2018.06.11

ミラクル エッシャー展

ミラクル エッシャー展 奇想版画家の謎を解く8つの鍵
 

2018年6月5日(火)多田 美由紀

“だまし絵”だけじゃない 本当のエッシャーに会いに行こう!
 


 
 

所蔵館でも常設展示されていない152点が日本初上陸
 

「上から水が流れて落ちて・・・あれれれ?」
よく見てみるとどこかがおかしい、そんな“だまし絵”で知られるエッシャー。「水の低きに就く如し」と人間の性善説を説いた孟子も、彼の作品には思わずニヤリとしてしまうのではないだろうか。そんなエッシャーの生誕120年を記念して、世界最大のエッシャーコレクションを誇るイスラエル博物館所蔵作品が日本に初お目見えした。代表作《滝》や《相対性》を含む152点に及ぶ見ごたえのあるコレクション。今回の作品群は日本初上陸というだけでなく、本家イスラエル博物館でも保存上の理由で常設展示されていないレアなもの。つまり、わざわざイスラエルに赴いても見られないコレクションが日本で見られる非常に貴重な機会となる。エッシャーの優れた技術やデザインセンス、発想のユニークさなどを存分に味わうことができる作品の数々。見終わったあとには「エッシャー=だまし絵」というステレオタイプなイメージが変わる人も多いのではないだろうか。
 


 
 

8つのキーワードから版画家エッシャーの魅力を紐解く
 

本展では「科学」「聖書」「風景」「人物」「広告」「技法」「反射」「錯視」の8つのセクションで作品を展示し、“版画家エッシャー”の魅力を紹介している。エッシャーというとだまし絵のトリッキーな妙味に焦点が当たりがちだが、作品を鑑賞してまず感じるのは版画家としての技術レベルの高さ。その細かい描写や繊細な表現に、ついつい足を止めて魅入ってしまう。そこでふと「エッシャーは画家ではなく“版画家”」ということを思い出し、改めて驚嘆する。たとえ描画であってもかなりのクオリティといえる精緻な表現を、版画でさらりとやってのけるエッシャー。順路に従って作品を鑑賞する中、彼の版画家としての資質に何度も感心させられた。
 

《トンボ》 1936年 木口木版

 

《眼》 1946年 メゾティント

 
 

意外?エッシャーの宗教画、風景画、人物画、商業デザイン
 

代表作のだまし絵に登場する建物や人物は、どこか現実離れした寓話的な世界観で表現されることが多い。また、正則平面分割や平面充填などモチーフを並べて敷き詰めるエッシャーお得意の手法でも、魚や鳥などのモチーフはかなりデフォルメされた形で登場する。本展では、そんなエッシャーによる“実在する対象物のリアルな表現”が見られるのも興味深い。「風景」や「人物」のセクションでは、かつて住んでいたイタリアの風景や自分の家族など、“身近な現実の世界をそのまま切り取った”エッシャー作品に触れることが出来る。敬虔(けいけん)なカトリックであったエッシャーによる、天地創造や聖人を題材とした作品を展示した「聖書」、ポストカードや便箋デザインなど商業デザイナーとしての顔が垣間見られる「広告」など、各セクションを通じて「エッシャーが“私たちがよく知るエッシャー”になるまで」の過程が楽しめる構成となっている。
 

《循環》 1938年 リトグラフ

 

《アマルフィ海岸》 1934年 木版

 
 

パンに描いたハムのちぎり絵はのちに大作へ
 

《メタモルフォーゼⅡ》1939-40年 木版  ※クリックで拡大表示

 


 

少年時代のエッシャーは、パンの上にハムを細かくちぎって並べてから食べていたという。この頃から、幾何学的な模様や連続したモチーフに興味があったのだろう。本展の目玉である4メートルの大作《メタモルフォーゼⅡ》は、そんなエッシャーの子供時代からの感性の集大成のような作品だ。20枚もの版木を使って制作された本作は、「エッシャー自身による初版」という点でも非常に貴重で話題となっている。「METAMORPHOSE」のタイポグラフィからモザイクへ、そしてさらに異なるモチーフへと次々に変化していく― その様子を目で追っていくのは非常に楽しい。モノクロの世界に途中から赤が加わりまた消えていく― そんな赤の色彩の抜き差しが、さらに作品を変化に富んだものにしている。生誕から120年経った今でも、彼のデザインは全く古く感じない。レトロモダンではなく普通に新鮮だ。今の時代に彼が生きていたら、敏腕デザイナーになっていたのではないだろうか。帰りに美術館を出るときには「だまし絵のエッシャー」という固定観念が払拭され違うイメージに書き換えられている、そんな新しい発見のある美術展と感じた。
 

All M.C. Escher works copyright © The M.C. Escher Company B.V. – Baarn-Holland. All rights reserved. www.mcescher.com

 
 

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招待券をプレゼント!
本コラムの読者の皆さまに感謝を込めて、抽選で5組10名様に「ミラクル エッシャー展」の招待券をプレゼントします。メールフォームの件名を「エッシャー」として「お名前」「メールアドレス」、内容欄に「送付先の郵便番号・住所」を明記のうえ、ご応募ください。
応募締切:2018年6月22日(金)
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ミラクル エッシャー展 奇想版画家の謎を解く8つの鍵
会 期:2018年6月6日(水)〜7月29日(日)
休館日:会期中無休
時 間:10:00〜17:00(金曜日は〜20:00、入館は閉館の30分前まで)
会 場:上野の森美術館(東京都台東区上野公園1-2)
入場料:一般1,600円(1,400円)、
    大学・高校生1,200円(1,000円)、中学・小学生600円(500円)
    ※()内は団体料金
http://www.escher.jp/