2018.08.01

ショーメ 時空を超える宝飾芸術の世界

ショーメ 時空を超える宝飾芸術の世界 1780年パリに始まるエスプリ
 
 

2018年7月13日(金)多田 美由紀
 

女性なら必見!まばゆく煌めくリュクスなショーメ・ワールド
 

リアンやトルサードといったラインが人気のハイジュエリーブランド、ショーメ。1780 年創業、世界屈指の高級ジュエラーの足跡を振り返るコレクションが、丸の内の三菱一号館美術館で開催中だ。来訪時は来場者の大半を女性が占めていて、みな一様に目をキラキラさせて羨望の眼差しで展示品を見つめていた。女性なら誰しも心躍るような魅惑的なコレクション。まさに「時空を超えて」リッチな気分を味わえる、濃密な空間という印象を受けた。
 
 

宝飾展ならではの厳かな空間に、一気に気分が高まる
 

最初の展示室に足を踏み入れた瞬間、外界とは空気が一変する。ほの暗い照明、煌めきを内包したガラスケース、展示品を警備するガードマン、威厳に満ちた貴族の肖像画、― 厳かで非日常的な空間にキュッと身が引き締まると同時に、「これから何が始まるんだろう?」というワクワク感を禁じ得ない。フランス皇帝ナポレオン1世をはじめ、多くの王公貴族に愛されてきた老舗メゾンによるリュクスなエンターテイメントショーの始まり!とばかりに一気に期待感が高まる。
壁に掲げられたナポレオン1世やその妻ジョゼフィーヌの肖像画に敬意を表しつつ、彼らとゆかりのある展示品を鑑賞。その中でひときわ来場者の関心を引いていたのが、ナポレオン1世が教皇ピウス7世に贈呈したティアラだ。シルクのヴェルベットに赤、青、緑などのカラフルなストーンで装飾を施した神聖なるティアラ。少なくとも高さ50センチはあろうという代物で、堂々たる存在感を放っている。ケースの脇に立つガードマンが、さらにティアラの崇高さを際立てているように思われた。
 

フランソワ・ジェラール《戴冠衣装の皇帝ナポレオン1世》 1806年 油彩 カンヴァス
パレ・フェッシュ美術館、アジャクシオ © Palais Fesch, musée des Beaux-Arts

 

アンリ・オーギュスト、マリ=エティエンヌ・ニト、レニョー・ニト
《皇帝ナポレオン1世より贈呈された教皇ピウス7世のティアラ》 1804-1805年(後世に数回修復)教皇庁聖具質、ローマ
© Chaumet / Régis Griman

 
 

壁一面のティアラが圧巻の「Ⅲ 戴冠!ティアラの芸術」は絶好の撮影スポット
 

多くの王公貴族の顧客を持つショーメは、「ティアラといえばショーメ」というイメージが定着するほど多数のティアラ制作を手がけてきたジュエラーでもある。展示室「Ⅲ 戴冠!ティアラの芸術」では、黒を基調とした部屋の壁一面に数々のティアラが並ぶ。約20点のティアラと約200点のニッケル=シルバーモデルが壁を埋めつくすその光景は圧巻だ。カーネーション、パンジー、ジャスミン、野バラなど花をモチーフにした作品が多く、カラーストーンやダイヤモンドで繊細に表現されたティアラの数々はまさにため息の出る美しさだった。本展で一番見応えがあると思われるこの展示室では、写真撮影が可能。眩いティアラの煌めきをカメラに収めて持ち帰ることができるのは、なんとも嬉しい。宝石は身に付けて動くことで光の表情が変わって美しさが際立つので、動画の撮影をお勧めしたい。上下左右にカメラを振りつつアングルを変えて撮影すれば、より臨場感のあるリアルな美しさを再現できる。
 

ジョゼフ・ショーメ《カーネーションのティアラ》1907年 個人蔵 © Courtesy of Albion Art Jewellery Institute

 

