2015.01.16

ヒア・アンド・ゼア~僕は移動という時を経ることで、ある種の境界線を超えようと試み、彼女はその移動を記録し、そこに留まる~

色鉛筆[第2回]

 

去年は仕事やらなんやらで結構いろいろと旅をした。秋田には、何度も通った。ニューヨークにも出かけたし、箱根や台北も訪れた。旅の楽しみというのは、まずは、その街(なりリゾート)から受ける刺激や発見だ。それによって新しい考えや、古いあまりパッとしない思い出なんかを捨てることができる。では、地元(僕の場合、ここ東京だ)だと刺激がないのか、と問われると答えはノーだ。もちろん刺激や発見はある。しかし、地元は、移動線の上に成り立っているわけではない。「ここ」でしかないわけだ、「そこ」ではない。何が言いたいかというと「ここ」から「そこ」へ移動を経ることで、「そこ」が持つ刺激に対して敏感になれるということ。

 

だから旅の楽しみは、目的地ではなく、あくまでその移動という、その事実そのものなのかもしれない。目的地はあくまで付加価値のようなもの。

 

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先日、箱根に向かうロマンスカーで、通路を挟んだ向こう側に、美大の学生と思われる、女の子が、窓の外に視線を向けて、色鉛筆を使ってスケッチしていた。高速で移動する車窓からの景色はどんどん変わるから、いったいどんな絵を描いているのだろうか。車窓からの情景は決して風光明媚というわけではないから興味があったけれど、もちろん覗き込んだりはしなかった。僕は移動という時を経ることで、ある種の境界線を超えようと試み、彼女はその移動を記録し、そこに留まる。

 

また面白いのは、移動の距離を要する旅であれば、ある程、様々なインスピレーションが湧いてくることだ。箱根より秋田、秋田より台北、台北よりニューヨークといった具合だ。特にニューヨークの場合は、直行便でも実に13時間のフライト。しかも時差が14時間なので、もう何が何だかわからなくなってくる。そういう意味では、ホノルルあたりが一番いい距離かもしれない。こちらは7時間弱の飛行時間だ。

 

今度の旅は、出掛けにシンプルな色鉛筆を手に入れてバックパックに放り込んで出かけよう。

 

(文・久保田雄城/写真・塩見徹)
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