2015.03.13

印刷博物館 『大人のための活版ワークショップ』

2015年2月28日(土) 小松 一世(ライター)

 

お気に入りのミュージアム巡り、今回は“活版印刷”を体験しました。会場は印刷博物館内の工房「印刷の家」。凸版印刷(株)が運営する印刷博物館は、神田川沿いに聳えるTOPPAN小石川ビルの地下にあります。

 

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同博物館は、印刷の誕生から現代の最新技術まで、印刷の歴史を様々な趣向を凝らして紹介する総合展示だけでも存分に見応えがあるのですが、今回のお目当ては“活版体験”なので、まずは展示室の一角にある「印刷の家」へ。

 

ガラス張りの工房は、展示室からも中の様子がよく見えます。
扉をくぐると、ほんのりインクの香りがして、活字好きの心をくすぐります。

 

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今回私が参加したのは、活版印刷でオリジナル名刺を作成するワークショップ「くむ・する 名刺~片面印刷コース」です。同博物館のホームページからの申込みでしたが、実は限定4名の超スペシャルコースということで、結構な抽選倍率だったようです。
(今年の運をすべて使ったとしても惜しくない充実した内容でした!)

 

各自に1台用意された活版印刷機。作業台には事前に提出した名刺原稿の組見本が置かれていました。黒いエプロンをつけたら気分はジョバンニ!(『銀河鉄道の夜』の主人公) さて、早速ワークショップ開始です。

 

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はじめにインストラクターの前原さんから活字についてのレクチャーがありました。
活版印刷の歴史から、書体や大きさの説明などを実際の活字を触りながらうかがいました。
活字の大きさを示す「ポイント」は、最近のDTPにも踏襲されているので馴染みはあるものの、3.5ポイントの活字を手にしたら、その小ささにびっくり! 昔の職人技の凄さの一端を垣間みたようでした。

 

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文選(原稿に従ってケースから活字を採字する)→組版(=「植字」指定の形に組む)→印刷 という組版作業の流れを学んだら、いざ実践です。

 

工房の奥にずらりと並んだ活字棚。ここから必要な活字を拾っていくのですが、並び順が「1.使用頻度 2.部首」と、五十音順ではないあたりが素人には至難の業でした。

 

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原稿通りの活字が拾えたら、「ステッキ」と呼ばれる道具の中に文字を組みます。
字間や行間は「クワタ」「インテル」といった薄い金属を間に挟んで調節します。プロの職人さんなら一目見た感覚で出来てしまう作業なのでしょうが、これまた目分量で何度もやり直し…それはそれは緻密で根気のいる作業でした。
すべて組み終えたら、印刷機の枠に固定させます。トントンと木槌で叩いて活字を平らにならして、いよいよ仮刷りです。…と、ここで早速、誤植を発見! そしてまた組み直し…。ワンクリックで調整できてしまうDTPに慣れている身には、ただただ溜息が出るばかり。(ふぅ~) でも、この技術があってこそ現代のDTPシステムも生まれたのですもの、ね。

 

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校正と組み直しを何度か繰り返す間も、インストラクターの方はマンツーマンで根気良くご指導くださいます。ふと周りをみれば、他の参加者さんも皆、それぞれに楽しみながらも苦戦している様子でした。

 

印刷機のレバーをカパッと引いて、思い通りの印刷面が現れた時は、一気にテンションが上がります! 活字によって微妙な癖があったり、ほんの僅か曲がってしまったり…そういうサプライズも活版ならではの味わいです。

 

こうして3時間半に亘るワークショップで、無事100枚の名刺を刷り上げました。この達成感と言ったら! 仕上がった名刺が愛おしくて、配るのがちょっと惜しくなってしまいそうです(笑)。
インクが乾くのに一日かかるとのことで、名刺は蛇腹に折った用紙に挟んで持ち帰りとなりました。

 

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なお、ここにご紹介したワークショップは事前申込制でしたが、同博物館では当日先着順で参加できる無料講座も毎日開かれています。

 

毎週火・水曜は、工房内の施設見学を中心に簡単な印刷体験ができる「『知る』コース」、木~日曜・祝日は、コースターや一筆箋(季節に応じて変更あり)に文字を印刷するワークショップ「『つくる』コース」があります。
この日も、一筆箋をつくるワークショップにたくさんの方が参加されていました。

 

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工房のインストラクターには、長年活版印刷の職人さんとして第一線で活躍された方々もいらして、とても丁寧にご指導くださいます。
印刷技術はどんどん進化していますが、古き良き機器と技術をこうして継承し続けている場があるのは本当にすばらしいことだと思います。
今や簡単な印刷なら自宅のプリンターでも間に合ってしまう時代ですが、活版印刷の深い味わいは、ぜひとも多くの人に知って欲しいものです。

 

さて、印刷の歴史を学ぶなら、ぜひ総合展示へ!
錦絵工房や活版印刷工房がジオラマで紹介されていたり、ドイツのグーテンベルグミュージアムで想定復元されたという木製手引印刷機の縮小版が展示されていたり、はたまた0.75mmのマイクロブックといった最新技術まで、印刷技術の移り変わりを観ることができます。
また、4月からは企画展『ヴァチカン教皇庁図書館展Ⅱ~書物がひらくルネサンス』も予定されているということですので、乞うご期待。

 

【印刷博物館】
開館時間:午前10時~午後6時(入場は午後5時30分まで)
休館日: 月曜日(ただし祝日の場合は翌日)
所在地:東京都文京区水道1丁目3番3号 トッパン小石川ビル(TEL:03-5840-2300/FAX:03-5840-1567)
入場料:一般 300円、学生 200円、中高生 100円、小学生以下無料(特別展は別途/団体割引あり)
http://www.printing-museum.org/

 

◆P&Pギャラリー『みんなにうれしいカタチ展~日本発ユニバーサルデザイン2015』
会期:2015年3月3日(火)~5月24日(日)
開館時間:午前10時~午後6時
入場料:無料(印刷博物館本展示場に入場の際は別途入場料が必要)

 

今後の予定:
企画展示『ヴァチカン教皇庁図書館展Ⅱ~書物がひらくルネサンス』
会期:2015年4月25日(土)~7月12日(日)
開館時間:午前10時~午後6時(入場は午後5時30分まで)
入場料:一般 800円、学生 500円、中高生 300円、小学生以下無料(団体割引あり)

 


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