2016.03.03

魔女の秘密展

人々を魅了する魔女の秘密

 

2016年2月27日(土) 佐藤愛美

 
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流行の発信地、原宿。

 

天気の良い土曜日の午後は、明治通りが多くの人で埋め尽くされている。四方八方へ行き交う人々にぶつからないよう注意しながら、目的地のラフォーレ原宿に辿り着いた。
原宿を代表するこのファッションビルの中には、二十代の女性をターゲットにした流行のファッションブランドが多数揃っている。カラフルな春の新作を横目で見ながらエスカレーターで上階を目指すと、インパクトのあるポスターが目に入った。

 
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『魔女の秘密展 ”魔女”とは誰だったのか?』

 

黒猫、ほうき、ちょっと変わった書体でデザインされた展示のタイトル。
“魔女”と聞いて何をイメージするだろうか?

 

私はギリギリ「魔法使いサリー」と「ひみつのアッコちゃん」が分かる世代だ。宮崎監督の名作「魔女の宅急便」は何度見てもラストで泣ける。
私にとって魔女とは、非現実的でファンタジックな存在。ちょっと怖いけれど、不思議な魅力で人をワクワクさせてくれる、お伽話にはかかせないキーパーソンだ。魔法少女というモチーフが、アニメファンの間で根強い人気を保ち続けていることにも納得できる。

 
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会場内は4つのエリアに分かれ、魔女にまつわる絵画や資料、道具などが展示されている。薄暗い会場の中には、至る所に魔女を感じさせるような仕掛けがしてあり、来場者を中世ヨーロッパの独特な世界観の中に惹きこんでいく。

 
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1つ目のテーマは「信じる」。
かつて、科学技術が発達する前のヨーロッパでは、人々は魔女の存在を疑わなかった。超自然的な力を有し、人々に災いをもたらすのが魔女であると信じられていたようだ。そのため、魔女の厄災から身を守ろうと様々なお守りやお札が生み出された。モグラの前脚が健康のお守りとして使用されていたことには驚いた。

 

恐れられていた一方で、得体のしれない魔女という存在は不思議な魅力で人々を惹きつけた。薬草の力で病を治したり、空を飛んだり。どの時代でも人は、人智を超えるものに畏敬の念を抱くのかもしれない。

 

女性が魔女になるためには、「サバト」という密会で悪魔と契約をする必要があるらしい。そういった謎めいた集会に、密かに興味を抱く女性は少なくなかったのでは……?と想像してしまった。

 

2つ目のテーマは「盲信する」。
人々の中で魔女に対するイメージが大きく変わったのは、16世紀以降のことだった。
冷害による農作物の不作。ペストの大流行。宗教戦争。
多くの苦しみと不安がヨーロッパ諸国の人々に襲い掛かった時代であった。

 

これまで忌み嫌われながらも、どこか人々を魅了していた魔女は、時代の変化に伴い「憎悪の対象」として見なされるようになったという。

 

かの有名な魔女裁判。ジャンヌダルクが火あぶりになったエピソードは日本でも多くの人に知られている。魔女と疑われた人々が捉えられ、拷問により自白を強要、そして処刑された。こういった魔女狩りは、ヨーロッパの国々で大勢の犠牲者を生んだ。ドイツだけで25,000人もの<魔女>が処刑されたと記録されている。

 
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魔女狩りで標的になったのが、社会的に弱い立場にあった人々であるという事実には衝撃を受けた。悪い魔女とは、人々が不安から逃げるために作られた虚像であり、スケープゴートだったのだ。

 

3つ目のテーマは「裁く」。
魔女狩りは次第にエスカレートし、被告人が魔女であると自白するまで審問と拷問が続いたそうだ。実際に使用されていた拷問具も展示されていた。写真は、「棘のある椅子」。

 
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最初は自身の潔白を強く主張していた人も、何回も続く審問と拷問に疲弊し、暗示をかけられたように身に覚えのないはずの罪を自白する。しかし、これらの道具は実際には使用されておらず、あくまでも脅しとして使われていたという説もあるそうだ。

 
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当時の審問をリアルに体験できるのがこちら。
映像の審問官が私に語りかける。

 

「魔女ではない?そんな釈明が許されると思っているのか?」
「自白しなさい。罪を認めなさい」
「本当のことをすべて話したら、命は救われる」
「おまえは拷問を受けるのだ」

 

体験だと分かっているのに、つらい。
当時、魔女として審問にかけられた人たちが意に反して自白してしまう気持ちがよく分かった。

 
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最後のテーマは「想う」。

 

18世紀を迎える頃、科学の進歩と共に魔女狩りは終わりを迎える。
そして、魔女が再び人々を魅了する時代がやってきた。
童話の中のファンタジーとして、絵画のモチーフとして、人々の生活の中に息づくようになった魔女。
現代の日本でも、私たちを楽しませてくれる文化の一部としてアニメや漫画の中に登場する。憧れの存在であり、時に人を癒す存在でもある。私が幼い頃に出会った「魔女の宅急便」のキキも、そんな魔女の一人だろう。

 

「”魔女”とは誰だったのか?」
出口にて、サブタイトルの文言に再会する。

 

人々の中の魔女像は、時代背景によって変化する。
時には憎悪の対象として、時には癒しを与える憧れのヒロインとして。
人が安心してその時代を生きるために、都合の良いイメージを着せられた対象が「魔女」と呼ばれているのかもしれない。

 

大きな帽子とマントをつけていなくても、自分の身の回りにも「魔女」はいるのではないだろうか。
少し変わった人や、弱い立場にある人がスケープゴートとして仕立て上げられる問題は、学校に、職場に、世界の国々のあらゆる場所で起こりうる。形を変えた魔女狩りだ。

 

「魔女の秘密展」は、多面的に魔女の姿を見せてくれた。
そして、現代社会を生きる私たちに、チクリと棘を刺してくれたのかもしれない。

 
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「魔女の秘密展」
会場:ラフォーレミュージアム原宿
   東京都渋谷区神宮前1-11-6 ラフォーレ原宿6F(東京メトロ 明治神宮前駅徒歩1分)
期間:2016年2月19日(金)~3月13日(日)11:00-19:00
入場は18:30まで。最終日は17:00閉場のため、入場は16:30まで
観覧料:一般 1,200円 中高生 1,000円 小学生 200円

http://majo-himitsu.com
問い合わせ/ハローダイヤル 03-5777-8600(8:00~22:00)