ショーメ《ティアラ「鮮紅色の情熱」》2016年「ナチュール ドゥ ショーメ」ショーメ・パリ © Chaumet

 

ジャン・バティスト・フォサン《「ロイヒテンベルク」のティアラ》1830-1840年頃 ショーメ・コレクション、パリ
© Chaumet/Nils Herrmann

 
 

ショーメが得意とする、自然界がモチーフの歴代ジュエリーたち
 

ティアラの美しさの余韻に浸りつつ順路に従い室外へ出ると、ガラス張りの廊下から一気に外光が目に飛び込んでくる。展示室はストーンの美しさを引き立てるためかなり光量が落としてあるので、急に目の前が明るくなって非日常から現実に引き戻された気分になった。とはいえ、緑が綺麗な中庭を見下ろしつつ階下の展示室へ向かうのはなかなか気分が良い。
ショーメお得意の植物や昆虫モチーフのジュエリーを集めた「Ⅴ 自然を披露する」では、展示品の制作年の並びがかなりランダムだ。1800年代、1920年代、1970年代、つい最近の2016年とあらゆる年代の作品が見事にシャッフルされて順不同に展示されている。にもかかわらず、全く違和感がないことに驚いた。ストーンのカットやセッティングなどを細かく観察すれば年代の差を感じるとは思うが、一見したところなんの違和感もない。これは、ショーメが創業以来タイムレスなデザインを創り続けてきたメゾンである証なのでは、と感心させられた。
 

ショーメ《タコのネックレス》1970年 両シチリア王国ブルボン家王女コレクション © Chaumet/Nils Herrmann

 
 

本展のために制作された日本へのオマージュジュエリー
 

本展の最終章「Ⅷ 遥けき国へ―ショーメと日本」では、日本とゆかりのある作品が展示されている。中でも注目なのは、本展のために制作されたネックレス、イヤリング、ブローチ、ブレスレット、リングのハイジュエリーセット「シャン ドゥ プランタン」。日本的な古風さと現代のテイストが共存したような、幾何学模様と植物モチーフを融合させたデザイン。ルビー、ルベライト、スピネル、ガーネットなど赤いストーンをふんだんに使い、オニキス、ダイヤモンドと合わせての赤・白・黒という配色からも日本が感じられる。
今回の展示では、ディオールやルイ・ヴィトン、エルメスなど有名メゾンのショーやイベントを手がけてきたビュロー・ベタク社による演出も見どころの一つとなっている。特に印象的だったのは、最後の展示室における視覚と聴覚に訴えかける幻想的な演出だ。暗い展示室に入ると聞こえてくる雷鳴と雨音。スクリーンの中に降る雨。スクリーン中央には、独創的なライティングに照らされた展示スペースが浮かび上がる。最初、ナポレオンの肖像画が出迎える荘厳でクラシカルな空間に足を踏み入れたはずが、最後にたどり着いたのは極めてフューチャリスティックな世界だった。これも「時空を超える」というテーマに沿った演出だろうか。
 

ショーメ《日本に着想を得たネックレス》2018年 グアッシュ ショーメ・パリ© Chaumet

 

ジュエリーショップとは一味も二味も違う宝石の魅力を存分に味わわせてくれる今回のショーメ・ワールドには、さながら大人のための贅沢なエンターテイメント空間という印象を受けた。特に女性にとっては、かなり魅力的な美術展と映るのではないだろうか。
 
 


 

ショーメ 時空を超える宝飾芸術の世界 1780年パリに始まるエスプリ
会 期:2018年6月28日(木)〜9月17日(月・祝)
休館日:月曜日(但し、9月10日、9月17日と、トークフリーデーの8月27日は開館)
時 間:10:00〜18:00(金曜、第2水曜、9月10日〜13日は21:00まで)
    ※入館は閉館の30分前まで
会 場:三菱一号館美術館(東京都千代田区丸の内2-6-2)
入場料:一般1,700円、高校・大学1,000円、小・中学生500円
https://mimt.jp/chaumet/