2015.01.09

人生がシンプルでクリーンだった頃

色鉛筆[第1回]

 

この前友人と話していたら、なぜか色鉛筆の話になった。僕は仕事柄、時々絵コンテを書く時に使うけれど、彼は、最後に使ったのがいつだったか全く覚えていないと言う。彼は銀行員だから、仕事で色鉛筆を使うということもなさそうだ。でも、銀行の窓口で融資の相談とかしていて、相手の手元に色鉛筆が何本も置いてあったら楽しいと思うんだけどな。でも、まあそんな事考えるのは僕だけかもしれない。

 

色鉛筆は19世紀中頃以降、主にイギリスとドイツで染料化学工業の進歩によって、生まれてきたものだという。鉛筆そのものは16世紀中頃イギリスのボロウデール鉱山で良質の黒鉛が発見されて、それを細かく切ったり握りの部分を紐で巻いたりして筆記具として使われ始めたのが最初だったので、それに色が付くまでに、実に300年を要したということだ。300年という数字は、チェンバロが15世紀に発明され、18世紀にピアノが発明される期間と同じだ。もっともこちらの場合は、主役がピアノに変わったわけだが。

 
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話を戻そう。友人は、「はっきり覚えていないけれど小学校1年か2年の時に、色鉛筆でランボルギーニの絵を描いた気がするなあ」と言う。世はスーパーカーブームの真っ盛りだったのだ。色鉛筆は、三菱鉛筆のものだったという。「ロゴが幼心にすごく印象に残ったんだよ」。

 

「あとは、小学校中学年から卒業するまでは、毎年年賀状も色鉛筆を使って書いていたよ、それははっきり覚えている」。

 

言われてみれば、僕もそうだった。毎年、毎年、飽きもせずに、似たような図柄(つまり初日の出とか、門松とかそういったもの)を描いたものだった。

 

もう長いこと、年賀状はワードプロセッサーで書いて、署名だけ手書きというスタイルだけど、全部直筆で、色鉛筆で描いた絵を付けるのもまた悪くはないだろう。いや今度年賀状を書くまでは、1年たっぷりある。うん、寒中見舞いを絵はがきで出すのもいいだろう。

 

人の人生は往々にして、年を経る毎に複雑になって、ともすれば糸がこんがらがるような様相を帯びることもある。今の子供は知らないが、僕の小学校時代というのはとても牧歌的だった。そう、人生はシンプルでクリーンだったのだ。そんな日々を彩った色鉛筆と再会するのもいいかもしれない。

 

(文・久保田雄城/写真・塩見徹)
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