2019.05.13

information or inspiration?

nendo × Suntory Museum of Art

information or inspiration? 左脳と右脳でたのしむ日本の美
 
 

2019年4月26日(金)多田 美由紀
 

さて質問です、あなたはどちらを選びますか?
 

今あなたの目の前には白と黒の2つの入り口があります。
“ information? ”と書かれた白の入り口。
“ inspiration? ”と書かれた黒の入り口。
さあ、あなたはどちらから入りますか?
 


 

入り口に掲げられた“ information? ”と“ inspiration? ”というワードに込められたメッセージは、おそらく観る者へのそんな問いかけではないだろうか。
現在サントリー美術館で開催中の「 information or inspiration? 左脳と右脳でたのしむ日本の美」展は、そんな独特のスタイルで人々を迎え入れる。
 

「あなたが落としたのは金の斧ですか?銀の斧ですか?」
「大きいつづらと小さいつづら、どちらを選びますか?」
寓話の世界でそんな二択を迫られたなら、「欲を出さず正直に答える」のが正解ということになるだろう。
だが今回の企画展の場合、白と黒のどちらの入り口から入ったとしても正解である。どちらを先に観るかはあくまで鑑賞者の自由。順序に関係なく、もれなく2つの視点で作品が楽しめる仕掛けになっている。
タイトルだけでは全貌が窺い知れないことに加え、しょっぱなから“選べる2つの入り口”が登場する一風変わった演出に、「これから何が始まるんだろう?」と大いに好奇心を掻き立てられる。
 

サントリー美術館とデザイナー佐藤オオキ氏率いるデザインオフィス“ nendo ”がタッグを組んだ異色のコラボレーション。
nendoは、東京とミラノを活動拠点に建築やインテリア、プロダクトなどあらゆる分野のデザインを手掛けているデザインオフィスだ。
旬なクリエイターの“今”の感性と日本の伝統美が融合した結果、「同じ作品を2つの異なる視点から観てみよう」という1度で2つの楽しみ方ができる空間演出が誕生した。
 

今回展示されている作品は、同館の約3000件の収蔵品から佐藤オオキ氏と学芸員とで絞り込んでいった27点。既存の、しかも自分の作品以外の空間演出を手掛けるのはほぼ初めてという佐藤氏。日本古美術への造詣が深い学芸員とは違ったニュートラルな目線で作品と向き合い、かつてない展示方法で独自の世界観を展開している。
過去に表舞台に立った経験を持つであろう27点の銘品たちも、今までにない舞台演出にさぞドキドキワクワクしたのではないか。「こういうのも悪くないよね」そんな風に作品たち自身も今回の演出を楽しんでいる気がしてならない。
 


 
 

“ information? ”と“ inspiration? ” という2つの切り口
 

美術品を鑑賞するとき、制作過程や作者の意図を知ることで生じる「へえー!」という感情と、直感で瞬時に「綺麗!」と感じるのとでは少し性質が異なる。
佐藤氏はその点に着目し、「 information?→左脳的」「 inspiration?→右脳的」という位置づけで、切り口の違う2通りの方法による展示方法を試みた。そうして完成したのが、1つの作品を2度楽しめる今回のスタイルである。
 

会場には“ information? ”と“ inspiration? ”の2つの鑑賞ルートがあり、どちらを先に観るかは鑑賞者の自由だ。
“ inspiration?”は、情報を一切排除したアプローチによる空間演出がなされたエリア。
一説では「現代人が1日に接する情報量は平安時代の一生涯分に匹敵する」とも言われるが、不意に情報ゼロの空間にポン!と放り出されてみると、
 

「こんな風に何の情報もなく、純粋に感性のフィルターだけで物を見たのはいつぶりだろう?」
 

と考えさせられる。
情報に囲まれるのが当たり前になっている皮膚感覚に、情報レスの空間がなんとも新鮮で心地良かったのだ。裏を返せば、普段私たちはそれだけ多くの情報に囲まれているということだろう。
一方の“ information? ”は全く逆のスタンスで、文字情報を軸とした展示スタイルが採られている。
双方のルートがコール&レスポンスのような関係になっていて、どちらを先に観たとしても「さっきのアレがコレなのか」と種明かしを見るような “3つ目の楽しみ” があるのも面白い。
 


 

 

 
 

nendo流の感性が光る、フロア間の粋な箸休め空間
 

サントリー美術館とnendoのコラボレーションが今回の企画の目玉ではあるが、2フロアの展示スペースをつなぐ吹き抜け空間では、nendoのオリジナル作品を体感することができる。
そこで鑑賞者は傘を手渡され、その傘を手に設置された白いプロムナードを歩いてゆく。するとどうだろう。日本の四季の移り変わり、街並み、自然、風物詩、空模様…といったさまざまな風景が、傘越しに現れては消えてゆく。
これだけ聞いても、一体何のことかピンとこないかもしれない。だが今回の企画展は、あまり詳細に会場の様子を語ってしまうと実際に足を運んだ際の楽しみが半減してしまう気がしてならない。それゆえ、全体を通してあえて曖昧な表現に終始した。掲載写真の大半が「一体これはなんだろう?」と思う類のものであるのも、みなさんの想像を掻き立てる余地を残しておきたかったからである。
 

《uncovered skies》 nendo

 

会場には、実際に体感しないとわからないような“仕掛け”が所々に散りばめられている。
作品を鑑賞しながら聴覚や嗅覚を研ぎ澄ましていると、展示品や演出にリンクした意外な“仕掛け”に気づく方もいるだろう。
そんなアミューズメトンパークのような楽しさがあるからこそ、細部を明かしてしまうのは勿体ない。
だが、決して軽いという意味ではない。時代物の銘品たちの風格や威厳はそのままに、見せ方の妙で私たちを楽しませてくれるということだ。
 

最後に、
「とにかく見てほしい。だって楽しいから!」
そう言いたくなるような企画展だった、ということだけはお伝えしておく。
 
 


 

サントリー芸術財団50周年 nendo × Suntory Museum of Art

information or inspiration? 左脳と右脳でたのしむ日本の美
 
会 期:2019年4月27日(土)~6月2日(日)
休館日:会期中無休
時 間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)
※5月25日(土)は六本木アートナイトのため24時まで開館。
※入館は閉館の30分前まで
会 場:サントリー美術館
    東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階
入館料:一般1,300円、学生(高校・大学生)1,000円
https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2019_2/