- 2016.08.11
大妖怪展 土偶から妖怪ウォッチまで
2016年7月20日(水) 橋詰康子
古き良き下町の風情が残る街・両国。今では東京のシンボルとなったスカイツリーのお膝元としても知られているこの地に、江戸東京博物館はある。今回は、江戸東京博物館内で特別展示として催されている「大妖怪展」にお邪魔してきた。
展示は全部で4章に分けられており、それぞれ時代や妖怪の種類によって分類されている。どきどきしながら入場すると、まず待ち受けていたのは、大流行したという江戸時代の妖怪たちだった。
「妖怪」と一言でいっても、さまざまな者たちがいる。とくに幽霊と妖怪では、かなり認識の差があるのではないだろうか。それは当時の絵にも描かれており、幽霊の方がより一層不気味で恐ろしいもののように描かれているという印象を受けた。それに比べて、妖怪は、どこかコメディタッチで描かれているものも多い様だ。たとえば付喪神(つくもがみ)は、道具たちに魂が宿り妖怪化したものだが、恐ろしいというよりは可愛らしい生き物のように思われる。また、全国で見つかった珍幻獣をまとめたという「姫国山海録(きこくせんがいろく)」では、マスコットとしてグッズ化してもおかしくないような可愛らしくゆるい妖怪たちが描かれているのだ。
また、印象深かったのが「針聞書(はりききがき)」と呼ばれる書物である。これは私たちの体の中で悪さをするという妖怪たちを描いたもので、例えばお腹を痛くするものや、熱を出させるものなど、すべてを妖怪の仕業としたという当時の風習を垣間見ることができる医学書なのだ。今では技術が進歩したこともあり、体調が悪くても妖怪のせいにする人はいない。しかし、当時は医学書としてこういった書物が生み出されるほど、妖怪は身近で畏怖するべきものであったのかもしれない。
歌川国芳「相馬の古内裏」大判錦絵3枚続 弘化2〜3年(1845〜46)頃 個人蔵
第2章では、中世の妖怪たちが登場する。中世になると、妖怪たちは絵巻物として描かれるようになり、より偶像的なものとして描かれているという印象を受ける。たとえば重要文化財に指定されている「百鬼夜行絵巻(ひゃっきやぎょうえまき)」には、琵琶など当時に流行したであろう楽器に憑りついている付喪神や、鬼や天狗などの妖怪まで、実に多種多様な妖怪たちが描かれている。それらが百鬼夜行として行進していく様は、当時恐れ多いものとして扱われていたのだろうか。見事に不気味さが出ている一作である。
それに比べて、器の形をした妖怪たちの行進を描いた「百器夜行」は、とても面白おかしく描かれている。同じものをモチーフにした絵でも、これだけ違いが出るのは興味深かった。
月岡芳年「百器夜行」大判錦絵二枚続 慶応元年(1865)国際日本文化研究センター蔵
※東京前期(7月5日〜31日)展示、大阪前期(9月10日〜10月10日)展示
第4章では、現在大流行している妖怪ウォッチの展示がされている。今の子供たちの妖怪ブームを見たら、昔の人はどう思うだろうか。進化して行く妖怪の姿に、さらなる畏怖の情を抱くようになるのかもしれないし、そのかわいらしい姿に毒気を抜かれるかもしれない。
私たちの生活には、常に妖怪たちが隣り合わせにいる。それは私たちに悪さもするし、時には私たちを助けてくれたりもするのだ。一方で、お腹が痛いのも熱が出るのも、全部妖怪のせいにしていることで、妖怪側としてはいい迷惑に感じているかもしれない。もしくはいい気味だとほくそ笑んでいるのだろうか。今も私が原稿を描いている後ろで、何か悪さをしているのかもな、と思うと、少し怖くもありながらほほえましい気分になる。
あなたの周りで何か不可解なことが起きたら、妖怪の仕業かもしれませんよ。「大妖怪展」で、その正体を見極めてきては如何だろうか。彼らは私たちのあずかり知れないところでその存在を主張し、悪びれもせず行動を起こしているのだ。
「大妖怪展 土偶から妖怪ウォッチまで」
会場:東京都江戸東京博物館
東京都墨田区横網1-4-1(JR総武線「両国」駅西口から徒歩3分)
期間:2016年7月5日〜8月28日 午前9:30〜午後5:30(金曜と土曜は午後9:00まで、入館は閉館の30分前まで)
観覧料:一般1,350円 大学・専門学生1,080円 小中高生・65歳以上 680円
http://yo-kai2016.com/
問い合わせ/江戸東京博物館 03-3626-9974
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