2014.07.03

ウィトルウィウス的解剖図

「美の基準」「人間」「壮大なメッセージ」

 

2014年6月19日(木曜日)もわっとした空

 

 野村康生さんの『ウィトルウィウス的解剖図』を見に丸の内のH.P.FRANCE WINDOW GALLERYへ行ってきました。通りに面したウィンドウには、つい足を止めて魅入ってしまう大きな立体作品があり、他にもレオナルド・ダ・ヴィンチの『ウィトルウィウス的人体図』を基に描いたドローイングと、ウィンドウの縮小版のオブジェがありました。野村さんの作品を一文字で表すと「美」。その洗練された美しさには、細かく分析された美の法則があったことをインタビューの中で知りました。

 

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「花びらの数は決まっている」ということを知っていますか。
自然界には、フィボナッチ数列というのがあって花びらは、3枚、5枚、8枚・・・、と決まった枚数になっています。その自然界の法則が野村さんの作品と関係があることを垣間見てとても衝撃的でした。

 

 レオナルド・ダ・ヴィンチの『ウィトルウィウス的人体図』は、マルクス・ウィトルウィウス・ポッリオの建築論に影響を受け描いたものです。ウィトルウィウスは視覚的な美しさとして「調和数列」を建築美として説いた古代ローマの著名な建築家です。その約1500年後にダ・ヴィンチが登場し、「等比数列(黄金比)」を美の基準として用いたというわけです。

 

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 ところが一般的に広まっている人体図の「身長:ヘソからつま先=1:黄金比」といった分析が間違っていることを、2000年以降に日本人研究者(向川惣一さん)によって明らかにされます。向川さんの20年に渡る研究はダ・ヴィンチの人体図が「調和数列」と「等比数列(黄金比)」の両方をより高度なレベルで適用していることを解明したのです。その新しい大発見を野村さんが自分の伝えたいこととリンクさせて作品にしています。「調和数列」と「等比数列(黄金比)」のハーモニーを融合させた大傑作です。

 

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 壁面に設置した立体は「調和数列」で、ガラス面には「等比数列」のモジュールが描かれています。一方が収束、もう一方が拡散という数学的に相反する性質を表わす中で、はじめ成立していなかったものがある一点でぴったりと重なり、美しく調和のとれたものに変わるのです。数学的な理解抜きに体感的、視覚的に捉えられ圧巻です。この作品は、フランスの建築家ル・コルビュジエの「モデュロール」という造語にちなんで「Harmodulor 調和黄金尺」というタイトルとなっています。

 

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 野村さんにはインタビューで、ダ・ヴィンチの絵が「等比数列(黄金比)」でなかった事実や、作品への想いを語ってもらいました。

 

 現代の芸術は何を基準として「いい作品」として評価されているか曖昧だ。世界でもっとも知られた『モナ・リザ』や葛飾北斎の『富嶽三十六景』は、「幾何学」を使って綿密に計算して描かれている。感覚的なものを美しいとするのも芸術だけれど、私は根底に宿る整合性を求めたい。過去の歴史を振り返ってみても古代ローマやルネサンス期に制作された芸術は、そういった数学的に計算されて描かれているものが多い。

 

 感覚と計算。表と裏。生と死。戦争と平和。この真逆の性質のものが融合する点があるのをダ・ヴィンチの芸術を通して発見した。それが今回の作品の「Harmodulor 調和黄金尺」。「調和数列=収束」と「等比数列(黄金比)=拡散」、常にパラダイム転換の可能性を内包した動的平衡状態のモデルを構築すること。ウィンドウに飾られた立体を見てもらうと、あるポイントでぴったりと重なるところがあるのが分かる。足を止めて作品に触れることで自分の中のスイッチがあることに気づいて探してほしい。なんでここに存るのか。働いているのか。人生について考えてほしい。

 

 古代の哲学者は幾何学を通して自然界を説明していた。円は宇宙。正方形は地球。その図形の中に人間が収まっている。人間は神の産物で地球上の自然が生み出している。だから地球の中に人間がいる。そして、人間が手を広げたときに宇宙と地球をつなぐ存在として円の中間に収まる。人間のパーツは宇宙を作っている比率(フィボナッチ数列)と相似関係になってる。その美しい自然、生態学が理なす「美しい営み」とされるものは、資本主義の発展により懐疑されている部分がある。しかし、もう一度根源に基づいて宗教・科学・芸術を捉えた時に、その「美しい営み」を今のこの時代にも持ってこれるのではないだろうか。宗教の隔たりもなくそれが融合するような社会ができたらいいなという願いがあり、生きている間にこの作品の成果を自分で確かめたい。

 

 宇宙と地球を結ぶ人間はどういう選択をしていくのか。

 

 広く世界中の人々にアーティストの視点から問いかけを発信する野村さん。作品の根底にある野村さんの哲学に触れ、ただ者じゃないと感じて鳥肌たくさんの今回の「友華乃ぶらりアート」でした。

 

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『ウィトルウィウス的解剖図』 by 野村康生
期間:2014年5月23日~7月31日
   (7月1日より展示替えを行う予定)
時間:平日11:00 ~ 21:00
   日曜祝日20:00閉廊
場所:H.P.FRANCE WINDOW GALLERY
   東京都千代田区丸の内2-4-1
   丸の内ビルディング1F
   TEL: 03-3797-1507
料金:無料
HP:http://hpgrpgallery.com/window/

 

野村康生 (Yasuo Nomura) 

1979年島根県生まれ。2004年武蔵野美術大学造形学部油絵科卒業。
「科学・宗教・芸術」を人類史における原初的な同一の行為として捉え直し、芸術の視点から現代に適合しうる本質的な「美の基準」を提唱することを理念としている。近年では、科学的なアプローチを行っている巨匠の作品を解体し再解釈を進めるシリーズや、相反する事象を同居させるインタラクティブなインスタレーション、科学(数学)の基礎でありながら未だ解明されていない「素数」を利用した作品などを展開している。

HP:http://yasuonomura.com

 

《次回の個展》
”Paradigm Equinox”
期間:2014年9月19日(金) -~10月1日(水)
時間:12:00 ~ 20:00 (最終日~17:00 / 木曜定休)
場所:新宿眼科画廊
   東京都新宿区新宿5-18-11
HP:http://www.gankagarou.com


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