2016.12.13

日本の伝統芸能展

2016年11月25日(金) 渡邉 理絵

 

特別展 国立劇場開場50周年記念「日本の伝統芸能展」

 

― 面と人形というメディア ―

 

国立劇場開場50周年を記念し、三井記念美術館で「日本の伝統芸能展」と題した特別展が開催されています。日本橋の三井本館の7階にあり、重厚な外観が印象的です。また、美術館の入り口は隣接する三井タワーの1階にあり、ビル4階分の高さのアトリウムから光があふれ、ラグジュアリーな雰囲気が感じられます。

 
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今回の特別展は、三井記念美術館が所蔵する伝統芸能の美術品と、国立劇場などの美術品を、「雅楽」「能楽」「歌舞伎」「文楽」「演芸」「琉球芸能・民俗芸能」の6本を柱に日本の伝統芸能の美術品をとてもわかりやすく展示しています。 

 
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左)能楽器 楽器蒔絵小鼓胴 伝千種 作江戸時代 三井記念美術館蔵  右)雅楽器 篳篥 銘「蘭」鎌倉時代 国立劇場蔵

 
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桐座場内図 初代歌川豊国画 江戸時代 国立劇場蔵

 
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左)舞楽面 陵王 江戸時代 熱田神宮蔵  右)重要文化財 能面 翁 伝春日作 室町時代 三井記念美術館蔵

 

中でも、最も印象に残ったのは、雅楽や能楽の面(オモテ)です。
面の展示を見て、学芸員の実習をしていた頃、面の展示方法に苦労したことを思い出しました。面を普通に下に置くのでは見えず、壁にかけては立体感を感じられず、かといって斜めに置くと印象が変わってしまい、一番良い展示方法がなかなか見つからなかったのです。

 

今回の展示では、色々な展示方法が見られましたが、ガラスケースの中の透明のアクリル板に面がかけられていたのが一番感動しました。360度、どの角度からも面の様子を見ることができ、まるで空中に面が浮かび上がっているような神秘的な体験に、思わず感嘆の声が出てしまったほどでした。

 
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そして、ガラス越しに見える展示室内の様子がわかるでしょうか。
重役食堂をそのまま残して展示室にしたという、歴史ある荘厳な雰囲気と控えめな照明がとてもマッチしています。

 
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これは、孫次郎(オモカゲ)という能面で三井記念美術館所蔵のものです。若くして亡くなった妻の面影をモデルにしたといわれたことがオモカゲの由来なのですが、この女性の上品な優しい微笑みが妙に心に残りました。

 

映像ギャラリーでは金剛流能楽師の金剛永謹(ひさのり)が実際にこの面をつけて能を舞う映像を見ることができます。能の舞台を観るだけでは知ることのできない、役者が面と向き合う姿にも注目です。また、面自体が見る角度によって表情が違う様子を映像で確認することができます。上を向くと遠くを見るおおらかな表情、下を向くとつり目気味で妖艶さが増すという一つの面で別の表情を見せるこの技術は、世界の中でも最高峰の技術です。

 

中国の伝統芸能の一つに、変面というものがあり、初めて観た時は、音楽に合わせて仮面が一瞬にして何度も変わるそのエンターテイメント性に驚かされましたが、その技術は非公開とされています。舞台は、もう二度と同じものは観られないという一回性の魅力があるものでありながら、こうして舞台で使われている美術品を見ることができるのは大変貴重な機会だと思います。また、この表情の違いは、遠くで見るよりも、近くで見るほうがとても分かりやすく、一層面の魅力をよく伝えてくれます。

 

時代の古い面は異界の存在を表現していることが多く、日常の日本人ではなく、神、鬼、幽霊、病神、動物、異国人の顔をしていて、それが、能・狂言(能楽)の時代には普通の日本人の顔を表現するものが増え、生きている人間だけではなく能の独特な役である人間の姿に変装した霊などにも使われるようになり、人間の本質を覗くメディアの役割をするようになります。面にも色々な種類があるのですが、また、この孫次郎(オモカゲ)のように少し口を開けているものが多く、能楽が語りの芸術であったことを感じさせてくれます。

 
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左)文楽人形 初菊 現代 国立文楽劇場蔵  右)文楽人形首 文七 大江巳之助作 現代 国立劇場蔵

 

 

もう一つ、印象に残ったのは文楽の人形です。
文楽は、太夫・三味線・人形が一体となった総合芸術です。古くはあやつり人形、のちに人形浄瑠璃と呼ばれています。実は、大阪の国立文楽劇場で文楽を観たことがあります。国立劇場と同じ独立行政法人日本芸術文化振興会が管理している劇場です。不思議なことに初めて観た時に既視感があったのは、NYのブロードウェイミュージカル「ライオンキング」のティモンという登場人物が文楽の手法を使っていたからかもしれません。チェコで観たマリオネットの舞台も思い出しましたが、演じる人は隠れており、文楽のように演じる人も顔を出すという人形劇は世界でも類い稀な手法とされています。

 
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こうして近くで人形を見てみると、一つ一つのかわいらしい表情が心を和ませてくれました。また、一緒に行った子供がイヤホンガイドを聞きながら人形の骨格をじっくり観察していました。三井美術館は教育普及事業が充実していて、企画展では必ず子供向けワークショップも企画するとのこと。プレス内覧の日にもかかわらず、子供も是非と言ってくださった素晴らしい美術館の心意気にも感動し、きっとまた、子供を連れて訪れようと思います。子供にとっても大人にとっても、本物の素晴らしさを体感できる素晴らしい機会となりました。

 

順路の最後にはミュージアムショップとカフェがありました。思わず立ち寄りたくなるような、入口のアトリウムを思い出させる光の差しこむ明るい雰囲気です。そして、展覧会の余韻を感じながら、荘厳な雰囲気のエレベーターを降り、帰り道に古い日本橋と新しい高速道路の交差点を通りながら、こうして伝統が現代へ残ることの価値をしみじみと感じました。

 
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特別展 国立劇場開場50周年「日本の伝統芸能展」
会期  2016年11月26日(土)~2017年1月28日(土)
休館日 月曜日 ※1/9(月・祝)は開館、1/10(火)休館
    年末年始 12/26(月)~1/3(火)
時間  午前10時~午後5時(入館は4時30分まで)
主催  三井記念美術館、独立行政法人日本芸術文化振興会、NHK、NHKプロモーション
所在地 東京都中央区日本橋宝町2-1-1 三井本館7階
入館料 一般1300円/大・高生800円/中学生以下無料
http://www.mitsui-museum.jp

 

※会期中展示替えあり