2015.03.26

所正泰 Dolls 2 ─ 彼らの行方 ─

2015年3月15日(日) *湊 るい*

 

人形達の国に足を踏み入れた瞬間、昔読んだ童話の懐かしさが蘇る。彼らの伝えたい何かを掴むために、私はこの世界に迷い込む決心をした。

 

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こんにちは。春の暖かさが、じわじわやって来ましたね。皆様、お元気ですか?今日は散歩をしながら、お目当ての所正泰さんの個展を観に西麻布までやって来ました。タイトルは「Dolls 2 -彼らの行方」。さて、どんな人形達が出迎えてくれるのでしょう。そして、彼らの行方の意味とは?

 

階段を登り、開放感のあるガラス張りのギャラリーの前に到着しました。ガラスの向こう側に目を向けたその時。

 

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これは!??
広がる幻想的な風景。アンティーク感を纏った人形達。メルヘンの世界の扉が今まさに開きました。
湊 in ワンダーランド??

 

── 思考が違う国へと飛んでいたようです、失礼しました。
目の前にいたギャラリーの住人は、首から上は動物、首から下は人間の人形達。
なぜ頭部がウサギや羊なの!? なぜ?なぜなの? 教えて所さん!

 

ということで、溢れる好奇心にまかせつつ、作家の所さんにいろいろ話を伺いました。

 

まず、人形達のその姿について。
骨格は金属(真鍮)を中心にしたボールジョイント、次のようなアーマチュアと呼ばれる可動式骨格の関節人形を使用するのだそう。

 

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頭部・手足は木製、一部に石粉粘土などを使用しています。衣装は染色を施したオリジナルのデザインで縫製。制作時間は、一体につき平均2週間程。

 

頭部を動物にしている理由とは。
彼らは人物ではないけれど、少し近いものであり、擬人化として投影しやすい。つまり、想いを伝えやすいのです。頭を動物にしている理由は、ウサギ、羊などの立場の弱い動物をモチーフにすることにより、自身の弱い部分を投影しやすいのだと。

 

大学時代、イラストレーションや、コマ撮りのアニメなどの分野で活躍していた所さん。もともと、立体物を作ることが好きだった彼はやがて人形を作るようになりました。
更に深く話を聞いてみると、挫折をしていた時期もあったといいます。「時間があるのに何もしないのは勿体ない、昔からやってみたかったことに挑戦したい」という想い。消化しきれていなかったそれらの感情が衝動的に沸き起こり、彼らを作り始めたきっかけとなったのです。
彼らをよく見ると、所さんの様々な思いが、表情や佇まいにまで現れているようです。

 

頭部が草食動物、身体は中世ヨーロッパの紳士的な風貌。パッと見、草食系イケメン揃いの人形の皆さんですが、内には、そんな理由が隠れていたのですね。

 

ここで、一つの作品に注目してみましょう。

 

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こちらは、実はこの個展のサブタイトルでもある、「彼らの行方」という名前の作品。
一人で自分の世界を漂流している彼。手にした枯れてしまったデイジー(花言葉は夢、希望)は、枯れてしまった夢、希望を拾いあげて戻す、という意味を込めているのです。
自分の世界を彷徨う彼は、果たして夢と希望を取り戻すことが出来るのか、どこに向かっていくのか、とても気になりますね。

 

そういえば、みんな目をつぶっていますね。これはなぜなのでしょう?
目をとても重要な部分として捉えているのだそう。だからこそ、目を閉じて隠す=自分の内側に目を向ける。そして、自分と向き合うことで悩みを解決することにも繋がると。

 

彼らが着ている洋服も、特徴的です。
服の布地の一部は、紅茶やコーヒーで染めたり、ヤスリをかけて使い古し感を出したりしているそうです。彼らの世界観には、風化した雰囲気が必要なのだと。時間を経た空気は、確かにここにいるという存在感があります。また、後姿の腰元のシルエットにもこだわりがあるそう。確かにそのラインは人間に近く、とてもリアルです。
細部にわたるこだわりから、所さんの繊細さがひしひしと伝わってきますね。

 

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私と入れ違いにギャラリーを出た親子連れがいました。彼らは、以前、所さんの個展を観て、作品を気に入って購入された方のご友人だそうです。帰り際の彼らの笑顔を思い出すと、その理由が今なら分かる気がします。所さんの作り出す人形達は、大人にも子供にも愛される、不思議な力を持っています。

 

独自の世界を生きる彼ら。今日の出会いで、忘れかけていた何かを呼び戻されたような気分になりました。
あなたもしばし目を閉じて、今後の人生の航路について、内なる声に耳を傾けてみませんか?

 

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◇Dolls 2 -彼らの行方◇
期間:2015年3月14日(土)〜3月29日(日) 
時間:12:00-19:00/月休
場所:NANATASU GALLERY/東京都港区西麻布2-12-4 小倉ビル3F    
URL:http://www.nanatasu.jp/
料金:無料

 

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◇所正泰(トコロマサヤス)/http://tokoromasayasu.web.fc2.com/
2012年/2014年 第97回二科デザインポスター大賞のほか、数々の賞を受賞。グループ展の他、NANATASU GALLERYをはじめとする場所で個展を開催。アーマチュア(可動式骨格)をベースにオリジナルの人形を制作し、舞台制作やコマ撮りアニメの撮影もしている。 

 
 
 
 
 
 
 
 

※以下は、展示会情報ページより。作家の所正泰さんの言葉です。

 

彼らは静かにそこに在るが、そこには居ない
彼らは去ってゆく、自分も残して
次に見える少し大きな景色のために そしてまた行くのだろう
心の空白と何も聞き逃さない静かさを得て
すべてがある景色を見るために
作品を見るとき誰もが何かしらの思いを投影し          
作品と自身を行き来する。
そんな中で一瞬でもその外に出られる事ができたなら
彼らの行方が少し感じられるのかもしれません。

 

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