2017.12.01

デンマーク・デザイン

日本・デンマーク国交樹立150周年記念
デンマーク・デザイン
 

2017年11月22日(水)飯島順子
 

北欧インテリア好きにはたまらない展覧会「デンマーク・デザイン」が長崎、神奈川、静岡を巡回後、いよいよ東京で始まりました。19世紀後半からミッドセンチュリーを経て現在に至るまで、デンマークのデザインにスポットを当て、数々の巨匠たちがつくり出した家具、食器、照明器具、日用雑貨などが一堂に会した本展。デンマークならではの「ヒュッゲな暮らし」を垣間見ることもできます。
開催前日に行われた報道発表会に伺ってきましたので見どころをご紹介します。
 

『コンポート、皿、バターパット<ブルーフルテッド>』ロイヤル コペンハーゲン/塩川コレクション

 

世界的に認められた
最初のデンマーク・デザインとは

 

日本でもここ数年、「好きなインテリアに囲まれた暮らし」に注目が集まっています。その中でも北欧インテリアは、シンプルで美しく、機能性が高いとあって大人気。私も北欧インテリアに魅せられた一人ですが、デンマーク出身のデザイナーの作品をここまでじっくり鑑賞したのは初めて。
本展は時代ごとに全4章から構成されており、第1章は「国際的評価を得た最初のデンマーク・デザイン」。日本人にとってもなじみが深い、ロイヤル コペンハーゲンの食器をメインに展示してあります。白磁にブルーの絵柄はロイヤル コペンハーゲンの特徴ですが、当時、焼付の際に1400℃の高温に耐えられるのは、コバルトブルーの顔料だけであったそうです。代表作のブルーフルテッドは中国の磁器に由来し、ドイツのマイセンを経由して18世紀後半にデンマークで誕生したもの。シンプルで上品なデザインは見た目の美しさだけでなく、どんなシーンにも、どんな料理にも合わせやすいため使い勝手のよさも魅力。それが200年以上たった現在でも、世界中で愛されている理由なのでしょう。
 

クラシックとモダンが融合した
機能的な折りたたみ椅子

 

第2章の「古典主義から機能主義へ」は、クラシカルな雰囲気にモダンテイストが加わった1930、1940年代の椅子や机、照明器具が並びます。特に存在感を強く感じたのは、「デンマーク・モダン家具の父」と呼ばれたコーオ・クリントの『レッドチェア』(1927年)。レッドといっても実際の色は赤みがかった茶ですが、もともとは赤い山羊革。1700年代にイギリスで作られた、チッペンデール・チェアのリデザインで重厚感が漂います。
同じクリントのデザインでも、これとは対照的に現代的な機能美を追究したと思われるのが肘掛椅子『サファリチェア』。隣に展示されているクリントの弟子、モーウンス・コクの『折りたたみ椅子』も、当時としては斬新なデザイン。これは食事、労働、休憩に適した多目的椅子で、都市に住むノマドのために供されたとか。座り心地はどうなのか気になるところですが、キャンプ用の折りたたみ椅子も、このあたりの影響を大きく受けている感じがしました。2つの椅子とも背もたれと座面に頑丈なリネンを、肘掛け部分には革が使用されているのが特徴です。
壁にディスプレーされたテキスタイルも圧巻。植物や果物をモチーフに美しい彩りの模様が温かい雰囲気を醸し出し、モノトーンの家具を引き立たせる効果も。ぜひともまねしたいコーディネートだと思いました。
 

写真左)コーオ・クリント『レッドチェア』1927年/デンマーク・デザイン博物館、『テーブルランプ レ・クリント 101C』1945年、『ペンダント・ランプ レ・クリント306』1945年
写真右)左:モーウンス・コク『折りたたみ椅子』1932年、右:コーオ・クリント 肘掛椅子『サファリチェア』1933年/デンマーク・デザイン博物館、テキスタイル アーネ・ヤコプスン『ヨウラクユリ』1944年

 

ヒュッゲな暮らしの礎となった
北欧インテリアの黄金期

 

