- 2019.03.08
“着る” アフリカ展
2019年2月28日(金)多田 美由紀
“衣” 文化視点で見るアフリカの景色やいかに?
横浜市栄区・本郷台駅のほど近くに、特徴的な球体の建物がある。世界の暮らしや文化、地球規模の課題といった国際平和・国際理解への知識を深めるための総合施設「あーすぷらざ」だ。そう、名前からわかるとおり、建物の形状は地球を象徴している。その時々でさまざまな国の文化を紹介する催しが開かれているが、現在は“着る”という視点から衣服を通してアフリカ文化を紹介する「“着る”アフリカ展」が開催されている。
今年8月に横浜で開かれる「第7回アフリカ開発会議(TICAD7)」に合わせた企画展だそうだ。
平和を愛する超スタイリッシュ集団 “サプール”
「なんだこの洒落者の伊達男たちは!」
一目見るなり、まずはその洗練された佇まいに心奪われる。ともかくスタイリッシュ。
難易度の高いヴィヴィッドカラーのスーツや粋な小物をサラリと着こなしてしまうこの男たちは、いったい何者なのだろう?そんな風に世界中で多くの人の心をザワつかせている彼らの正体は、「世界一お洒落な男達」とも称される“サプール”である。
「“着る” アフリカ展」の先陣を切るのは、そんな洒落者集団サプールの面々だ。展示エリアには、日本人写真家SAP CHANO氏が撮影した60点あまりの写真が並ぶ。
サプール(SAPEUR)とはコンゴ独自のファッション文化で「お洒落で優雅な紳士協会」という意味のフランス語(Société des Ambianceurs et des Personnes Elégantes)に由来し、時に彼らはサップ(SAPE)と呼ばれることもある。メディアで目にするサプールの多くは男性だが、サプールには女性(“サプーズ”と呼ばれるらしい)もいるし展示写真には子供の姿も見受けられる。
「平均月収3万円」と決して裕福とは言えない経済状況のコンゴで、彼らはただ自分を着飾って見せるためだけに洋服に大枚をはたいているのだろうか?答えは“NO”だ。
政治による動乱で2度にわたる内戦を経験してきたコンゴ。
「いい格好をしていると争いは生まれないんだよ。5000ユーロの靴を履いていても、戦争で略奪されたら自分の負け。だからサップは争いごとはしない。平和が大切」
そんな某サップの言葉が彼らのスタンスを象徴しているように、「平和だからこそお洒落もできる」「服が汚れるから争わない」というわけだ。彼らのファッションには、そんな平和へのメッセージが込められているのである。
「お洒落な服が着たけりゃまずは働くことだ」
仕立屋の店主が若者にそう声をかけることもあったりと、コンゴの人々にとってファッションは平和のシンボルであり労働のモチベーションにもなる極めてポジティブな社会的ツールのようだ。
サプールがこだわるのは服装だけではない。歩き方、立ち振る舞い、言葉使い、パイプのくわえ方(あくまで小道具で吸うことはない)などすべてが計算されつくされている。彼らにとって、美の流儀に反することは野暮なのだ。サプールは、そんな生粋の洒落者たちなのである。
写真にはサプールのスタンスを象徴する言葉が添えられている。
“人生で一番たいせつなものは愛、そして自由。” 写真 ⒸSAP CHANO
“サプールの一員である以上は、暴力や嫉妬、争いとは無縁だ。” 写真 ⒸSAP CHANO
実は、コンゴ共和国とコンゴ民主共和国ではサプールの様相がだいぶ異なる。
一般にイメージされる鮮やかな色調の服を纏った人々は、コンゴ共和国のサプールだ。一方、コンゴ民主共和国のサプールの着こなしは色調がグッとシックになる。彼らの間では、日本のデザイナーブランドYOHJI YAMAMOTOが大人気らしい。YOHJIといえば何といっても黒である。なるほど。写真を見ると、コンゴ民主共和国のサプールたちは黒を基調としたファッションに身を包んでいる。中には、ジャケットのライナーに縫い付けられた“YOHJI YAMAMOTO”のタグを得意げに見せびらかすサプールもいる。
サプールの存在を知ると、多くの日本人が持つ「曖昧で根拠のないステレオタイプなアフリカのイメージ」がだいぶ変わるのではないだろうか。
自慢のワードローブコレクションを披露するサップ
写真 ⒸSAP CHANO
語る衣服 “カンガ” ~妻の無言のメッセージに夫は冷や汗!?
