- 2019.05.08
鈴木敏夫とジブリ展
2019年4月19日(金)都築 果鈴
平成最後の桜も見頃を終えて、新緑の季節となった4月下旬。
神田川沿いの緑が豊かな御茶ノ水駅から近い「神田明神ホール」(神田明神 文化交流館「EDOCCO」内)では、「鈴木敏夫とジブリ展」が開催中です。
今回はその内覧会に伺ってきました。
商売繁盛の神様「えびす様」を祭る神社として知られる神田明神の敷地内に2018年にオープンした『神田明神 文化交流館「EDOCCO」』。「伝統を守るだけではなく、新しい伝統の発信基地として神田明神を育てたい」という宮司大鳥居信史氏の思いから誕生した、「伝統と革新」をコンセプトとした施設です。
ガラス張りの建物が神社の境内に美しく融合する風景は新鮮で、外観からもそのコンセプトが伝わってきます。
開幕に際して行われたトークショーでは、鈴木敏夫さん、そして『千と千尋の神隠し』に登場するキャラクター「湯婆婆」の声優を務めた夏木マリさんが登壇。
鈴木敏夫さんと夏木マリさんのトークショーのようす
夏木さんは、宮崎駿さんから「ジブリでは鈴木敏夫が金勘定をしているように、悪者として演じるのではなく、湯屋を立て直すために働く女性として演じて下さい」との言葉を受けて「そうか、鈴木さんの女版だと思って演じればいいんだ」と役のイメージを明確に掴むことが出来たと、『千と千尋の神隠し』アフレコ当時の裏話を披露。
過去さまざまな展覧会を催してきたスタジオジブリですが、今回中心となるのはプロデューサーである鈴木さんの「言葉」。
2017年に広島・筆の里工房、18年に名古屋・松坂屋美術館、石川・金沢21世紀美術館で開催された『スタジオジブリ 鈴木敏夫 言葉の魔法展』をバージョンアップさせたものとして公開となった本展では、まさに湯婆婆のようにジブリを設立当初から支え、盛り上げてきた鈴木さんのパワーを随所に感じることが出来ます。
湯屋の入り口を彷彿とさせるゲートをくぐると、全10のコーナーから成る展示の序章である《書の間》。ここではジブリ作品で実際に使われたコピーや鈴木さんが好きな言葉が、それにまつわる思いとともに紹介されています。
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特に印象に残った書が2つあり、ひとつは「人は言葉でモノを考える。言葉で考えを組み立てる。声に出すと、考えがさらに広がる。そして、自分の作った言葉に支配される。言葉はかくも面白い」。学生時代から「言葉」が好きだったという鈴木さんは、いい言葉に巡りあうと、その言葉を自分のものにしたくなり、書き写したり暗唱したりするのだそう。鈴木さんが生み出してきた沢山の作品のルーツとも思える書ですね。「言葉」を日ごろから意識している人ならきっと、この書のどこかに共感するのではないでしょうか。
もうひとつは「天我をして五年の命を保たしめハ 真正の画工となるを得べし」。これは葛飾北斎が死ぬ間際に残したと言われている言葉で、「天があと5年、私に命保つことを許したとすれば、必ずやまさに本物といえる画工になり得ただろう」という意味ですが、すでに膨大な制作物を生み出している鈴木さんがこの言葉を書にしていることに、何ともいえない重みを感じてしまいました。(余談ではありますが、2015年に信州の北斎館で開催された「北斎とその弟子たち 北斎絵画 創作の秘密」の展示にスタジオジブリは企画協力しています。)
《第一章 少年期~青年期 鈴木敏夫になるまで》は、当時の部屋を模した昭和レトロな空間。卒業文集や学生時代に制作した同人誌に加えて、影響を受けた漫画、思い出の品なども展示されていました。
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次の《第二章 鈴木敏夫の愛した昭和の映画》は、鈴木さんが漫画や遊びと等しく楽しみとしていた映画に関する展示。部屋にはプロジェクターが設置され、当時の映画の雰囲気を味わうことが出来ます。
《第三章 徳間書店時代》では、スタジオジブリ専従となるまで在籍していた徳間書店での制作の様子を紹介。鈴木さんといえば、アニメブームを牽引してきた雑誌「月刊アニメージュ」の2代目編集長を務めたことでも知られていますが、ここで壁一面に並べられた歴代の「アニメージュ」の数は壮観です。
