- 2016.04.28
美少女戦士セーラームーン展
かつて美少女戦士になりたかった、すべての少女たちへ
2016年4月15日(金) 佐藤愛美
六本木ヒルズの52階。東京シティビューには、以前にも何度か足を運んだことがあったが、今回は展示会場に入った途端に「うわぁ……」とため息が漏れた。小さな頃にテレビの中で見たムーンキャッスルが、見事にそこで再現されていたからだ。
私が彼女たちと最初に出会ったのは、まだ小学生になる前のことである。
90年代、女の子たちの間では空前の「美少女戦士セ―ラームーン」ブームが巻き起こっていた。私も巻き込まれた一人である。当時、うさぎちゃんよりも10歳年下だった私は、強くて可愛くてかっこいいセーラー戦士に憧れていた。友達とのごっこ遊びの中でセーラームーン役を勝ち取るのは決して容易ではなかった。そして10年後には、私の前にも黒猫のルナが現れて、セーラー戦士に変身する予定だったのだ。人生はなかなか予定通りにはいかない。
漫画を読んでいなくても、アニメを見たことがなくても、90年代を生きた人であれば“二つ結びの女の子がセーラー服を着て戦っている姿”を、一度はどこかで目にしたことがあるのではないだろうか。武内直子先生原作の「美少女戦士セーラームーン」は、今や子どもだけでなく大人にまで、そして日本だけでなく世界各国で多くの人々に読まれている、少女漫画の金字塔である。
本作の広がりは、原作の漫画とアニメだけではない。劇場版、ミュージカル、実写版にまで作品の幅を広げ、多くのファンを獲得し続けてきた。
そして2012年、セーラームーンは20周年を迎えた。2014年には新作アニメ「美少女戦士セーラームCrystal」の放送が始まり、90年代にセーラー戦士に憧れていた元少女たちが、再びテレビの前で毎週の放送を待つことになる。私もそのうちの1人である。この4月からはCrystal第三期の放送が始まった。
ブームの再来に伴い、「美少女戦士セーラームーン展」が4月16日より開催されている。多くの人に知られている名作でありながら、作品史上では初となる展覧会。全国各地からファンたちが足を運び、会場は毎日大盛況だ。
今回は、一般公開に先駆け、4月15日に開催された内覧会にお邪魔してきた。
会場に一歩足を踏み入れると、そこはもう武内直子先生の作品の世界だ。エントランス全体がムーンキャッスルをイメージした空間となっており、窓には全セーラー戦士のイラストが並ぶ。そして今回の展覧会のために描き下ろしたという巨大なタペストリーは必見である。
エントランス中央部には、おなじみの5戦士のパネルが並ぶ。作品の舞台となる東京の夜景をバックに、戦士たちと記念撮影をすることができる。360度見渡す限り、セーラームーンの世界だ。
15日には展覧会のオープニングセレモニーが行われ、ゲストタレントの若槻千夏さんがセーラームーンをイメージしたファッションで登場。作品の大ファンであるという若槻さんは、ネイルアートもセーラームーンという徹底ぶり。現在の再ブームについては「私と同じくらいの世代の人にも見てほしいし、セーラームーンを知らない10代の若い人にも見てもらえたら嬉しい」と興奮気味に語った。
「漫画連載当時はヴィーナス派だったけど、今はキャラクターに感情移入しちゃうから、セーラームーンが好き」と好みの変化を語る彼女に、同じ1980年代生まれとしてシンパシーを感じた。
エントランスを後にすると、セーラームーンのストーリーをまとめた年表が展示されている。「ダーク・キングダム編」「ブラック・ムーン編」「デス・バスターズ編」「デッド・ムーン編」「セーラースターズ編」に加え、うさぎたちの前世から未来までのことが各シリーズの名シーンのイラストと共に記されている。改めて「美少女戦士セーラームーン」という作品の壮大さを実感した。小さな頃にストーリーの全体を網羅するのは難しかったが、今だからこそ「ああ、そういうことだったのか!」と理解できる部分が増えていることに気づく。
こちらでは、アニメの設定資料や絵コンテが展示されている。キャラクターの細かい設定が書き込んであり、製作サイドの熱い思いが伝わってくる。
また、1992年に「なかよし」に掲載された、原作第1話のカラー原稿が初公開されている。普通の女の子が誰でも共感できる「月野うさぎ」の馴染みやすいキャラクター性と、華麗な変身を遂げて悪と闘う「セーラームーン」の躍動感。そのギャップは、大人になったファンたちの乙女心を思い切りくすぐってくれる。武内先生の漫画を目の前にすれば私たちは、「なかよし」の連載を読んでいた女の子に戻ってしまうのだ。