次の展示エリアでは「女性の“衣”カンガ」にスポットを当てている。
さきほどの西洋文化の香り漂うサプールの“衣”に対し、こちらはアフリカの大地のエネルギーを感じさせるプリミティブで民族的な香りがする。
カンガは160×110cmサイズの綿100%の布で、主にケニアやタンザニアなどの東アフリカで用いられている。ワンピースやスカートなど着衣として使用するのはもちろん、ターバンやストールといったファッション小物や赤ちゃんの抱っこ紐としても使える優れものだ。
外側に四角い枠があり、その中に図柄が並ぶのが基本デザインとのこと。色調や図柄のバリエーションが豊富なカンガだが、どうやらアフリカ女性たちは色やデザインだけでカンガを選ぶわけではないらしい。カンガにとってなくてはならない存在が、すべてのカンガに記されているスワヒリ語の文言「ジナ」である。かつてケニア女性300人を対象に行った意識調査では、色やデザインを抜いて「ジナ」がカンガを選ぶ際のポイントのトップだったそうだ。
ジナのバリエーションは多岐にわたり、女性たちはマーケットで主にジナを基準にカンガを選ぶという。夫に不満があるときに、妻がカンガを介してその気持ちを伝えることもあるようだ。浮気を繰り返す夫に対して「どの肉屋を回っても無駄なこと、どこも同じ味」と書いたカンガを纏う妻もいるらしいから、ご主人には気の毒だが思わず失笑してしまう。
なぜ衣服にここまでメッセージ性を持たせたのだろう? そこには、スワヒリ社会の文化的背景があった。イスラーム世界の影響で「沈黙と忍耐」が美徳とされてきた女性たちにとって、人前で堂々と自分の意見を口にすることはタブー視されてきたそうだ。そんな「もの言えぬ女性たち」に代わって想いを語ってくれるのがカンガというわけである。
ジナの中には、スワヒリの伝統的な英知を表す2文節の諺「メサリ(methali)」も多く見られるそうだ。これがまた、なかなかいいのである。メサリには比喩的で含みを持たせた言い回しのものが多く、メッセージを送る側と受け取る側の関係によって解釈の仕方が変わってくるというあたりも興味深い。
ここに、展示品のカンガにあったジナを2つばかりご紹介しておく。
「嫉妬は、中途半端な椰子の実と同じように役に立たない。
私にとってはなんでもないこと」
「もし沈黙が良くないことならば、言葉も役に立たないのである」
アフリカの “衣” 文化に会えるのは3月24日まで
最後のエリアには、アフリカへの知識を深めるためのパネル展示や撮影OKの民族衣装体験コーナーなどがある。壁には大きなアフリカの地図が掲げられ、各国の特産品や名所などが書き込まれている。一口に「アフリカ」といっても、なんとそこには50を超える国があるのだ。サハラ砂漠やピラミッド、ヘミングウェイの小説でも知られるキリマンジャロなどを擁する広大な大陸はとてもエキゾチックで魅力的に映るが、私たちはアフリカのことをどれだけ知っているだろうか。
「サプールってどんな人たち?」「カンガって実際はどんな色?」
そんなふうにアフリカの“衣”の文化に興味を持たれた方は、ぜひ足を運んでほしい。
会期は3月24日までなので、どうぞお見逃しなく。
“着る” アフリカ展
会 期:2019年1月19日(土)~3月24日(日)
休館日:月曜日
時 間:10:00~17:00
会 場:神奈川県立地球市民かながわプラザ(あーすぷらざ)3階企画展示室
JR根岸線「本郷台駅」徒歩3分
神奈川県横浜市栄区小菅ケ谷1-2-1
入場料:無料
http://www.earthplaza.jp/event/kiru_africa/
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