その一部を手に取って読むことも出来るので、アニメ好きな方や当時の読者は思わず読みふけってしまうかも。
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続く《名台詞の間》は、最初の撮影可能スポット。
ジブリ映画に登場する代表的なセリフ、キャッチコピーがオブジェとして展示されています。それぞれの映画の大型タペストリーを背景に、切り抜かれた文字が吊るされており、迫力ある空間となっています。
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《第四章 ジブリにまつわるエトセトラ》では、これまで鈴木さんが携わってきたジブリ作品の資料から、「言葉」が紡ぎ出されるまでのプロセスを紹介。
1994年12月に発表された「となりのトトロ」「火垂るの墓」の関係者向け資料には、この頃に任天堂などのゲーム会社が一斉に話を持ちかけてきたという話から新人研修の応募状況まで記載されており、スタジオジブリの当時の環境についても色々な側面から窺い知ることが出来ます。
《第五章 自分のためでなく他人のために》は、歴代ジブリ作品のキャッチコピーに加えて、ジブリ作品以外の鈴木さんの制作物も集められたコーナー。
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「もののけ姫」以後のジブリ作品では、普遍的なテーマとして「生きる」ことが扱われてきました。絶妙な強弱で書かれた「生きろ。」「生きる力を呼び醒ませ」「生まれてきてよかった。」「生きねば。」の4つのキャッチコピーは、どれも生命力そのものを体現しているかのようです。間近でひとつのコピーを見るのと少し離れた場所から複数のコピー、ポスターも含めて見るのとでは、また違ったパワーを感じられる気がしました。
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直径3メートルもの湯婆婆と銭婆のオブジェが出迎えてくれる《第六章 言葉の魔法》。
「千と千尋の神隠し」の主人公・千尋になったような気分を味わえるこの部屋では、「湯婆婆と銭婆の開運・恋愛おみくじ」が楽しめます。口からおみくじを引く瞬間、夏木マリさん演じる湯婆婆と銭婆が劇中のセリフで話しかけてくれます。油屋のボイラー室にある薬箱をモチーフとした箱から取り出すおみくじには、結果とともに鈴木さんの言葉と解説が。こちらの部屋も撮影可能スポットのひとつです。
《いま、ここに集中する》は、常に「目の前のこと」に集中しているという鈴木さんの哲学に触れられる部屋になっています。
ボリューム満載の展示もいよいよラスト。
《油屋》では、「千と千尋の神隠し」の油屋を忠実に再現したオブジェが、鈴木さんの言葉を背景に佇んでいます。
細部まで精巧につくられているので、作品を見た人なら感動すること間違いなし。しばらく眺めていると、劇中のさまざまなシーンが目の前に浮かび上がってくるようでした。
展示を見終えたあとには、文化交流館「EDOCCO」1階にあるカフェで期間限定メニューを味わうことも出来ます。
左)「となりのカキ氷」(お持ち帰り専用)
右)「まっくろな胡麻おはぎのお茶セット」「白(ハク)米のおにぎり(お茶つき)」
メッセージ性あふれる鈴木氏の書は、ジブリファンならずとも来場者にとって言葉の持つ力、そして「伝えること」についても改めて考えさせてくれるものとなるでしょう。
平成から令和へと続く時代の節目、初夏の風を感じながら神田明神へと足を運んでみてはいかがでしょうか。
鈴木敏夫とジブリ展
会 場:神田明神 文化交流館「EDOCCO」内 神田明神ホール
<御茶ノ水駅 徒歩5分/秋葉原駅 徒歩7分>
会 期:2019年4月20日(土)~5月12日(日)(会期中無休)
時 間:10:00~18:00(最終入場 17:30)(営業時間は変更の可能性あり)
入場料:大人1,300円、中高生800円、小学生600円
http://ghibli-suzuki.com/
ⒸTS ⒸStudio Ghibli
「*」の写真は主催者提供
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