- 2018.05.01
フランス絵本の世界
鹿島茂コレクション フランス絵本の世界
2018年4月6日(金)渡邉 理絵
─ 出会いと思い出の交差点 ─
目黒駅から徒歩10分の距離に、緑豊かな庭園美術館があります。宮家の朝香宮邸として建てられた邸宅で、戦後吉田茂元首相の首相官邸に使われたり、迎賓館として使われたりしたこともある歴史ある重要文化財の建物です。
- 西洋庭園
- 本館 正面外観
- 本館 大客室
- 新館 アプローチ
アール・デコ様式の美しい内装の本館を抜け、新館に向かうと今回ご紹介する「鹿島茂コレクション フランス絵本の世界」が開催されています。
鹿島茂氏の研究を兼ねた私的なコレクションとのこと。コレクションの中でも歴史を形作るフランスの絵本をセレクトしたそうです。
特にフランスの児童書・絵本の歴史に大きな足跡を残したとされるのが編集者・執筆者として活躍したピエール=ジュール・エッツェル(1814-1886)と言われ、彼が立ち上げたエッツェル出版の展示が前半部分を占めています。
「ガリバー旅行記」や「海底二万里」「家なき子」など、馴染みあるタイトルの本がいくつかありました。「レ・ミゼラブル」のエミール・バヤールのコゼットの絵やギュスターヴ・ブリオンのジャン・バルジャンの絵も見ることができました。コゼットの絵はミュージカルのチラシやポスターで見慣れていたので、その出会いに嬉しくなりました。いずれも絵本というよりは少し大きい子供のための小説の挿絵のような位置づけです。挿絵は白黒のイラストなのですが、本の表紙がカラフルで豪華。例えばジュール・ヴェルヌの「驚異の旅」シリーズは、凝った装丁のもので特に色合いの鮮やかなものでは豪華版元装丁版と呼ばれているものです。
フランスでは乳母に子供を預けて幼児まで育ててもらう歴史的経緯があり、乳母の識字率が低いことで小さい子どもの為の絵本が少なかったようです。近代になり専業主婦や教育熱心な母親が増えるにつれ盛んに絵本も作られるようになったようです。今回の展示品は鹿島氏が30年に渡り現地の古本屋や書店から発掘したものが中心です。現地ではまとまって児童書を扱う書店自体少なかったということで、こうしてまとまって見ることができるのはとても貴重な機会なのです。
左)ジュール・ヴェルヌ著/エドゥアール・リウ、アルフォンス・ド・ヌヴィル絵 『海底二万里』1910年頃(1869年初版)©NOEMA Inc. Japan
エッツェルがP.-J.スタールの筆名で書いた「リリちゃん」という女の子の人気シリーズも生まれました。イラストはロレンツ・フルリック。今回初めて目にしたのですが、「リリちゃんシリーズ」の他にも「かわいいだだっこの物語」「すばしっこい鹿」など日常の何気ない子供の姿がかわいらしく思わずじっくりとのぞき込んでしまいました。
アンドレ・エレ(1871-1945)は、1925年のアール・デコ博覧会のおもちゃ部門に玩具を出品するなど、まさにアール・デコ時代に活躍した作家です。エレによる、クロード・ドビュッシー作曲のバレエ音楽「おもちゃ箱」のイラストもありました。エレのイラストを見てインスピレーションを得たドビュッシーが作曲したというピアノ譜が絵本に添えられています。バレエ音楽として管弦楽への編曲中にドビュッシーが病死し、友人のアンドレ・カプレが完成させたといい、フランスのアーティスト同士の交流が生んだ作品です。1919年にエレの舞台装飾と衣装デザイン、振付家キノーの演出によりパリのリリック劇場で上演されました。また、展覧会開催中のイベントとして、庭園美術館でドビュッシー作曲「おもちゃ箱」のコンサート(ピアノ演奏、ナレーション、映像)も行われました。
このバンジャマン・ラビエの描くユーモラスでかわいいイラストは特徴的ですね。眉毛の効果で表情が豊かな動物となっています。アヒルの「ジェデオン」のシリーズはフランスで大人気だったとか。
左)バンジャマン・ラビエ著・絵『アゾールとミスティグリ』出版年不明(1911年初版) ©NOEMA Inc. Japan
「アゾールとミスティグリ」は展示を見ながら妙に気になる存在となり、ミュージアムショップでついグッズを購入してしまうほど。不思議な魅力のある動物たちです。
そして、世界中で読まれるジャン・ド・ブリュノフの「ぞうのババール」シリーズも見ることができました。私は小さい頃読んだことがあり、自分の子供にはまだ読ませていなかったのですが、子供は絵を見て一目でババールを気に入ったようです。擬人化されていて、かわいくて身近に感じられるキャラクターです。見た目はとてもかわいいけれど、実は社会的な風刺も感じられるストーリーには、大人になって改めて読むと新たな発見がありました。展示を見た後で何冊か読み、今では私の子供も大好きな絵本の一つになりました。展覧会期間中はミュージアムショップでも「ぞうのババール」の絵本を購入することができます。
ぜひ、新緑が綺麗なこの季節に、3月にリニューアルオープンし、バリアフリーとなった庭園美術館の美しい庭園と、アール・デコ様式の装飾、フランス絵本との新たな出会いと思い出との出会いを、いずれもお楽しみ下さい。
招待券をプレゼント!
本コラムの読者の皆さまに感謝を込めて、抽選で5組10名様に「鹿島茂コレクション フランス絵本の世界」の招待券をプレゼントします。メールフォームの件名を「フランス絵本」として、「お名前」、「メールアドレス」、内容欄に「送付先の郵便番号・住所」を明記のうえ、ご応募ください。
応募締切:2018年5月11日(金)
ご応募はこちらから!
鹿島茂コレクション フランス絵本の世界
会 期:2018年3月21日(水)〜6月12日(火)
休館日:第2・4水曜日(5/9、5/23)
時 間:10:00–18:00(入館は17:30まで)
会 場:東京都庭園美術館<新館>(東京都港区白金台5-21-9)
入場料:一般900円、大学生720円、中高生450円、65歳以上450円
※小学生以下および都内在住在学の中学生は無料
※第3水曜日(シルバーデー)は65歳以上の方は無料
http://www.teien-art-museum.ne.jp/
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