2017.06.23

ヴァージニア・リー・バートンの『ちいさいおうち』

icon_burari20170602

ヴァージニア・リー・バートンの『ちいさいおうち』
─ 時代を超えて生き続けるメッセージ ─

 

2017年6月2日(金)渡邉 理絵

 

─ おうちの前で立ち止まって ─

 

ヴァージニア・リー・バートン(1909-1968)の絵本『ちいさいおうち』は1942年にアメリカで出版され、1954年に日本で翻訳・出版されました。静かな田舎の「ちいさいおうち」の周りがどんどん都市化し、最後には周りのビルや建物に隠れて見えなくなってしまった頃、持ち主の子孫が現れて「おうち」ごとお引っ越しし、「ちいさいおうち」がまた自然の中で生きていくという「おうち」が主人公のお話です。世界中で都市化・工業化によって多くの自然が失われ、生活が様変わりした20世紀そのものを象徴するようなこの物語は、現代にも通じるメッセージと、かわいらしい優しいタッチの絵と共に、世界中で多くの子供たちに読み継がれています。

 
ph_ouchi_01
 

東陽町・竹中工務店のビルの中にある「GALLERY A⁴(ギャラリー エークワッド)」では、会期中この『ちいさいおうち』を始め、ヴァージニア・リー・バートンの絵本の原画や、試作本、出版された本などが展示されているほか、デザインと版画の教室を開いていた彼女が、教室の生徒たちと立ち上げ、のちに全米中、世界でも知られるようになった芸術家グループ「フォリーコーブ・デザイナーズ(Folly Cove Designers)」が制作したテキスタイルやペーパーワークが展示されています。
外から見ると一見ギャラリーがあるようには見えない建物なのですが、「竹中工務店」のビルの中に入って大丈夫です。入ってすぐ右側にギャラリーの入口があります。

 
ph_ouchi_02
 

ギャラリー入口のパネルにある「ちいさいあな」に入ろうとしている、『マイク・マリガンとスチーム・ショベル』に出てくる少年を追いかけるように、その先には何があるのかワクワクしながら会場に入りました。

 
ph_ouchi_03

 
ph_ouchi_04
 

ギャラリー自体にはもともと何も仕切りがなく、企画展ごとに仕切りを作り込んでいるそうです。ヴァージニア・リー・バートンの世界観をよく表していて、思わず感嘆の声が出てしまいました。絵本の原画展で引き伸ばされた原画を見ることがありますが、絵本がそのまま立ち上がったような壁面構成の展覧会は初めてです。テキスタイルの作品も、パネルだけではなく、上から吊るして展示されていて、より魅力的に、カーテンやタペストリーを本当に見ているように感じられました。展示の仕方はさすが建築会社が母体のギャラリーだな、という印象を受けました。

 
ph_ouchi_05
 

さて、『ちいさいおうち』の原画のコーナーへ足を進めると、少し日本の翻訳版と色味が違うように感じました。絵本の展示コーナーで実物を比べてみてもやはり違いました。印刷のインクの違いでしょうか。印刷後の日焼けでしょうか。でも、日本語の翻訳文が英語の原文と同じ位置にレイアウトされていて、これには感動しました。

 
ph_ouchi_06

 
ph_ouchi_07
 

この展示コーナーでは『せいめいのれきし』という絵本のスケッチや、1964年4月に来日したバートンがかつら文庫(公益財団法人東京子ども図書館)を訪れた際に子供たちの前で描いた作品(原画)などが展示されていて、子供が読めるような小さな椅子とテーブルも用意されていて、思わず長居してしまいそうな可愛い快適な空間です。入口につながる「ちいさなあな」も発見。

 

ギャラリーの一番奥には、「ちいさいおうち」を再現したスペースもありました。
おうちの中には入ることができませんが、絵本の世界に飛びこんだような気持ちになります。そして、壁には都市化した後半のほうの挿絵がありました。絵本を読んだときは「都市にいる自分」が読んでいたのに、自分の立ち位置がおうち側にあることで、「おうちにいる自分」が読んでいるような気分になり、より深く考えさせられました。

 

展覧会の冒頭のパネルでGALLERY A⁴ 館長がバートンの言葉を紹介しています。
『これから先ちいさいおうちの周りにどのような時間が流れていくのか、今度はみなさんの考える番ですよ、主人公はあなたがたです』

 

まさに、その通り、こうした都市開発、自然保護、過疎化、空き家などの問題は今でも身近な問題です。また、この「ちいさいおうち」は家を建てた孫の孫のそのまた孫がこの「おうち」が取り残されていることに気が付き、新たな田舎へお引越しをしたことになっていますが、田舎の家を、家族がどのように守っていかなくてはいけないのか、身近な問題として考えさせられます。

 
ph_ouchi_08
 

また、もしヴァージニア・リー・バートンが生きていたら、この「ちいさなおうち」にテレビやパソコンは置くでしょうか。インターネットやソーシャルネットワークのこの時代を彼女ならどう捉えるでしょうか。実は、絵本作家でもあり、ダンサーでもあり、デザイナー、イラストレーター、ライターでもあり、そして教育者でもあったという多才な彼女。彼女のことを知れば知るほど、もっと知りたくなります。そして、一度立ち止まり、時代や生活を見直すことができたことに感謝し、もう一度彼女の絵本をめくりたいと思います。

 
ph_ouchi_09

左)作品所蔵:アリスティデス・デメトリアス  右)子供たちに語りかけるバートン 所蔵:ケープアン・ミュージアム

 

 
ph_ouchi_10_poster
 

ヴァージニア・リー・バートンの『ちいさいおうち』
─ 時代を超えて生き続けるメッセージ ─
会 期:2017年6月1日(木)~8月9日(水)
休館日:日曜・祝日
時 間:10:00 ~18:00(最終日は17:00まで)
会 場:GALLERY A⁴(ギャラリー エークワッド)東京都江東区新砂 1-1-1
入場料:無料
http://www.a-quad.jp