- 2015.04.21
『ブルーノ・ムナーリ展 ~絵本・遊具・グラフィックを中心に』
2015年4月11日(土) ライター・小松 一世
都内でブルーノ・ムナーリ展を開催中と知り、早速行って参りました。
場所は四谷ひろば内のギャラリー、CCAAアートプラザです。
廃校を活用した四谷ひろばは、校舎の雰囲気がそのまま残されていて懐かしい雰囲気を醸しています。「図工室」の表示に導かれつつギャラリーへ。
用意されたスリッパに履き替え、下足入れに靴をしまって地階へ降ります。
展示は5つのコーナーに分かれていました。会場に入ってすぐの「グラフィックデザイナー」と題された2部屋は、デザイナーとしてのムナーリの作品が並びます。
最初の部屋には、コピー機を利用した作品『ゼログラフィーア』や、ロゴタイプを加工して“判読可能性限度”を探ったという『カンパリ』、シルクスクリーン作品群が展示されていました。
例えば『ゼログラフィーア』は、彼らしいユーモアセンスが窺える作品です。様々な切り口で『役に立たない機械』を見せてくれたムナーリが、複写することを機能とするコピー機を使って唯一無二の作品づくりに取り組んでいます。
『カンパリ』は、アートとデザインの境界に挑んでいるように感じました。主観で創られるアートと、コミュニケーションを目的とするデザインの違いをロゴタイプの“判読可能性限度”で推しはかっているかのようです。
シルクスクリーン作品群からも、色、形、素材・・・デザインに留まらない創作の要素が示されているように感じました。
次の部屋のグラフィック作品は『陰と陽』のシリーズです。
シンプルな形と色、直線のみのシンプルなコンポジション。会場の注釈には「ムナーリはグラフィックアートの作品を通じて、絵画を成り立たせている要素を探求しました。(中略)『陰と陽』の意味するところが理解できれば、静物画、風景画、人物画などを鑑賞することはそんなに難しいものは思わなくなるでしょう」とありました。
廊下スペースを使って紹介されているのは、1985年にこどもの城で行なわれたムナーリのワークショップの記録です。
美術家でありグラフィックやプロダクトにも卓越したデザイン界の巨匠と言われるムナーリですが、私はやはり絵本作家としての印象が色濃く、言語表現のみならず視覚表現、こどもの美的感性を育てることに注力した彼の功績にこそ惹かれます。その意味でも、この『アートとあそぼう』はひじょうに興味深い展示でした。
『木をつくろう』では、樹木の成長から法則と個性を見出し、表現活動へと導いています。観察と考察、そして表現。自然を知り、道具を使って表わす。体験によって教育のすべてが集約されていることに瞠目させられます。最近注目されているレッジョ・エミリア教育などのルーツもここにあるように感じました。
こどもの城での6つのワークショップ『コラージュ』『テクスチャー』『さまざまなかたち』『直接の映写』、そしてムナーリ自身がこどもたちと一緒に制作した線の表現作品も展示されています。
『線で表現する』は、使用する筆の太さや質による表現の違いを知り、オリジナルの線描を試すワークショップです。点線や波線などの画一的な表現に留まらない子どもたちの柔軟な発想が引き出されていました。子どもたちにとってこの体験がその後の表現活動に大きな広がりを見せるであろうことは容易に想像できました。ムナーリ直筆の作品を今、日本で見ることができるのはまさにここだけです!
ワークショップ事例をなぞった後に、実際にムナーリの制作した遊具を手にとって体験できるという点も今回の展示会の特長です。それが次の部屋『子どもと一緒にあそぶ人』です。
息子に気に入った絵本を与えたいという想いから絵本づくり、さらには遊具づくりに取り組んでいったというムナーリ。いくつもの遊具が商品化されていますが、これらが1950~70年代につくられたものだということに驚きました。
今見てもちっとも古さを感じないどころか、洗練された遊具の数々!これで遊びながら育った子どもたちが羨ましくてなりませんでした。
そしてその貴重な遊具を実際に手に取って試せるという今回の贅沢な企画にも脱帽です。50年程も前のものとは思えぬ程きれいな状態で残されていることにも、それを惜しげなく触らせていただけることにも驚きました。懐かしさを喚起する木の床の教室、白壁に整然と並べられた遊具見本、保護者の見守り用でしょうか隅にはソファも配置され、あたたかな空間が遊びにくる子どもたちを待ち構えているようでした。
実際に遊具に触れてみたら・・・ついつい没頭してしまいました!
たとえば四角いカードを差し込みながら立体を組み立てる遊具。最近で言えばレゴなどにも通じる遊び方かもしれませんが、紙の何とも言えない柔らかな手触りがこの遊具ならではの魅力です。石畳や木目など日常風景を連想させるグラフィカルな柄の装飾も創造力を刺激します。迷路をつくったり、家を建てたり、公園を演出したり・・・様々な見たて遊びに広がることでしょう。四角形と対角線で構成されているので、遊びながら自然に図形の規則性を学べる利点もあり、ムナーリの教育者としての視点が窺えました。
ライトテーブルに載せたフィルムを重ねながら自由に絵作りを楽しむカード遊び『プラス・マイナス』も秀逸です。シンプルなイラストはどれもセンスに満ちていて、次々手に取ってみたくなります。草木や家のシルエット、月と太陽と雲、そして雨など、風景を描くための最小限のイラストと、犬やコウモリ、傘を持った人、車などのパーツが用意されています。個々のレイアウトが絶妙で、一枚の場面絵を考えるだけでも楽しめます。線や形の美しさ、色彩構成やレイアウトなど、デザインの基本を遊びながら体で学べる仕掛けです。
重ね方を試しているうちに物語が頭に浮かんでくるところはこの遊具の仕掛けなのでしょう。背景色を替えることで昼から夜になったり、雨が降り出したり、犬が現れたり・・場面の変化を楽しんでいると、自然に創作の物語が口から零れてくるのです。ビジュアルの魅力によるところも大きく、大人でも十分に楽しめる、創造力を駆り立てられる遊具でした。
ちなみにこのフィルムの遊具(『プラス・マイナス』)だけは、現在でも購入可能だそうです。
そして『著述家』と題された最後の部屋にはムナーリの著作が並びます。
絵本から美術評論まで、実際に手にして読むことができます。
古い校舎の一角でアートの原点に触れる、貴重なひとときでした。
小さいお子さんや子育て中の方はもちろんのこと、創作に浸りたい方や童心にかえりたい方、そしてもちろんデザインを生業とする方々にもお薦めの展示会です。
【ブルーノ・ムナーリ展 ~絵本・遊具・グラフィックを中心に】
開催日:2015年4月1日(水)~29日(水・祝) (毎週木曜休館)
開催時間:午前10時~午後6時
会場:CCAAアートプラザ(東京都新宿区四谷4-20四谷ひろば内)
入館料:大人300円(小学生以上)、親子500円(3歳以上の未就学児1名)、親子600円(3歳以上の未就学児2名)
主催:NPO法人市民の芸術活動推進委員会、日本ブルーノ・ムナーリ協会
◆本展示終了後、5月からは一番奥の『著述家』の部屋をブルーノ・ムナーリの常設展示(有料)としてオープンする予定です。(2ヶ月程度の展示入れ替え)
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