2014.10.17

貧乏臭い蛍光灯 フェラーリをお持ちなんですか ディテールが美しいデニム 高速道路のゆるやかな渋滞(後編)

ボールペン[第2回]

 

「それから、これは思ってもみなかったんですが、性欲が強くなりました。私にはインド系アメリカ人の恋人がいるのですが彼女に指摘されて気づいたんです」。

 

バスの搭乗員は、代わりのバスは小一時間でやって来ると話していたけれど、もう一時間半近くたっていた。夜もすっかり明けて、今日も暑い一日になるだろう。

 

「そんな訳で、生活そのものもどんどん簡素になりました。ペンはペリカンのスーベレーンM800がステッドラーのトリプラス・ボールに代わって、靴もア・テストーニからアディダスに代わり、移動も国内の長距離は、JALから夜行バスに変わりました」。

 

そういえば、僕はトリプラス・ボールの四色セットを、どこで手に入れたのだろうか。きっと、何か、デザイナー向けのイベントの粗品だったのだろう。それぞれの色が、ちょっとくすんでいる。黒がフェラーリなら、赤はアメリカ人の恋人の口紅の色といったところだろうか。インド系アメリカ人というと、僕にはノラ・ジョーンズしか思い出せないが、確かにくすんだ赤のイメージが合う。

 

「考えてみれば、すべては結局受け止め方しだいです。どんな服を着ようが、何を食べようが、どこの国の女と寝ようが、同じです」。

 

どうして、初対面のこの僕に、彼はある意味において核心を突いたような話をするのだろう。エアコンが効いているはずなのに、僕は何だか居心地の悪い汗をかいている。

 

外の空気を吸おうと、彼に断って、休憩所を出て、建物のバックヤードのちょっとした森のようなところを散歩した。小鳥たちは、真夏の朝の喜ぶようにさえずっている。

 

僕は男とアメリカ人との将来についてぼんやりと考えてみる。彼女には夫がいて、11歳と3歳の男の子がいる。彼女は日本語を話すけれど、彼との会話はいつも英語だ。でも、第三者の日本人が加わると彼女の言葉は日本語に変わるという。

 

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席に戻ると、男は消えていた。缶コーヒーがそのまま残されていた。

 

ようやく、代わりのバスがやってきた。高速道路はゆるやかな渋滞の時間を迎えていた。このバスの中に男はいる。そう考えると、僕はなんとなく嫌な気分になった。

 

遮光カーテンをそっと明けると、くすんだ夜明けの中にステルス機のようなトリプラス・ボールの黒のフェラーリ・360モデナが静かに渋滞の中に佇んでいる。

 

(文・久保田雄城/写真・塩見徹)
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