- 2016.09.13
ビアトリクス・ポター™生誕150周年 ピーターラビット™展
2016年8月30日(火) 渡邉 理絵
ビアトリクス・ポター™生誕150周年を記念して、Bunkamura「ザ・ミュージアム」で開催されている「ピーターラビット™展」に子供と一緒に足を運びました。自分がこの展覧会を訪れた背景について回想しながら、展覧会の魅力をお伝えしたいと思います。
「ピーターラビット」は、誰もが知っている日本でも有名な作品ですが、絵本をきちんと読んだことのある人はあまり多くないのではないでしょうか。実は、私もその一人でした。「ピーターラビット」との出会いは、子供の頃、家にあった一冊の絵本。ピーターが表紙の『ピーターラビットのおはなし』だったと記憶しています。ただ、ちょうど文字がまだあまり読めなかった頃とあって、ストーリーは全く覚えていないのです。「ピーターラビット」の絵の印象だけは、とても鮮明に残っています。
この『ピーターラビットのおはなし』を展覧会では下絵や口絵でも見ることができます。また、挿絵を順に、物語に沿って見ることもでき、まるで絵本を手に取ったかのように、むしろ手に取ったよりも臨場感を持って、作品の中に入り込むことができます。「この絵はこういうシーンだったのか!」「この絵はこのストーリーの絵だったのか!」と作品に再会した喜びと、初めて知る楽しさと新たな出会いに、心が躍るようでした。
左)ビアトリクス・ポター《私家版『ピーターラビットのおはなし』の挿絵のためのインク画》/中)ビアトリクス・ポター《『ベンジャミン バニーのおはなし』の挿絵のための水彩画》/右)ビアトリクス・ポター《1929年用『ピーターラビットの暦本』の挿絵のための水彩画》 英国ナショナル・トラスト所蔵
日本で、正式に版権元から許諾を得て、石井桃子の翻訳で福音館書店から出版されたのは1971年11月とのこと。当時、私の母はまだ10代ですが、その後、絵本だけではなく、子供に持たせる文具や雑貨でも、「ピーターラビット」がついているものを好んでいました。テレビアニメをほとんど見ない家庭だったので、「ピーターラビット」だけが我が家に存在したキャラクターだった、といっても過言ではありません。
実は、このキャラクタービジネスについて、作者のビアトリクス・ポターは先見の明を持ち、また実業家として成功していたのだということを、展覧会の音声ガイドで知りました。当時、アメリカで絵本の海賊版が出版されて悩んでいたビアトリクスは、ボードゲームや人形を作って、商標登録をしたというのです。著作権は登録しなくても著作者の死後50年は存在しますが、法的にあまり拘束力がありません。今の社会では当たり前になっている商標登録の重要性に早くから気が付き、ビジネスでも成功していたとは驚きでした。
その音声ガイドですが、NHKの朝の連続テレビ小説「あさが来た」にも出演し、人気急上昇中のディーン・フジオカさんが音声を担当しています。英語の堪能なディーンさんらしく、原文も紹介してくれるなど、とても心地よい音声ガイドで、この展覧会のもう一つの魅力となっています。会場ではディーンさんが「ピーターラビット」の生まれた英国の湖水地方を訪れた展示映像も見ることができます。
湖水地方は、本当に美しい自然に囲まれた静かでとても綺麗な場所です。実は、6年程前に一度訪れたことがあり、その時もまた、「ピーターラビット」の世界が目の前に広がっていて、心躍る体験をしたことを思い出します。ビアトリクスはロンドンの裕福な家庭に生まれ、16歳の時に家族との避暑の旅行で初めて湖水地方を訪れたといいます。その後、家族と何度も訪れ、それが彼女にインスピレーションを与えたようです。ビアトリクスはのちに婚約したノーマンや、彼を亡くして、その後結婚したウィリアムとも、共に暮らす場所としてこの地を選んでいるように、一生涯を通して、湖水地方が彼女にとって大切な場所となっていきました。
ビアトリクスは、実は自然保護の活動家としてもよく知られています。湖水地方の自然を愛し、その保護に奔走し、彼女の所有する莫大な財産が英国ナショナル・トラストに寄贈されたことからもそれは明らかです。今回の展覧会の絵もすべて、英国ナショナル・トラストが所有し、初めて日本で公開されたものです。
左)湖水地方の風景/右)ヒルトップ農場 Photo/Sony Creative Products Inc.
2007年に公開された「ミス・ポター」というビアトリクス・ポターをモデルにした映画があるのですが、その映画でも、このビアトリクスの愛した英国の湖水地方の魅力や、「ピーターラビット」の生まれた背景をより立体的に感じることができます。
ビアトリクスが描いたのは「ピーターラビット」だけではありません。「りすのナトキン」や「ベンジャミン・バニー」「かえるのジェレミー・フィッシャーどん」「あひるのジマイマ」など、たくさんのかわいいキャラクターがいて、それぞれが主人公のストーリーがあります。展覧会では、その原画や絵本も見ることができます。やはり、どの作品も湖水地方でのビアトリクスの拠点となったヒルトップ農場や、カースル・コテージが舞台となっていて、豊かな自然と動物たちが描かれています。そして、どの作品にも共通して、優しさや柔らかさが感じられます。「ピーターラビット」やその他のキャラクターのグッズがパステルカラーとよくマッチするのも、その優しく柔らかいタッチゆえではないでしょうか。
今回の展覧会の会場の様子もご覧ください。
綺麗なパステルカラーでコーナーごとに色分けされていてとてもかわいらしい展示です。壁紙や小物など細部にもこだわっていて、英国らしさ、湖水地方らしさ、そして「ピーターラビット」らしさが存分に感じられます。
こだわっていた、といえば、ビアトリクス自身も、作品の色にはとてもこだわっていたようです。アルマナックと呼ばれるカレンダーのようなものが作られたときに、ビアトリクスは最後まで色校正が気に入らず、その後は絶対にアルマナックを作らなかったそうです。確かに、水彩画の色は繊細で、印刷すると印象が変わってしまうことがあります。そういう意味で、今回、ビアトリクス自身が描いた原画を見ることができたことは、とても貴重な機会でした。「ピーターラビット」のシリーズは、動物の擬人化とそのスケッチも絶妙なのですが、背景の自然のタッチや、色使いなど、そこに大きな魅力があるからです。色の塗られていない、インクだけで描かれた作品も展示されていて、ビアトリクスの筆使いから、まるでその時の息使いまで聞こえてきそうでした。
「ピーターラビット」との再会と、新たな出会い。
そして、自分の親から自分の子供へ、受け継がれていく「ピーターラビット」。
しばらくは、この展覧会の余韻に浸っていられそうです。
©FrederickWarne&Co.,2016
「ビアトリクス・ポター™生誕150周年ピーターラビット™展」
期間 2016年8月9日(火)〜10月11日(火)※会期中無休
時間 10:00〜19:00(入館は18:30まで)
毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
会場 Bunkamura ザ・ミュージアム
住所 東京都渋谷区道玄坂2-24-1
料金 一般1,400円(当日)大学・高校生900円(当日)中学・小学生600円(当日)
http://www.peterrabbit2016-17.com/
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