- 2017.01.05
絵双六ワンダーランド
2016年12月15日(木) 渡邉 理絵
― 古くて新しいスゴロクの世界 ―
新宿区立新宿歴史博物館の企画展示室で「絵双六ワンダーランド」という所蔵資料展が開催されています。新春第一弾、お正月遊びの「双六(すごろく)」の歴史をご紹介いたします。
双六と言えば、サイコロを投げて進む、懐かしい遊びですね。昔からの玩具であったことから、あまり美術品という意識がなかったのですが、江戸時代から明治時代にかけて描かれた「おもちゃ絵」の一つである「絵双六」は、有名な浮世絵師の書いた本格的な錦絵でもあり、また、当時の世相を現わすものとして、その価値が高まっています。
歌川国芳など、浮世絵師の代表格とも言える人物が、おもちゃ絵も描いていたというのには驚きでした。実はこれは、江戸時代、天保の改革で浮世絵の表現に制約ができ、思うように役者の絵を描いたり出版・印刷したりできなくなったところ、制限のなかったおもちゃ絵に活路を見出したからだといいます。歌舞伎を題材にした「役者双六」や「芝居双六」など役者を描いたものも、おもちゃ絵としておとがめなしだったようです。
ペーパークラフトのように組み立てて遊ぶ「立版古(たてばんこ)」というものも、おもちゃ絵の一つなのですが、1枚の紙から立体にするその過程は、実際に体験してもなかなか難しく、「これを絵から考えた作家はすごい!」「説明書なしに作れた昔の人たちすごい!」と感心してしまいました。1枚の紙に描かれた絵の枠に沿って切り込みを入れていき、折ったり、糊で貼り付けたりして箱のような立体ができるもので、全部切って貼り合わせるわけではないところが、よく考えられています。この壁に掛けられている額装の5枚の紙は、切り込みを入れて組み合わせると1つの置物のような立体になります。直線ではなく曲線の枠に切り込みを入れるので、さらに複雑な作りとなっていて、驚きでした。
こちらは、折り込んである絵を開くと別の絵になる、かわいい手遊びです。「たまご」だった絵が「うさぎ」になっていますね。
さて、「絵双六」のほうも、こうした手遊びの一つであるからこそ、おもちゃ絵に含まれているのですが、1枚の紙に収められたたくさんの情報量と細かい技巧は、とても芸術的です。中でも「道中双六」と呼ばれる、旅をテーマにしたものが心に残りました。江戸時代には参勤交代などで移動の経験が増え、江戸時代中期には旅ブームが起きていたとのこと。交通の便のよくない当時は、女性や足の悪い人などなかなか旅行に行けない人も、この「道中双六」で追体験できたといいます。現代でもテレビや雑誌などの特集を見て行った気分になることがありますが、「道中双六」は、受動的ではなく、自分が本当に手を動かして進んでいくところが魅力です。
双六は錦絵のように店頭で売られていましたが、明治以降になると、雑誌の付録として手に入れられるようになりました。雑誌には「少年雑誌」と「少女雑誌」があるように、付録の双六もまた、「少年向け」と「少女向け」とあり、完全に趣向の違うものになっています。たとえば、少年向けは飛行機や探検をテーマに、少女向けはお買い物や良妻賢母をテーマにといった具合です。
昭和に入ると、大衆に絵と文字でわかりやすく伝えられる特徴を利用して、政府がメディアとして活用した例などもあり、戦争や、愛国主義を掲げるものなどがありました。また、江戸時代に遡れば、仏教を勉強できるよう「仏法双六」というものが作られたなど、ただの玩具として発展したのではない、思想教育の一面を見ることができます。広告として活用されたこともあるようです。
戦後、雑誌の付録にもっと豪華なおもちゃがつけられるようになり、次第に衰退していった「絵双六」ですが、こうしてみると、メディアとして、教材として、広告として、まだまだ活用できる場面がありそうな気がします。現代は、浮世絵師自体が少なくなってしまっていますが、VR(ヴァーチャルリアリティ)や3D、4Dなどの技術が使われるようになってきていますから、古い技術と新しい技術が融合した「3D 絵双六」もできるかもしれません。一緒に行った子供が展示のタッチパネルで「絵双六」をタッチやスライドしながら見ているのを見て、VR技術を使った体験型「絵双六」があったら面白いな、と思ったぐらいです。
今でも、国内外でボードゲームや人生ゲームなど、サイコロを投げて進める双六の性質をもつゲームや知育玩具は多く存在しています。美術品として価値の高まる「絵双六」も、保存収集にとどまらない、これからの新しい展開に期待が広がります。
今回の所蔵資料展でも、スタンプラリーやクイズなど、子供も興味をもって回れる工夫がされています。スタンプラリーは新宿の歴史を展示する常設展や、新宿区に住んでいた夏目漱石を記念して書籍を集めてある漱石文庫も巡るようになっており、新宿歴史博物館をまんべんなく回れます。また、常設展や漱石文庫にも、今回の「絵双六」に関する展示や書籍もあります。
出入り口の近くにはミュージアムショップもありました。今回の所蔵資料展に関するグッズ中心というわけではなく、和風のかわいい小物などが置いてあります。お正月になると、浮世絵の描かれた「凧」や「羽子板」などが外国人向けのお土産として人気がありますし、「絵双六」も風呂敷などにすれば、お土産に向いているのではないでしょうか。世界中の人にゲームとして遊んでもらうには文字の翻訳の必要がありますが、2020年の東京オリンピックに向けてぜひ「絵双六」が活躍してくれたらな、と期待します。今までよく知らなかった世界ながら、芸術的で楽しい「絵双六」の古くて新しい可能性に満ちた不思議な世界<ワンダーランド>に、すっかり魅了されてしまいました。
絵双六ワンダーランド
会 期:2016年12月10日(土)~2017年2月19日(日)
休館日:12月12日(月)、12月26日(月)~平成29年1月3日(火)、10日(火)、
23日(月)、2月13日(月)
時 間:午前9時30分~午後5時30分(入館は5時まで)
主 催:公益財団法人 新宿未来創造財団(新宿区立新宿歴史博物館)
所在地:〒160-0008 東京都新宿区三栄町22番地
入館料:無料
http://www.regasu-shinjuku.or.jp/rekihaku/0221/93553/
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