- 2019.02.18
六本木クロッシング2019展:つないでみる
2019年2月8日(金)多田 美由紀
平成が終ろうとする今、若き芸術家たちは何を想うのか?
現代アートである。
美術に興味があろうがなかろうが、花瓶に生けた花を忠実に描いた絵画のように「ああ綺麗ですね」と簡単には解釈できない類の「アレ」である。
ということで、改めて「現代アートとはなんなのか」をざっくりさらってみた。
一口で説明するのは難しいが、どうやら「現代の世相を反映し、社会へのメッセージ性が込められている」という点が核になるようだ。
まさに「今」を生きているアーティスト25人による現代アート作品が、六本木ヒルズに集結した。それが、今回ご紹介する「森美術館15周年記念展 六本木クロッシング2019:つないでみる」である。
写真、オブジェ、絵画、映像などさまざまな表現方法によって、各アーティストが「メッセージ」を発信している本展。
「現代アートは難易度が高い」と食わず嫌いせずに、理屈やうんちく抜きで純粋に自分の感性で作品を楽しんでみてはいかがだろうか。
「ピンクの猫の小林さん」は決して手の内を見せない
最初に我々を出迎えてくれるピンク色の巨大な猫は、その名を「小林さん」というらしい。400×540cmと堂々たる体格なのだが、それゆえ窮屈そうに展示スペースに収まっている。
ところが、この窮屈な佇まいには飯川雄大氏のメッセージが込められていた。
会場には「小林さん」と共に飯川氏が撮影した写真が展示されているが、作品を通じて表現したのは「現代社会で物事の本質や全体像を掴むことの難しさ」。
「小林さん」は、観覧者がどの角度から見ても必ず「どこか見えない部分」があるように展示されていて、蛍光ピンクのポップな風貌とは裏腹に決して手の内を見せず簡単にはしっぽを掴ませない複雑な性質の猫らしい。
こんな「隠されたメッセージ性」を読み解きながらアーティストと観覧者が間接的に対話をするのも、現代アートの楽しさかもしれない。
飯川雄大《デコレータークラブ―ピンクの猫の小林さん―》 2019年
近未来にはロボハラも!? 陶芸講師アンドロイドとの不倫
映像、ストーリー、オブジェ、音楽など多要素を交えて制作されたミクスト・メディア・インスタレーション《人工的な恋人と本当の愛-Artificial Lover & True Love-》は、非常に発想がユニークだ。
林 千歩《人工的な恋人と本当の愛-Artificial Lover & True Love-》 2016/2019年
音楽:渋谷慶一郎 作詞:渋谷慶一郎、林 千歩 歌:林 千歩
陶芸教室を経営する妻子あるアンドロイドが、自身の教室の生徒である人間の女性と不倫をするというストーリー。映像内で2人(?)がろくろを回すシーンは、映画ゴーストを意識したパロディ精神も入っているのではと思われニヤリとしてしまう。
この映像が上映されているのは、不倫当事者のアンドロイド先生の自室(社長室)である。壁に女性のランジェリーを飾っているあたり、この先生かなり好色と見える。しかも、不倫をしておきながらデスク上に飾った妻と子供の家族写真を眺めて家庭人ぶるという一面もあり、「アンドロイドの分際で生意気な!」と思わずイラっとしてしまいそうだ。
そこで思わずとハッとする。日々メディアでは「AI」と言う単語が飛び交いロボットが私たちの生活に浸透していく中、このインスタレーションの設定が現実になることも十分あり得るんじゃなかろうか。ましてや「ロボットのくせに!」などと言ったら「差別だ」「ハラスメントだ」と訴えられる“ロボハラ”時代も来るかもしれない。今ですら、飲食店でオーダー用デンモクをきちんとホルダーに置かないと「きちんと戻してください」と上から語調で叱られる始末である。
個人的には、色々な意味で印象に残った作品だった。
予備知識の有無とそれぞれの楽しみ方
個人の勝手な推測で申し訳ないが、おそらく若きアーティストのみなさんは「もちろん作品から何かを感じてくれるに越したことはないが、小難しいことを考えずに単純に作品を楽しんでくれたら嬉しい」と思っているのではないだろうか。なんの予備知識も先入観もなくとも、「うわぁ、すごい!」「大きい!」「かわいいね」などと感想を持ってくれたらそれでいい、見方は人それぞれ自由であるべき ― そんなおおらかな発想を持つ人が、現代アートを通じてメッセージを表現しようと試みるのではないだろうか。今回の企画展を通じて芸術的表現者の発想の自由さと豊かさに触れ、そう感じた。
