2014.09.24

ギョギョギョ! 何気ない日常のひとコマを、空気感ごと切り取る[後編]

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石黒美穂子さん/フォトグラファー

 

“ギョギョギョ”さんこと石黒美穂子さんのもうひとつのライフワークに、パノラマ撮影がある。
 石黒さんのブログも参照してもらいたいのだが、空間を360℃ぐるりと切り取るパノラマ撮影は、見た目以上に手間がかかっている。大まかな手順を記すと、カメラを特殊な雲台に垂直の状態で固定し、90℃ごとに4枚撮影し、さらに三脚を外して床面を撮影、計5枚の写真をステッチング(合成)していく。目では見えないが、ほとんどの場合床には歪みがあり、カメラを垂直に固定するだけでもかなり気を遣うという。

 

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「撮影もステッチングも本当に難しいんですが、昔からパノラマ撮影が好きなんです。パノラマの楽しさは出来上がりにあります。撮っている瞬間ももちろん楽しいんですよ。でも、出来上がったときに、まるでその場にいるかのような臨場感のある写真になるんです。
 逆に、魚眼レンズの場合は、パノラマと比べると粗くなりますが、一発撮りならではのニュース性があるんですよね」

 

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 ところで、パノラマ写真というと、一般的には山や渓谷といった大自然を撮影するというイメージがあるが、石黒さん曰く「実は、狭い場所や閉ざされた空間を撮るのが面白いんですよ!」とのこと。

 

「大自然の中で撮ると、写っているのは空ばかり……なんてことも。それに、360℃を切り取るのがパノラマの醍醐味だから、片面だけが絵になるような場所ではダメなんです。意外かもしれませんが、雑貨ショップや古書店だったり、狭くてもぐるっと小さいモノが並んでいる所はすごく面白い絵が撮れます。本のタイトルまでくっきり写るんですよ。あとは、壁にたくさんメニューが貼ってあるような、カウンター席だけの小さな定食屋なんかも面白そうだなと思います。
 同じギャラリーでも、展示する作品が変われば雰囲気がガラッと変わったり、撮れば撮るほど奥が深くて面白い。人物が入ったパノラマ写真ももっと撮ってみたいですね」

 

 最後の質問として、カメラマンにとって必要なことは?と尋ねたところ「被写体に対する愛情、思い入れの強さですね」ときっぱり。
「どんなに優れた技術があっても、気持ちが入っていない写真にはトキメカないですね」

 

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 もともとは、音楽をこよなく愛し、いつか音楽関連の専門誌やCDジャケットの撮影がしたいとの想いからフォトグラファーの道を目指したという石黒さん。高校卒業後の3年間は印刷会社に勤務する傍ら、ライブハウスに通いながら好きなアーティスト達の撮影をしていたという。

 

「中学生の頃は(作文に)、将来はDJになりたいと書いていたことも(笑)。ライブハウスに通っていた時は、アーティストや事務所の方に直接交渉をして撮らせてもらったこともありました」

 

 平成元年よりプロのフォトグラファーとしての活動をスタートし、25年以上の月日が経った。レンズ越しに向き合うものは、人物やインテリア、料理……とその都度、異なるが、被写体に対して「好き」という、シンプルでまっすぐな愛情を注ぐスタイルは変わらない。
 いわゆる“フィルム世代”の石黒さんは、デジタルカメラに移行した当初は多くのフォトグラファーと同様に、戸惑いを感じたと当時を振り返る。しかし、ブログやFacebookを通して広がった“ギョギョギョ”やパノラマ写真は、デジタル化した今だからこそ生まれた、カメラの楽しみ方ではないだろうか。

 

 ひとは経験を積み、年齢を重ねるほどに価値観が固まってしまう…とはよく言われるが、時代の流れに寄り添うことができる軽やかさや、しなやかさを持ち続ける石黒さんに憧れる。

 

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プロフィール
石黒美穂子
高校卒業後OLからスタジオアシスタントを経て渡英、帰国後フリーランスに。女性誌を中心にインテリア、料理などのライフスタイル系をメインにポートレイトなど幅広く活躍中。撮影に加え、パンやインテリア、着物などの趣味を生かした企画制作も手がける。
http://mishiguro1964.blog.fc2.com/
http://www.cafeglobe.com/author/ishiguro_m/
https://www.facebook.com/mihoko.ishiguro.9

 

撮影協力:「Palaka」 東京都渋谷区神宮前3-42-2 9月末まで営業