- 2014.12.12
田名網敬一 「夜桜の散る宵闇」
2014年12月6日(土) *湊 るい*
冷たくなった指先をカフェオレで温めながら歩く午後。今日のお目当ては、田名網敬一 さんの個展です。
なんてアバンギャルドな妄想の世界。まるで脳天を貫かれたかの様な毒々しさに、いとも簡単に圧巻されてしまう。
アート界の巨匠である田名網氏は、イラストレーター、グラフィックデザイナー、アニメーション作家等、ジャンルの垣根を越え活躍するアーティスト。とにかくここには書ききれない程の経歴の持ち主です。
最初、彼の作品を観た時の衝撃といったらもう。いったい何者なのだろうと。頭の中を開けて覗いてみたいと本気で思いました。そして、何を隠そう、驚きの78歳。
今回の作品、技法はアクリル画、一部にシルクスクリーン。きらきらしている部分は、ガラスを粉末にして塗しているとのこと。
彼の作品のテーマは、自身の体験したことをベースにしています。きっかけは、第二次世界大戦。
轟音を響かせるアメリカの爆撃機、それを探す日本のサーチライト、爆撃機が投下する照明弾と焼夷弾、火の海と化した街、逃げ惑う群衆、そして祖父の飼っていた畸形の金魚が爆撃の光に乱反射しながら水槽を泳ぐ姿。それらの光景が、トラウマとなり、彼の作品に色濃く影響されているのだと。
幼い子供の目に映るそれらの映像。どれほどの恐怖と不安だったか、想像するだけでも胸が締めつけられます。のちに、敗戦後の社会で生きていく中で、過剰なストレスの解消として絵を描き始めたとのこと。型破りな色彩感覚や、非現実な世界の原点が垣間見えた気がします。
そして、40代に入院をすることになった田名網氏。当時投与された薬の副作用と高熱により、幻覚が見えたそうです。幼い日の恐ろしい記憶、当時観たディズニー映画、NYで観たポップアート。それらがぐにゃぐにゃと混ざり、彼の脳裏に表れました。
彼の絵をご覧ください。幼少期に見た戦闘機、ミッキーマウス、好きだった漫画のキャラクター。当時の恐ろしい記憶といろいろなものが融合して、姿を現しています。
このような体験を経て、彼の人生そのものが、独自の世界の中に盛り込まれています。心の奥底にある記憶や想いが、彼の思い描く世界観とともに、様々な要素を取り込んで作品の形となるのでしょう。
ここでギャラリーの展示会情報のページより、田名網氏の言葉を紹介します。
「暗い過去の体験も自身の性格によってポジティヴな表現に変換してしまう」
この言葉の意味が、彼の生き方、そして作品からはっきりと伝わって来ますね。
今、皆様の心の奥底には何が見えますか? もし辛い経験が見えても、ポジティヴな方向に変換できたら、同様に有意義な人生を送れるかもしれません。
◇田名網敬一 (たなあみけいいち)「夜桜の散る宵闇」◇
期間:2014年10月25日(土)〜12月13日(土)
時間:11:00-19:00/月・日祝休
場所:NANZUKA
東京都渋谷区渋谷2-17-3 渋谷アイビスビルB1F
URL: http://nug.jp/jp/top/
料金:無料
田名網敬一/http://keiichitanaami.com/jp/
1936年、東京生まれ。武蔵野美術大学を卒業。1960年代よりグラフィックデザイナーをはじめ、ジャンルに捕らわれず様々な創作活動をしてきた孤高のアーティスト。1960年代半ばにはサイケデリックカルチャーやポップアートに触れ、アニメーション作品からシルクスクリーン、漫画的なイラストレーション、コラージュ、実験映画、ペインティング、立体作品まで幅広い制作活動を行っている。国際的評価も高まっており、2015年にはアメリカのWalker Art CenterやDallas Museum of Art、Philadelphia Museum of Artを巡回するポップアートの大回顧展「International Pop」展への参加の予定もある。
※NANZUKAでは、毎年、田名網敬一氏の個展を開催していて、来年も開催予定とのことです。
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