会場には、現在では入手困難になってしまったキャラクターグッズやミュージカルで使った小物も展示されており、「わー!これ持ってたー!どこいっちゃったんだろう?」といった声があちこちから聞こえてきた。実際、私も「これ持ってた」というグッズがいくつもあったので、セーラームーンカルチャーがいかに幼少期の頃に身近にあったのかを思い知った。展示物の中には、当時欲しくても売り切れで手に入らなかった「ムーンスティック」があり、20年の時を経ても「欲しい」と思ってしまう自分がいた。
いちばんの見所と言っても過言ではない、<美しきセーラームーン原画の世界>。展覧会のために描き下ろした2点に加え、連載当時の中から選ばれた美しい原画は、当時のまま息をし、展示を見る私たちを作品の世界へと引き込んでいく。柔らかさと力強さが調和した武内先生の作画は、セーラー戦士の気高さや美しさそのものである。
ぜひナマの原画を会場でご覧いただきたい。
うさぎちゃんより年上になってしまった今、なぜ大人たちが改めてセーラームーンにハマるのか。それは、「美少女戦士セーラームーン」が今も昔も変わらずに「誰もが共感するメッセージ」を放っているからではないだろうか。
泣き虫の主人公うさぎが、試練を経てプリンセスとして成長していく姿。
うさぎを守るために命を賭して闘う、4戦士の情熱と忠誠。
セーラームーンを守りたい思いながらも、自分の弱さに葛藤するタキシード仮面。
性別や立場に囚われない強さと関係性を行動で示す、外部太陽系戦士たち。
オープニングセレモニーで若槻さんが「大人になって、キャラクターに感情移入してしまう」と言っていたのは、まさにこういった作品性に理由があるのではないだろうか。武内直子先生はキャラクターに載せて、誰もが「ぐっ」と感じるメッセージを放ったのだ。それは、年齢や性別、国籍、ジェンダー、宗教に関わらず誰もが共感するメッセージかもしれない。だからこそ、20年の時代を超えても私たちは「ムーンスティック」が欲しくなってしまうのだ。
展覧会の最後には、スペシャルショップが設営されている。展覧会オリジナルのグッズはなんと50種類以上。ファンなら見逃すことはできない。
以前から欲しかった、原作「セーラームーン」シリーズの完全版も販売されていたので、展覧会に来た記念に迷わず全巻購入!スタッフの方が「重いですが大丈夫ですか?」と気遣ってくださったので「大丈夫です」と笑顔で答えた。
展示会場の外、「Museum Cafe & Restaurant THE SUN & THE MOON」では、展覧会とコラボしたメニューを提供する「CHIBIUSA Cafe」が展開されている。
東京の夜景を見ながらロマンチックなディナーを楽しむこともできそうだ。
「3種のタリスマンカレー」「ちびうさのプリン・ア・ラ・モード」などキャラクターをイメージしたメニューが用意されており、特に気になった「タキシード仮面のニヒルなパスタ」をオーダー。薔薇が散っているパスタを食べたのは生まれて初めてだったが、ちょっと辛味が効いていて大人好みの味だ。
そしてデザートには「天空のミラクル・ロマンスパフェ」。こちらは展覧会のメインビジュアルをイメージしたパフェだ。カラフルなゼリーと月のモチーフが可愛らしくて、食べるのがもったいない!(全部食べました)
お腹も目も心も満足感でいっぱいになる「美少女戦士セーラームーン展」は、6月19日まで開催されている。展示作品はすべて「見たことがある」はずなのに、月の引力に導かれるように何度でも来たくなる不思議な展覧会だ。
20年経過してもなお、月野うさぎは憧れのヒロインとして心の中に君臨し続けている。
『美少女戦士セーラームーン展』
http://www.roppongihills.com/tcv/jp/sailormoon/
開催期間:2016年4月16日(土)~6月19日(日) 会期中無休
開館時間:10:00~22:00(最終入館は21:30)
開催場所:六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー内 スカイギャラリー
東京都港区六本木6–10–1 六本木ヒルズ森タワー52階
※会期中、作品保全のため、武内直子氏のカラー原画のみ展示替えを実施します。
【展示替え期間】
第1期 4月16日(土)~5月8日(日)
第2期 5月9日(月)~5月29日(日)
第3期 5月30日(月)~6月19日(日)
※展示期間は諸般の事情により変更することがあります。
問い合わせ:TEL:03-6406-6652(東京シティビュー)
料金:一般 1,800円
高校大学生 1,200円
4歳~中学生 600円
シニア(65歳以上)1,500円
※すべて税込
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