登場してくる食べ物についてご紹介していこうと思う。

 

“「小鳥の生活には不可欠なものらしい」
ふうん、といちおううなずいたものの、小鳥ちゃんは不満そうだ。でも、と、もう一度言う。
「でも、率直に言ってあたしそんな粉たべられない」”

 

 ぼくが小鳥ちゃんのためにわざわざ購入してきたボレー粉。しかし肝心の小鳥ちゃんは「そんな粉は食べられない。」というシーン。ここで出てくるボレー粉とは、主にインコが必要とする栄養分を含んでいるもので、カキの殻を砕いて餌にしたものである。ボレー粉にはミネラルやカルシウムなど、栄養素が豊富にそろっているものではあるが、おいしいかどうか、という点では人の口には合わないことは火を見るより明らかである。

 

 このボレー粉を間近に見て、小鳥ちゃんもおいしくなさそうだと思ったのだろうか。ここで彼女が提案した好物は、なんともおいしそうなものである。

 

「もっとなめらかなの」
と言う。
「もっとなめらかで、とろっとして、ラム酒の匂(にお)いがするの」
「ラム酒?」
小鳥ちゃんは世にもうっとりした顔で、
「そう」
と言う。

 

 小さな文鳥のような小鳥ちゃんがすきなもの、それが「ラム酒のかかったアイスクリーム」。物語を進めていくと、彼女はわざと「ぼく」に自分が病気であることをエサにして、ラム酒のかかったアイスクリームを薬代わりに要求してくるといった暴挙にも出る。

 

 一体このラム酒のかかったアイスクリームとはどんな味がするのだろうか。偶然入った恵比寿にある「ura ebis.」というお店では、デザートにラム酒とエスプレッソがかかったアイスクリームがメニューにあった。そこで定員さんにお願いして、ラム酒だけをかけたアイスクリームを出してもらった。

 
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 なるほど、とろっとした滑らかな触感のアイスクリームに、さらっとしたラム酒がかかることで、口どけの良い触感に変わる。これは確かに「なめらか」で「うっとりする」ようなものだ。ラムレーズンのアイスクリームは良く口にしていたが、それとはまた全く異なり、かなりラム酒の強さが引き立っている。酒好きのデザートとしてはたまらない逸品だろう。

 

 実際にこのような記述で目にするまで、アイスクリームにラム酒をかけるといった発想はあまりなかったので、新鮮の限りである。幼い子供が夏場にアイスクリームを食べるのとはちがって、ラム酒のかかったアイスクリームは、冬場あたたかな場所で少しずつ口に含みたい、そんな素敵な食べ物である。もちろん食べすぎには注意が必要だが。

 

 そのあとにも、煮たてのママレードにつられて上の階の住人に愛嬌をふりまいたり、人のようにスケートに没頭する小鳥ちゃんのシーンが出てくるが、どれを見ても人より人らしいような印象を受けた。ラム酒のかかったアイスクリームなどは、その中でも特に、嗜好品として一部の人の愛され続けているものでもあり、変ないい方をすれば知っている人しか好きではないものである。食べたことがある人しか良さがわからないものなのだ。

 

「その辺の小鳥とは違う」小鳥ちゃん。それはミネラルウォーターではなく、水道水でも良いというほど彼女は自分にこだわりもつほどだ。また、ところどころある「ぼく」との食事のシーンでは、当たり前のように塩分の強いフライドポテトなどを一緒に摂っている。

 

 小鳥ちゃんとはいったい何者なのか。本当に小鳥なのか、はたまた何かを擬態化しているのか、真相は作中にはみられない。しかしラム酒のかかったアイスクリームを満足そうにくちばしでつつくようなシーンは、誰の心もほっこりさせてくれる気がする。

 

 春の夜の気配を感じながら、一日の終わりに食べたい一冊でした。ごちそうさまでした。

 
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参考文献
「ぼくの小鳥ちゃん」
江國香織 著
荒井良二 カバー題字/装画
新潮文庫
平成13年12月1日発行

 

 

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