もちろん、アーティストの意図や経歴を知っているからこそ見えてくる面白さもある。
壁の絵が「描かれたもの」か「塗料を削り取ったもの」かを知っているかどうかでは見る目も変わるだろう。描かれた形を無意味な波形と見るか株式市場NASDAQの総合指数予測グラフと知って見るかで印象は違うし、さらにそのアーティストの経歴が元トレーダーと知れば「なるほど」と思ったりもする。
川久保ジョイ《アステリオンの迷宮 ─アステリオンは電気雄牛の夢をみるか?》 2019年
仮面をかぶった人が無言でどこかを指差す映像作品では、「人々が311震災の被害者」で「差しているのが家の方向」と知った途端、また違った感情が込み上げてきたりもする。
猫たちのオリンピックのかわいい光景にほっこりしていると、イラストに描かれた入場選手たちが「ハイル・ヒトラー」とばかりに例の独裁者を称えるナチス式敬礼をしていたりしてドキリとする。「ん?これは?」と思うと、やはりそこにアーティストの「メッセージ」が隠されていたりするのだ。
毒山凡太朗《あっち》 2019年
竹川宣彰《猫オリンピック:開会式》(部分) 2019年
一方、理屈や予備知識を抜きにして、巨大な猫、巨大なアイスクリーム、1300匹を超える猫のオブジェ、高く積み上がった木材やドラム缶を見て「うわぁ、すごい!何これ!」と楽しむ鑑賞スタイルもあるだろう。そこを入り口に「なんでこれが?」「どういう意味?」と逆算方式でアーティストのメッセージにたどり着く場合もあるかもしれない。
左)ヒスロム《いってかえって -向かう2》 2019年
右)土屋信子《これがストロベリーアイスクリームでできた細胞なんですね!、、、ほほー、、、んっ?》 2019年
現代らしく、スマホカメラの撮影を前提としたインスタレーションも。
フラッシュの有り無しで全く違う色合いに。
アンリアレイジ《A LIVE UN LIVE》 2019年
森美術館キュレーターおすすめの現代アートの表現者たちは、今の時代に何を見て何を感じているのだろうか。アーティストたちの多様な感性が垣間見られる本展は、平成から新しい時代に移り変わるこのタイミングにふさわしいと感じた。
招待券をプレゼント!
本コラムの読者の皆さまに感謝を込めて、抽選で5組10名様に「六本木クロッシング2019展:つないでみる」の招待券をプレゼントします。メールフォームの件名を「つないでみる」として「お名前」「メールアドレス」、内容欄に「送付先の郵便番号・住所」を明記のうえ、ご応募ください。
応募締切:2019年3月3日(日)
ご応募はこちらから!
森美術館15周年記念展
六本木クロッシング2019展:つないでみる
会 期:2019年2月9日(土)~2019年5月26日(日)
休館日:会期中無休
時 間:10:00~22:00(火曜日は10:00~17:00)
※いずれも入館は閉館時間の30分前まで
※ただし4月30日(火)は22:00まで
※「六本木アートナイト2019」開催に伴い、5月25日(土)は翌朝6:00まで
会 場:森美術館
港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
入館料:一般1,800円、学生(高校・大学生)1,200円、4歳~中学生600円、
シニア(65歳以上)1,500円
※本展のチケットで展望台 東京シティビューにも入館可(スカイデッキを除く)
https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/roppongicrossing2019/
関連記事
-
- みんなのミュシャ 2019.07.25
-
- information or inspiration? 2019.05.13
-
- 鈴木敏夫とジブリ展 2019.05.08
-
- “着る” アフリカ展 2019.03.08