2015.08.14

綴られた時間 第三回 神田神保町 アカシヤ書店

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東京・神田神保町 アカシヤ書店 文・写真 久保田雄城

 

「毃玉餘韵 全四巻(本因坊秀策手合集)」石谷廣策 1900年(明治33年)

 

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猛暑の東京、ここは神保町。僕はニコンを持って、この「昭和」に留まった街を仕事としてモノクロームで撮影していた。気だるい昼下がり、目を惹く書体で「アカシヤ書店」と書かれた古書店を見つける。

 

暴力的な夏の陽を避けるために、僕はふらふらとその店のドアを開ける。書棚に並ぶそのほとんどは囲碁や将棋のタイトルだ。中にはチェスについての洋書もある。レジに坐る店主とちょっと会話を交わして、カウンターの横に平積みで「毃玉餘韵 全四巻(本因坊秀策手合集)」という書籍を見つける。

 

本因坊秀策は1829年、今の広島・尾道に生まれた。その後江戸に渡り、囲碁棋士として名声を得た。そして1862年に江戸でコレラが大流行し、彼のまわりの多くの人も感染した。師である秀和が止めるのも聞かず秀策は患者の看病に当たり、自身が感染し死んだ。僅か33年の生涯だった。

 

人には持って生まれた使命があるのかもしれない。それが秀策の場合、人助けだったのだろう。彼にとって囲碁棋士はあくまでそこへの通過点にすぎないものだったのかもしれない。一世紀半前のここ東京・江戸で彼はどんな想いで、看病に当たったのかは、今となっては知る術はない。けれど、彼は気づいていたのかもしれない、自身の命を捨ててでも、人を助けることこそが彼の使命だと。

 

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私たちは有史以来、最も混沌とした時代に生きている。この30年間の世の中の変化のスピードは凄まじいものがある。特にテクノロジーの進歩は、私たちの情緒そのものもデータ化してしまったようにも思える。今日、インターネットを使えば東京からパリへ、ほとんどのモノは瞬時に送ることができる。私たちは「距離」を征服したように思える。実際、私の仕事を手伝ってくれる文筆家たちは、バンコック、ブリスベイン、ニューヨーク、ストックホルムに散在している。

 

けれど、どんな時代にも愛は変わらない。秀策がコレラ患者の看病をした愛も、この夏に出会った恋人たちの愛も、形を変えこそすれ、永遠に夏、という瞬間に生き続けるのだ。

 

そんな事をぼんやりと考えながら、1862年から遠く離れたここで、僕は「毃玉餘韵 全四巻(本因坊秀策手合集)」を手にとりページをめくる。

 

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アカシヤ書店
住所: 〒101-0052 東京都千代田区神田神保町1丁目8
電話:03-3219-4755
営業時間 月曜日~金曜日 11時~20時、日曜日・祝日11時~19時


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