- 2014.12.03
ニューヨーク・ブルックリンの秋、追憶としての2014年11月
〜第1回ウィリアムズバーグ・静かな情熱が集まる場所〜
ウィリアムズバーグ(最寄り駅は、L-lineのBedford Av)は、19世紀にはごく普通の工場地帯だったのだが、21世紀に入る頃から再開発が進み、今ではニューヨークで一番の「おしゃれスポット」と書くメディアもある。実際に街は、歩いている人も含めてとても洗練されている。東京でいうと、ちょっと代官山に近い雰囲気がある。街の中心部から小春日和のイーストリバーへ向かって散策した。イーストリバー・ステートパークからは川向こうのマンハッタンの高層ビル群が見渡せる。絶景なのにガイドブックにも載っていないのだろう、日曜日なのに観光客はおろか地元の人も誰もいない。
イーストリバー・ステートパークからほど近い交差点の路上、というより地べたから蝶ネクタイ姿の紳士の視線を感じた。とても緻密に描かれた彼は、F・スコット・フィッツジェラルドの小説「グレート・ギャッツビー」に登場するニック・キャラウェイを僕に想起させた。そういえば、ニックもまたニューヨークに住んでいたはずだ。もちろん彼は架空の人物だが。
高感度なショップと地ビールの醸造所が共存しているところも、ウィリアムズバーグの良さだろう。1988年の開業以来、ブルックリン地元民の圧倒的な支持と他の州からの観光客で賑わっているということだ。
このブルックリン・ブリュワーズ以外にもニューヨークには、ブルーポイント・ブリュワリーなどたくさんのブリュワリーがあるが、最も成功しているのがブルックリン・ブリュワーズだ。味のクオリティはもちろんだが、その他にも勝因はいろいろと言われている。
例えば、地元のアートイベント・音楽フェスに協賛してビールを無料で配りコミュニティとのつながりを作ったり、他のブリュワリーが流通などを専門業者に委託したのに、マーケティングから配送まですべて自社で行ったことなどだ。そして何よりもウィリアムズバーグのハンドメイドやロカヴォア(地産地消)に価値を見出す気風が、成功を後押ししたと言えるだろう。
週末しかオープンしないArtists & Fleas。ここは地元ブルックリンのクリエイターたちの作品の販売の場であり、出会いの場でもある。ここに出店している、Lovewild Designのオーナーのシエラと話すことができた。
Lovewild Designはブランドの商品開発を始めて1年、マーケットで実際に販売をするようになってまだ半年。当初はお客さんの希望に沿って商品をカスタムナイズしていたそうだ。しかし、それだと時間コストが高くなってしまうので、今後は、自分のカラーを100%だせて制作効率を上げられるリテールベースにしていきたいと話す。
いま、全米中からクリエイターが自分のブランドを作る足がかりにとブルックリンに集まってくる現象があると言われている。そんな訳で、ブルックリンで自分のブランドを持つのは、簡単なことなのか疑問に思ったので尋ねてみた。「全然、簡単ではなかったですね。経営的に成り立つかどうかもとても不安だった。でも徐々にお客さんにブランドが受け入れられていくのを目にしていくのは、すごくエキサイティングで嬉しいことです」。表情豊かに、ジェスチャーを交え彼女はこう答えてくれた。今後は、マーケットへの出店数を増やして取扱店を増やしていきたいと、キラキラした笑顔で話してくれた。
瓶詰めの商品「PIZZA,PIZZA “recipe dice“」(上記の写真参照)が、とてもユーモラスで気に入った。これは文字通りダイスを振って、ピザの具を決めるのだ。僕もよくあるけれど、自宅でピザを焼く時の具をどうするかというのは、パートナーや友人と揉めたりして意外と大変なことなのだ。誰のアイディア?と聞くと、勝ち誇ったようにシエラは言った。「もちろん、私よ!」
Lovewild Designは、ペーパーデザインだけではなく、フェイシャルクレーやディナーの時間を楽しく演出するダイスまで、使う人の生活の様々な場面をデザインするシエラ・カラー100%を出したブランドに成長しつつある。
ちょっとオフィス街のような交差点の角に「Mociun」という、ちょっと風変わりな綴りの店がある。アート&クラフトの店だ。というより、ディスプレイされている作品の多くは「民芸」的で、とても興味深い。
展示方法や、空間デザイン、それぞれが一見、普通だけど、ちょっと心の感度を上げると、実に綿密に計算されていることがわかる。販売されている作品は日本人作家のものもあると店のスタッフが教えてくれた。面白いのは店舗では作家名は表記されていないが、ウェブを覗くときちんと明記されている。こういったコンセプトも実に戦略的でいい。
ウィリアムズバーグ。
駅に降り立った時は、ロンドンのノッティングヒルにすごく雰囲気が近いと思った。
しかし、街を探索するうちに、ここは紛れなくもなくニューヨークであることがわかる。ヒップスターや、クリエイターが自然と集まってくるのもうなずける。
爆発的な何か新しい事がここから始まるとは思えない。
けれど人々はそれぞれ、静かな情熱を胸に抱き、
ここでその情熱を形にしようとしている。
East River State Park
住所: 90 Kent Avenue, Brooklyn, NY 11211
営業時間:May 1 – October 1: 9 AM – 9 PM
October 2 – April 31: 9 AM – 7 PM
http://nysparks.com/parks/155/details.aspx
Brooklyn Brewery
住所: 79 North 11th Street in Williamsburg, Brooklyn, 11249
営業時間: 月曜-木曜 見学ツアー 05:00pm (予約必須)、金曜 ドラフト試飲スペース06:00pm-11:00pm 土曜 ドラフト試飲スペース12:00pm-08:00pm/ 見学ツアー 1:00pm, 1:30pm, 2:00pm, 2:30pm, 3:00pm, 3:30pm, 4:00pm, 4:30, 5:00pm(予約不要)日曜 ドラフト試飲スペース12:00pm-06:00pm/ 見学ツアー 1:00pm, 1:30pm, 2:00pm, 2:30pm, 3:00pm, 3:30pm, 4:00pm(前日からのみ予約受付)
http://brooklynbrewery.com
Artists & Fleas, Williamsburg
住所: Williamsburg 70 North 7th St., Brooklyn, NY 11249
営業時間: 10:00AM – 7:00PM, 土日のみ
http://www.artistsandfleas.com/
Lovewild Design
住所:1002 Metropolitan Ave, Brooklyn, NY 11211 (スタジオ)
営業時間: 月-金 10:00am-06:00pm (事前予約必須)
http://www.lovewilddesign.com
Mociun
住所:224 Wythe Ave., Brooklyn, NY 11249
営業時間: 月-土 12:00pm – 8:00pm, 日曜 12:00pm – 7:00pm
http://mociun.com/
写真は上から順番に
*Bedford Av駅前通りの情景
*East River States Parkからマンハッタンを臨む
*路上に描かれた作品
***Brooklyn Brewery内の様子(Coursty of Brooklyn Brewery )
*Artists & Fleas外観
*Artists & Fleas内の出店ブースのLovewild designのシエラ
*Lovewild designのRecipe dice
***Mociun店内の様子
*バス停のサイン
取材・撮影・執筆 久保田 雄城
NYコーディネーター 野口 智美
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