2017.07.31

AMBIENT 深澤直人がデザインする生活の周囲展

2017年7月7日(金)飯島順子
 

モノとその周りの心地よい空間を体感
 

汐留の高層ビル群を通り抜けて向かった先は、パナソニック東京汐留ビルの4階にある「パナソニック 汐留ミュージアム」。現在、開催されている深澤直人氏の初個展「AMBIENT 深澤直人がデザインする生活の周囲展」の一般公開に先立ち、7月7日に行われた報道内覧会に行ってまいりました。そこでの深澤氏のコメントとともに本展の見どころを紹介します。
 

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深澤氏の思考を立体化!
展示室を居住空間に見立てて約110点展示

 

深澤氏は世界的に活躍をしているプロダクトデザイナー。無印良品、パナソニック、アレッシィ、B&B ITALIAなど、国内外を代表するブランド製品を数多く手掛けています。私が深澤氏の作品に初めて魅了されたのは、今から10年以上も前のこと。家電、雑貨ブランドの±0(プラスマイナスゼロ)から発売された加湿器でした。ドーナツ型のフォルムに美しい彩り。斬新なデザインに一目ぼれして、購入した記憶があります。その加湿器が深澤氏のデザインであると知ったのは、購入後、だいぶたってから。今も冬場、使っておりますが、リビングに置くだけで穏やかな気持ちになります。そして、深澤氏のシンプルで洗練されたデザインは、長く愛用しても飽きることがないのです。
こうした深澤ワールドの魅力を思う存分体感できるのが本展の醍醐味といえるでしょう。展示の仕方にも深澤氏の趣向が凝らしてあります。展示室を居住空間に見立て、リビング、キッチン、書斎など各部屋の用途に合わせて、関連した作品をディスプレー。タイトルにもなっている「AMBIENT」には「周囲や雰囲気」という意味があり、モノと空間が相互に醸し出す雰囲気を実感できる演出が施されています。展示品数は代表作から新作まで、トータルで約110点。フラッシュなしであれば展示品の撮影が可能です。
 

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左)美しく完全なる光の球体を目指してつくられたのが、『モディファイ スフィア』(2012〜2014年、パナソニック)
右)手前から、『グランデ パピリオ』のソファとオットマン、サイドテーブル『AWA』(すべて2009年、B&B ITALIA)、スタンドライト『デメトラ』(2012年、アルテミデ)

 

入口から間もなく目に飛び込んできたのは、暗闇に柔らかな光を放って浮かび上がる複数の球体。『モディファイ スフィア』(2012〜2014年、パナソニック)です。電球を挿入する天面が透過性のカバーで覆われており、完全なる光の球体を目指したというだけあって、一つ一つの照明が均一な光を発しています。ここで足を止めたら後の人に迷惑がかかると思いながら、しばし心地よい雰囲気に浸って隣の部屋へ。
深澤氏が「発泡ウレタンの巨大な彫刻」とコメントしている、B&B ITALIAのソファとオットマンがありました。隣のサイドテーブルは同社の『AWA』。ホイップクリームや石けんの泡を模したことから「AWA=アワ」と名付けたそうです。シンプルさを追求しつつ、さりげない遊び心が程よく入りまじっているデザインも深澤氏らしいです。
 

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プロダクトデザイナー 深澤直人
1956年 山梨県生まれ、1980年 多摩美術大学美術学科デザイン科卒、1989年 渡米、IDEO入社、1996年 帰国、IDEO東京支社長、2003年 NAOTO FUKASAWA DESIGN設立。現在は日本民藝館五代目館長、多摩美術大学統合デザイン学科教授、良品計画デザインアドバイザリーボード、マルニ木工アートディレクターなども務めています

 
 

デザインの糸口は、
人間の無意識な行為の中に

 

さらに隣の部屋に足を進めると、システムキッチン『リビングステーション』(2008年、パナソニック)が配されています。キッチンの周りに自然と人が集まるようなデザインで、家庭的な温かい雰囲気が漂ってくる感じがします。このオープン型のキッチンは調理や収納の機能だけでなく、軽食用のダイニングテーブルとして、また趣味を楽しむ作業スペースとしても使えそうです。キッチンの後ろの棚には、アレッシィや無印良品のキッチンツール、±0の加湿器が並びます。
 
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ブランドや素材は違っても、その場の雰囲気にそれぞれの製品が見事に融合しているのがわかります。モノと環境との調和は、深澤氏が特にこだわる部分。「人間が無意識のうちに適切な行為をしていることに着目し、その中にデザインのきっかけを見出す」と言います。それを「Without Thought(思わず)」とも名付けています。
実際「人間が無意識のうちにしている適切な行為」とは、どういうことを指すのでしょうか? そこからどんなデザインが生まれたのでしょうか? それらをわかりやすく紐解いたのが、次に紹介する作品だと思います。
 
まずは、キッチンの出入口脇のスペースに置かれた『シェルフ』(2006年、B&B ITALIA)を見てみましょう。「本を斜めに立て掛けるであろう」という発想から生まれたシェルフは、棚の仕切り板が少し斜めになっています。斜めにすることによって、棚の周りにゆったりとした時間が流れていくような感じがします。
 

