- 2015.05.02
かもめブックス
2015年4月11日(土) ライター・小松 一世
「ソトコト。トーキョー新ものづくり展」がお目当てで足をはこんだことから、素敵なブックカフェとの出会いがありました。
場所は東京メトロ・神楽坂駅のすぐそば。
一見すると通り沿いによくあるカフェのような、街中のフツーの本屋さんのような・・・確かにカフェであり本屋さんではあるのだけれど、でも普通とはちょっと違う、この心地良い違和感は何かしら?
不思議なワクワク感を抱きながら店内を進むと、あっという間にこのお店の虜に。
最初に目に留まったのは店内のPOPです。よく見るとすべてお店のオリジナル。いわゆる新刊案内や○○フェアといった出版社発の広告物は見当たりません。落ち着いて感じられるのは、店全体に統一感があるためでしょう。
シンプルで美しいデザインのPOPはすべてスタッフのみなさんで作成しているとのこと。
置かれている書籍類にも店独自の拘りが窺えます。新刊がずらりと平積みされているようなスペースはなく、どのコーナーにも独特のセレクトによる書籍が並んでいました。棚にさり気なく添えられた見出しにも惹かれます。
お店のマネージャー・井上美代子さんのお話をうかがって、ようやく謎が解けました。
実はこの『かもめブックス』の運営母体は、校正・校閲の専門会社なのだそうです。元々この場所にあった書店が閉店してしまった時、「街の書店が潰れるということは、その街の出版文化が衰退してしまうことだ」と、出版に携わる者としての危機感を抱き、何かできないかと考えたというのです。
とは言え、一度書店が閉店した場所で再び同じ業種の店舗を開くのはそれなりにリスキーでもあります。
「日常的に本を読まない人に対して、本をたくさん並べて、どうぞもっと読んで下さいと言っても難しい。じゃあどうすれば本にアプローチしてもらえるだろう?」と考えたとき、「出会いのシーンをいっぱい用意してあげる」ことに思い至ったと。様々な偶然の出会いを提供する場所。そんな想いから、書店+カフェ+ギャラリーの組み合わせという構想が生まれたのだそうです。
「仕事がうまくいかなかった日に、飲みに行く元気はないし、誰かと会う約束をするのもちょっと違う」というとき、ふらりと立ち寄れる本屋さんがあって、本棚を見て回りながら色んなことに興味が湧いて、ギャラリーで創作のエネルギーに触れ、最後に美味しい珈琲を飲んで帰る・・・そんな空間を創りたいとの想いがあったと、熱く語ってくださった井上さん。
本との出会いの伏線となるように、さり気なく工夫されたディスプレイにもセンスが光ります。厳選された書籍類の傾向にマッチしたステーショナリーグッズなども販売されていました。
ちなみに書棚の中身は毎日何かしら置き換えられているそうで、併せてPOP類も変わります。例えば「かもめブックスの1週間」という興味深いコーナー。(月~日と祝日のコーナーがあります)
“月曜日” にしても、「始まるぞー」という元気な日もあれば、「また始まっちゃったよー」というちょっと疲れた日もある。月初めや月末でも違うだろうし、季節によっても違う。そんなリアリティのあるスパイスが僅かに加味されているから、書棚のセレクトの意図も伝わり、店とゲストの距離感がぐっと縮まるのでしょう。
一方、書店としてはかなり冒険的な取り組みもありました。それは「シークレットブック」と言うコーナーです。テーマに沿って選書した本を、書名と著者名を伏せ、スタッフの推薦テキストだけでお客様に選んでもらおうという企画なのだそう。思いがけない本に出会う事ができそうです。意外にリピート買いするゲストの方も多いとか。
さて、すっかり書店に見惚れてしまいましたが、そもそものお目当てだった「ソトコト。トーキョー新ものづくり展」を覗きましょう。
細長い書店スペースを通り抜けた突き当たりがギャラリー『ondo kagurazaka』です。
今回の展示は雑誌『ソトコト』(木楽舎)5月号の特集「トーキョーつながる観光案内」に合わせた企画展でした。都内で拘りをもって活躍する伝統工芸などの作り手の方々の作品を紹介するページから飛び出した作品展なのですが、実はここにも『かもめブックス』らしいエピソードがありました!
きっかけは、雑誌『ソトコト』が本誌特集ページの取材として『かもめブックス』に訪れたことだったそうです。その時に『ソトコト』らしい視点で選ばれたつくり手さんたちの紹介記事見本を見た井上さんが「この作品群を実際に見ることができたらもっと楽しい!」と提案。そこから話がふくらんで実施に至ったとのこと。
紹介されていたのは6組の作り手さんたちです。
◆「comment?」(大正7年創業の『廣瀬染工場』の4代目が伝統の江戸小紋を広く知ってもらうために立ち上げたストールブランド/新宿)
◆「民具木平」(現代民具というアプローチから生活様式全般を考察し、製品や空間などを提案するデザインレーベル/木場)
◆「B6studio」(2010年設立のプロダクトデザインユニット/成城)
◆「コタコタ」(点字印刷をしている就労継続支援B型施設「チャレンジ」とデザイナーによる点字印刷を使った新しいプロダクトを生み出す試み/荻窪)
◆「トートーニー」(身体の一部のように感じるはきものと日常生活に寄り添ってくれるような革ものがコンセプトのブランド/浅草)
◆「BYOB Factory」(日本初のBicycle Frame Buildingのためのレンタルスペースとオリジナルフレームの製作/落合)
モノへの拘りや、セレクトする視点に共通項があるからでしょうか? 書店との連動がとても自然で心地良いギャラリー空間となっていました。
今回のような雑誌との共同企画は既述の経緯のとおり些かイレギュラーで、通常は『かもめブックス』による自主企画と、ギャラリー『ondo tosabori』との共同企画が半々位で展開されるそうです。
『ondo tosabori』とは、大阪のデザイン会社が運営するギャラリー。またまた、ここにも興味深いエピソードが!
『かもめブックス』開店にあたってロゴ制作の依頼をしたデザイン会社がギャラリーも展開していたことから「東西二拠点でのギャラリー共同運営」の案が生まれたのだそうです。
関西のアーティストにとっては東京でも個展を開けるチャンスが増え、『かもめブックス』のゲストにとっては関西の新鋭アーティストの作品に出会う機会が生まれたわけです。やっぱり『かもめブックス』は、“様々な偶然の出会いを提供する場所”でした。
さて、最後はもうひとつの拘りであるカフェコーナーへ。
京都で自家焙煎珈琲豆専門店を営む『WEEKENDERS COFFEE』と提携して展開されています。
ハンドドリップのコーヒーは、ブレンドとシングルオリジン豆が4~5種類あります。私は「マンゴーの心地良い余韻」と書かれたシングルオリジンの『パナマ』をいただきました。そして「あれこれ楽しみたい欲張り」なので『クッキーモンスター』もセレクト。
雨上がりの風景や、本を選ぶ人の後姿をぼんやり眺めながらいただくコーヒーは格別です。
「本屋に美味しい珈琲があるということは、BOOKS ARE ALL RIGHT! 本も大丈夫ってこと」という『かもめブックス』のメッセージにも大いに頷けました。
ちなみに夜は10時までオープン。
ハートランド生ビールがいただけるのも嬉しい♪
【かもめブックス】
営業時間:月曜~土曜=午前10時~午後10時、日曜=午前11時~午後8時
定休日:不定休
所在地:東京都新宿区矢来町123 第一矢来ビル1階
http://kamomebooks.jp/
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