- 2016.09.30
「愛しのピーナッツ。」
2016年9月20日(火) 渡邉 理絵
― 皆から愛されるスヌーピーの魅力 ―
麻布十番と六本木の間に位置する閑静なエリアに、日本初の「スヌーピーミュージアム」が2016年4月23日に誕生しました。新しい美術館のオープンという貴重な機会と、作者チャールズ M. シュルツが暮らした町・アメリカ・カルフォルニア州サンタローザにあるチャールズ M. シュルツ美術館の世界初オフィシャルサテライトという特別なプロジェクトに期待を膨らませ、そして、麻布十番駅から向かう途中の鳥居坂に息を弾ませながら、「スヌーピーミュージアム」を訪れました。
© Peanuts Worldwide LLC
オープン記念展のタイトルは「愛しのピーナッツ。」
ご存知の通り、「ピーナッツ」とは、スヌーピーの出てくる漫画のタイトルです。
スヌーピーは日本ではアニメやキャラクターグッズの印象がありますが、元々は1950年~2000年の50年間、アメリカの新聞に掲載された4コマ漫画でした。
入場チケットは、素材の紙にもこだわりがあり、当時掲載されていた新聞の雰囲気を再現していて、よく見てみると、4コマ漫画の下に「1966.9.20」の文字が。そう、ちょうど50年前の今日に掲載された作品が印刷されているのです。美術館を訪れた日にちと同じ日に新聞掲載された作品がチケットに印刷されるという、とても手間がかかっている心憎い演出に、展示室に入る前から美術館の“ピーナツ愛”が感じられます。
入場するとすぐ、3Dのようなスヌーピーの絵が目に入ります。なんとすべて「ピーナッツ」の4コマ漫画で構成されていて、背景の黒い部分が絵のように浮き上がって見えています。
これは、シュルツ氏に才能を認められたアーティスト・大谷芳照の作品で、シュルツ美術館でも同様の作品が展示されていることから、サテライトの美術館らしい一面となっています。同じ展示室に、シュルツ氏が実際に漫画を描いている映像や、スヌーピーのモデルとなった愛犬スパイクの写真など、貴重な資料も公開されています。
そして、「スヌーピーミュージアム」のメインともいえる、原画の展示室へ。
シュルツ夫人のジーンさんが選んだ日本初公開の原画が60点展示されています。今回のためにすべての原画を見直し、シュルツ氏と対話するように選んだという原画を見て、ジーンさんのシュッルツ氏への愛を、そして“ピーナッツ愛”を感じました。
その白黒の原画の中に、一つだけカラーの作品があります。シュルツ氏がバレンタイデーにジーンさんに送ったもので、原画の上に色が塗られていて、直筆のメッセージとサインが入れてあります。これは、アメリカのシュルツ美術館にあったものではなく、彼女の寝室に飾ってあったものを特別に展示しているそうで、貴重な“夫婦愛”を感じる1枚です。
© Peanuts Worldwide LLC
この展示室は、木目調のフレームや布のキャプション、木の家のようなフォルムの展示ケースなどアットホームな展示が印象的で、そこからも、温かさが感じられます。このアットホームな温かさと、ちょっと斜に構えたユーモアが「ピーナッツ」の大きな魅力ではないでしょうか。翻訳もキャプションに書いてあり、ユーモアがさらにわかりやすくなっています。
また、シュルツ氏の文字にも味わいがあり、作品の魅力となっています。ピーナッツフォントと呼ばれるフォントがあるぐらい本当に魅力的なフォルムです。アメリカン・コミックでは文字専門の作家もいるくらいですが、「ピーナッツ」は全て一人で仕上げています。文字にも絵にも、インクの一つ一つにシュルツ氏の想いと、迷いのない勢いを感じました。
じっくり見たかったのですが、一緒に行った子供の興味はどんどん次の展示室へ。
追いかけるのが大変でしたが、先に行った子供が立ち止まって覗いていた小さな穴には救われました。所々に、この「のぞき見ボックス」があり、覗くとキャラクターたちの思いがけない表情に出会えます。