第3章の「オーガニック・モダニズム ―デンマーク・デザインの国際化」では1940〜1970年代初期の作品を展示。北欧インテリアの黄金期ともいわれるこの時代は、アーネ・ヤコプスン(アルネ・ヤコブセン)やハンス・ヴィーイナー(ウェグナー)、フィン・ユールなどデンマークを代表するデザイナーが大活躍。アメリカで栄えたミッドセンチュリーにもさまざまな影響を与え、機能性と合理性をより一層追求し、芸術性の高いデザインが多く誕生しました。
例えば、アリに似た形でおなじみの『アントチェア』はヤコプスンが考案したもので、世界で初めて背と座が一体となった椅子。もとは社員食堂用にデザインされたため、スタッキングできるように工夫。並べても重ねても絵になる素晴らしいデザインです。
同じくヤコプスンの『エッグチェア』や『スワンチェア』は有機的なフォルムで、体全体がスッポリと包み込まれるようなデザイン。他に、機能美に遊び心が加わったヴェアナ・パントンの『パントンチェア』は、世界で初めてプラスチック一体成型でつくられた椅子。ミッドセンチュリーの傑作ともいわれています。そして『ハートコーンチェア』。ハートがふんわりと宙に浮かんでいるようで、見ているだけでも幸せな気分になれます。
 

写真左)アーネ・ヤコプスン『アントチェア』1952年、『エッグテーブル』1952年
写真右)左からアーネ・ヤコプスン『スワンチェア』1957-1958年、『テーブル』1958年、『エッグチェア』1958年、(1965年頃)

 

前列の椅子2脚、ヴェアナ・パントン『パントンチェア』1967年、
後列の左、『椅子271F』1965年、『ハートコーンチェア』1958年

 

3章の後半ではデンマーク・デザインの家具を配したリビングやダイニングが見られます。シンプルでスタイリッシュなコーディネートにすっかり魅了されてしまいました。白い壁に上質な木でつくられた椅子やテーブル、アースカラーのソファ。部屋全体が落ち着いた雰囲気にまとめられていますが、ビビッドな色のポスターやキッチンツール、食器を加えるだけで明るさや温かみが増します。さらに、天井から吊るされた照明が柔らかい光を放っているのもポイント。デンマークの「ヒュッゲな暮らし」=心地よい生活、とはどういうものなのか、こうしたインテリアのデザインからも伺い知ることができます。
 

 

 
 

最後はウェグナーの椅子で
快適な座り心地を実感

 

第4章「ポストモダニズムと現代のデンマーク・デザイン」では、家具や生活雑貨におしゃれな自転車も展示。デンマークは広く平らな土地が多く、自転車専用道路も整備されているため、通勤や通学をする人たちの約40%が自転車利用だそうです。
また、最後のコーナーではウェグナーの椅子が数脚置かれており、実際に座って写真を撮ることもできます。一見、硬そうに見えるデザインチェアも、腰かけたとたんに後ろから優しく抱きかかえられるような心地よさを感じます。どの椅子も高価ですが、よいものを買って、長く大切に使うのもデンマーク流。快適さを求め、高価な家具を買うために、頑張って働くという考え方も根強いそうです。
国連が発表した世界の幸せな国ランキングで、2016年に第1位を獲得したデンマーク。幸福度が高い理由は一人ひとりが自然体で心地よく暮らす術を大切にしていること、それを支える環境が整っていること。時間に追われっぱなしの私からすると、何もかもがうらやましく感じました。
 

これから寒さも一段と厳しくなってくる時期に、ほっこりと温かい気持ちにさせてくれるデンマーク・デザイン展。12月2日(土)は16時半から20分程度、ミニアカペラコンサートも開催されます。高層ビルからの美しい夜景とともにクリスマスソングも楽しめる絶好の機会ですので、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
 

キビースィ『自転車<PEK>』2015年

 

※掲載した写真はすべて美術館より撮影許可をいただいています。

 
 

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招待券をプレゼント!
本コラムの読者の皆さまに感謝を込めて、抽選で5組10名様に「デンマーク・デザイン」展の招待券をプレゼントします。メールフォームの件名を「デンマーク」として、「お名前」、「メールアドレス」、内容欄に「送付先の郵便番号・住所」を明記のうえ、ご応募ください。
応募締切:2017年12月8日(金)
ご応募はこちらから!
 
 


 
日本デンマーク国交樹立150周年記念
デンマーク・デザイン
2017年11月23日(木・祝)〜12月27日(水)
時間:10:00〜18:00、ただし金曜日は19:00まで(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日、ただし12月25日(月)は開館
東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
東京都新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン日本興亜本社ビル42階
http://www.sjnk-museum.org/