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そして、深澤氏の代表作のひとつである『イッセイミヤケ トゥエルブ』のシリーズ。この腕時計は「メモリのない文字盤ができないか」という発想から生まれたもの。人が無意識のうちにモノの辺や角を計測の基準としていることに着目し、「針の先端を12カ所の角に合わせた」と言います。他にも軸が円筒ではなく、まるでおにぎりのような、角が丸みのある三角形になっているラミーのペンなど、使う人の心に優しく寄り添ったデザインが印象的です。
 

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腕時計『イッセイミヤケ トゥエルブ』のシリーズや
軸が三角になっているラミーのペン『NOTO』などが展示されているコーナー

 

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左から、『HIROSHIMA アームチェア』(2017年、マルニ木工)、ブリーフケース『SIWA』(2010年、大直)、『スリッパ SIWA』(2009年、大直)。『紙和(SIWA)』は耐久性のある和紙でつくられており、皺と和紙を反対から読んだシワを掛け合わせてネーミング。スーツケース(2017年、無印良品)は「PPの工具箱のような、粗雑に扱っても味が出るようなものにしたい」と思ってデザインしたとか。『アームライト』(2015年、無印良品)

 
 

多くの製品が機能的に進化し、
壁側か身体側に近づいている

 

本展ではau(KDDI)の携帯電話『INFOBAR(NISHIKIGOI)』や無印良品の『壁掛け式CDプレーヤー』など、深澤氏の名前が広く知れ渡るようになった懐かしい作品にも出合えます。ほとんどの作品が90年代後半から2000年初頭に発売されたものですが、時代とともに多くの製品が機能的に進化し、今では製品自体が随分とコンパクトになってきました。
 

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左)『INFOBAR 2』(2007年、au(KDDI))は角が丸み帯びており、溶けた飴をイメージ
右)『INFOBAR』(2003年、au(KDDI))。左が『BUILDING』、右の『NISHIKIGOI』は錦鯉をイメージ

 

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換気扇のような形をした『壁掛け式CDプレーヤー』(1999年、無印良品)は、紐を引くと音楽が流れるしくみ

 

深澤氏は「普段、私たちが無意識に使っている道具の大半は、身体側か壁側のどちらかに近づいていく傾向にある」と指摘します。例えば、テレビはブラウン管から液晶に変化し薄型に。エアコンや照明器具などは天井に埋め込まれたり、キッチン家電はキャビネットに収まったりして、壁側に寄っています。反面、スマートフォンやタブレット端末などは、手の平サイズに収まるように小型化、薄型化が進み、身体側に寄っています。
その結果、「昔と比べてモノをデザインすること自体が減っており、機能だけが残る傾向にある」と言います。とはいえ、壁や身体になることができず、人間の生活になくてはならないモノも存在します。そうしたモノでも、「機能や効率だけを重視すると生活に潤いがなくなってくる」と。深澤氏のデザインに温もりや優しい雰囲気が宿っているのは、モノとそのモノの周囲に違和感がないように配慮された面も大きいとあらためて認識させられました。
 

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左)『サビア』(2008年、ボッフィ)は「外に硬く、内に軟らかく」を意識してつくられたバスタブ。影のグラデーションが美しい 右)登ったり、滑ったり、降りたり、縁につかまったり、子どもたちが自由な発想で楽しめる、幼児向けの遊具。スタートとゴールがない形状で、万里の長城を彷彿とさせることからネーミングも『バンリ』(2012年、ジャクエツ)

 

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ミュージアムショップでは本展のカタログ、和紙メーカーとコラボした『SIWA』の本展限定のバッグなども販売

 

展示の後半はボッフィのバスタブやグラスイタリアの透明なベンチなど、海外のハイブランド製品も続々と登場します。深澤氏は「身体とモノとの相互作用は、海外と日本でそう大きく変わるものではない」とした上で、「国は違っても、人間の身体にフォーカスしてデザインをすると均一した生活が浮かび上がる」と言います。こうしたユニバーサルな思考を取り込むことで、国内外から高い評価を得るプロダクトデザインが誕生していくのだとしみじみ感じたものです。
出口脇のミュージアムショップでは、本展のカタログも販売されています。中の解説はすべて深澤氏によるもの。それぞれの作品は、どんな発想からデザインされたのか、独自の視点でとらえた解説が写真とともに盛り込まれています。1冊手元に置いておくと、写真集を見る感覚で楽しめるのでおすすめです。
 
 

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招待券をプレゼント!
本コラムの読者の皆さまに感謝を込めて、抽選で5組10名様に「AMBIENT 深澤直人がデザインする生活の周囲展」の招待券をプレゼントします。メールフォームの件名を「AMBIENT」として、「お名前」、「メールアドレス」、内容欄に「送付先の郵便番号・住所」を明記のうえ、ご応募ください。
応募締切:2017年8月10日(木)
ご応募はこちらから!
 
 

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AMBIENT 深澤直人がデザインする生活の周囲展
会 期:2017年7月8日(土)~10月1日(日)
時 間:午前10時~午後6時(入館は午後5時30分まで)
休館日:水曜日、8月14日(月)~16日(水)
会 場:パナソニック 汐留ミュージアム
    東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
お問い合わせ:03-5777-8600(NTTハローダイヤル)
http://panasonic.co.jp/es/museum