次の展示室は「愛しのピーナッツ。」として、著名人が大好きなスヌーピーへの想いを紹介するコーナーと、これまで作られたスヌーピーのグッズや、シュルツ氏がプライベートで描いたイラストなどが並んでいます。
この展示室には、ライナスの等身大人形や、スヌーピーを触っているようなフサフサの柱など、子供の好きなエリアがあり、他にも美術館の壁やトイレ、授乳室など、いたるところにスヌーピーやウッドストック、チャーリー・ブラウンの洋服の模様などが描かれていて、子供も大人も小さな発見の楽しみが尽きません。
実は、アメリカのシュルツ美術館は子供のための教育プログラムがとても充実しています。美術館の解説だけではなく、子供がコミックやアニメーション制作を体験できるプログラムや、学校の課外学習の場として美術館は大きな役割を果たしています。海外の美術館や劇場ではこうした体験プログラムやアウトリーチを目的とした教育プログラムがあるのが当然のようになっていますが、日本ではまだ多くありません。今回は六本木の再開発に合わせて期間限定の開館となり、いつかまた、スヌーピーやチャーリー・ブラウンと共に、その教育プログラムも日本に連れてきてほしい、とさらに期待が高まります。
そして、最後にグッズ売り場「BROWN’S STORE(ブラウンズストア)」とカフェ「Cafe Blanket(カフェブラケット)」も楽しみました。
カフェのメニューにはオリジナルメニューがあふれています。スヌーピーのドッグディッシュに乗ったシュルツ氏の好んだツナサンドや、スヌーピーのパンケーキに「ピーナッツ」クリーム。かわいいミルクセーキに、持ち帰れるコースター。視覚の楽しみはもちろん、味覚のほうも満足のクオリティです。
グッズも、ファンを喜ばせるオリジナル商品が沢山並んでいます。どれもかわいくて迷いましたが、子供が離さなかったスヌーピーのぬいぐるみを持って帰りました。特筆すべきは、ぬいぐるみのタグにもチケットと同じ素材の紙が使われていたこと。家に帰ってからも美術館の“ピーナッツ愛”を感じることができました。
このオープン記念展「愛しのピーナッツ。」は9月25日に終了ですが、10月8日からの次回展覧会「もういちど、はじめましてスヌーピー。」では、今回とは違う日本初公開の原画が展示されます。普通の犬から色々な形をたどったスヌーピーを再発見できそうです。
例えばこのアストロノーツスヌーピー。実は、スヌーピーはNASAの公認キャラクターとなっています。1969年に打ち上げられたアポロ10号の月着陸船の愛称が「スヌーピー」であったり、宇宙飛行士が使う通信用ヘッドセットを、その形状から「スヌーピーキャップ」と呼んでいたり、スヌーピーは未来を担うキャラクターとして、きっとこれからもずっと私たちのそばにいてくれる、そんな予感と共に、帰り道は坂道のない六本木駅のほうへ歩きながら、喧騒の中で、“もういちど”スヌーピーに会いに行こうと心に決めました。
オープン記念展「愛しのピーナッツ。」《終了》
会 期:2016年4月23日(土)~9月25(日)
時 間:10:00~20:00(入場は19:30まで)
所在地:東京都港区六本木5-6-20(六本木駅より徒歩 7 分、麻布十番駅より徒歩10 分)
入館料(前売券):一般1,800円 大学生1,200円 中学・高校生800円 4歳~小学生400円
※展示替のため、スヌーピーミュージアム、ショップ、カフェは10月7日(金)まで休館
第2回展「もういちど、はじめましてスヌーピー。」
会 期:2016年10月8日(土)~2017年4月9日(日)
※会期中無休 但し年末年始(12月31日~1月2日)は休館
時 間:10:00~20:00 (入場は 19:30まで)
所在地:東京都港区六本木 5-6-20(六本木駅より徒歩 7 分、麻布十番駅より徒歩10 分)
入館料(前売券):一般1,800円 大学生1,200円 中学・高校生800円 4歳~小学生400円
http://www.snoopymuseum.tokyo/
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